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1、予感

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わが家は、夫婦共稼ぎ、長男学生の一家だった。
ある日、私は仕事に出かけようと玄関を出る。
すると何処からか子猫の鳴き声がした。

「いる、絶対近くにいる!」

これは、複数子猫の鳴き声、それもすぐ近くにいるはず!
見たい!触れたい!愛でたい!
でも方向からすると外にいる筈。
つまり野良様のお子様の可能性大。
人間が下手な手を出せば、親猫が子猫を放棄する可能性がある。
此処はぐっと我慢せねば子猫を死なせてしまうかも。
私は泣く泣く、その場を離れ仕事に向かった。

さて、午後早々に私のスマホが鳴る。
見れば息子からだ。

「もしもし、どした?」

『あのさ、子猫の鳴き声がするんだけど。』

なるほど、気が付いたか。

「親猫が来なくなるかもしれないから、探しちゃだめだよ。」

『……。』

なるほど、既に見た訳ね。
まあ、猫を飼った事も無い息子だし、我慢するなと言っても無理だな。
だけどね、1年前に15年一緒に暮らした愛犬を癌で亡くしたわが家は
”動物を飼うのはもうやめようね”というお約束をしてるから、拾っても飼えないぞー。
しかし、次に発した息子の言葉。

『雨がパラパラ降ってきたんだけど……。』

あ、ダメだ、これは…。
極力、人間の匂いを付けたくはなかったんだけど、これはもう仕方がない。

「ベランダに段ボールの箱が有るから、その中にタオルを何枚か敷いて、そこに子猫を移してあげて。
そしたら玄関の横の自転車のテントにそれを入れてね。
そうだテントの入り口はめくっておいて。」

子猫の放置されていた場所からそこまでは、ほんの数メートルのはず。
鳴き声で親も気が付くだろう。
兎に角、最低限の事をしなければ子猫は死んでしまう。
電話を切ってただ私にできることは、早く親が迎えに来てくれるのを祈るだけだった。
どちらかといえば、私はネコ派なんだ。
実家が農家だったせいか、子供の頃から近くにはいつもネコがいた。
まあ、犬もいたけれど。
そう言えば鶏もいたな。
私がお祭りの出店で買ったヒヨコが大きく成長して(大きくなる前に死ぬのが普通だった)暫く飼っていたけど。
運悪くその子は雄鶏で、ある日私が学校から帰ると、それはまな板の上で肉となっていた。
いや~~、泣いて怒ったね。
そしてその肉は我が家の食卓に上ることは無かった。
まあ余談ではあるけれど。
今は野良の子猫様の話だ。
もしその子達が朝から親猫に会えていなければ、多分すごくお腹を空かしていだろうな。
そんな事を考えながら、そろそろ仕事を終えようとしたとき、
またしてもスマホが鳴る。

「悪い事じゃなきゃいいんだけど。」

見てみると、主人からだ。

「もしもし。」

『あ、俺だけど。』

「ん、どした?」

『あのさ、帰りに子猫用のミルクと哺乳瓶買ってきて。』

………いとも簡単にサラッと言っちゃってくれて。
朝、あんなに子猫を見たくて、でも捜さず我慢した私の努力はいったい何だったんだ~~~~~~~。
まあ、本当は私もやりたかった事だし異論はない。
責任はすべて主人に擦り付ける事も出来る。
だって、もう動物は飼わないと決めていたのに、言い出しっぺは主人だ。
約束を守らなかったのはあなたでしょ?とでも何とでも言える
そうして私は嬉々として、ホームセンターに車を走らせるのであった。



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