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第二章 マリーベル逃亡編

初恋 2

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それから私が連れてこられたのは、とある1件の建物の前。
私、食料品店って言いましたよね。
ブティック行きたいなんて一言も言ってませんよね?
そう、その店の雰囲気は、まるでブティックの様におしゃれで、かつ立派な建物でした。

「あの~、此処が食料品店なのですか?」

「そうだよ。」

嘘だ!絶対に嘘だ。
私が知っている食料品店は、こんな派手な店構えしていない。
でもよく見ると、確かにウインドゥには、
おしゃれなパッケージの缶詰や、見た事の無いフルーツ(?)が陳列されていた。
何故にまるでドレスのような顔をして、ここに大根が鎮座している。

大体にして、中に入っていく人達の人種が違う。
とてもきれいなドレスを着た夫人や、とても上質な生地で作られたお仕着せを着たメイドさん。
果ては、とても立派なおひげを生やした、いかにも三ツ星レストランのシェフらしき人が、次々と入っていく。
私みたいな洗いざらしたワンピースに、ちょっとシミの付いたエプロンで入っていく人なんて一人もいない。
だってしょうが無いじゃない。
近所のニコルさんの店に行くつもりだったんだもの。

「あの……。申し訳ありませんが、ここはちょっと………。」

「え、食料品店じゃ無かったの?
あぁ、肉屋とか……。」

「い、いいえ。
私の欲しかった物は、チーズとか、小麦粉とか、塩みたいなもので、
こんな高級品では……。」

「あぁ、それなら大丈夫。
ここで間違いないよ。」

おじさまはにこにこ笑いながら、ためらう私の手をぐいぐい引いて中へと入っていく。
だめ、きっとそこに山積みになっている缶詰一つ買っただけで、私の財布はすっからかんになる筈だ。

おじさまをチラッと見た店員が、慌てた様子で奥に入っていった。
すると、中から恰幅のいい男性が、こちらに走って来る。

「い、いらっしゃいませ。
これは急なお越しで、
今日はいかがなされました?
申し付けて頂ければ、こちらからすぐに伺いましたのに。」

「あぁ、いいんだ。
別に急ぐ用事でなかったから。
で、いいんだよね?」

そう言いながら、私に問う。
まな板の上の鯉状態の私は、コクコクと頷く事しかできなかった。

「えッと、確か小麦粉と、塩。それとチーズだっけ?
彼女はパン屋を営んでいるんだよ。
私は彼女のパンの大ファンでね。」

「何と、その若さでパン屋を。
分かりました。
御希望の品が見つかるよう、私もご協力いたしましょう。」

そう言って、店長さんらしきおじさんは、おじさまと私を奥のテーブルに連れて行き、座らせた。
すかさず出てくるお茶とケーキ。
私は此処に買い物に来たはず。
解せぬ。
それともここは、高級食料品店を装ったカフェか?

緊張して座っている私に、”ご馳走になりなさい?”と微笑みかけるおじさま。
優雅にカップを傾けるその姿が、はまり過ぎていてまぶしい。

やがて、私たちの前には多くの品物が並べられた。
たった3品の買い物になぜこんなに並ぶんだろう。
もしやついでにいろいろ買わせる気かも知れない。

やがて店長さんがその口を開いた。

「さて、まずは小麦粉からです。
こちらの小麦粉は、南地のシトラールで収獲されたものです。」

し、シトラールですって!?
あの噂の小麦粉ですか?
確かそれで作ったパンは、微かに自然の甘さがあるというあのシトラール産!?

「それからこちらは北州山脈の麓、コウラル産の小麦粉。
山脈が北風を遮るので、強い風にあたる事無く、穏やかな地で収獲された上質の小麦粉です。」

えっ!それは凄い。

「次は、こちら。
グレゴリーから輸入された一級品の小麦粉です。」

一級品ですか!?
ちょ、ちょっと触ってみたい。

「しかし、私のお勧めはこれですね。
パンを作るとの事、でしたらこのアンメール島産の小麦粉がよろしいと思います。
北部にある島ですが、穏やかな天気に恵まれる島で、とても上質の小麦が収穫されるのです。
まあ、作られるパンによっても、適している小麦粉は色々ありますが、
これでしたら間違いが有りません。」

アンメール島産の小麦粉ですって!
それってほぼ幻と言われている奴じゃないの!
欲しい、欲しいけど私の財布では買える訳がない。

「続いて塩ですが、
もしこのアンメール島産の小麦粉をお求めになるのでしたら、
ぜひ同じくアンメール島産のこの塩をお勧めします。
こちらは島の海岸で、人の手によって作られた塩です。
やはり同じ土地で採れたせいか、とても相性がいいのです。
とても美味しいパンが出来ますよ。」

「買った!!!」

思わず叫んでしまった。
でもお金が……。

「ふふ、では店主。
その二つをいただこうか。」

「ありがとうございます。
では後はチーズでしたね。」

店長さんがパンパンと手を叩くと、奥から何枚ものお皿を持った女性の店員さんが出てきた。

「どうぞお試しください。
色々な処で作られたチーズです。
それぞれ色々な特徴がございます。
きっとお探しのものが見つかりますよ。」


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