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第一章 バグ編

ごり押し

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「諒太、これはイレギュラーだ。
どうしてか、ギアなしでゲームにログインしちゃっているみたいで、
そのせいでログアウトできなくなっているだけだ。
皆には心配かけちゃったけれど、これはこれで俺的にはラッキーな事は有るんだぜ、
何たって24時間、何日もゲームやり放題なんだからな。」

俺は少しでも諒太を安心させたくて、軽~くそうに話をした。
ゴン!その途端、俺はいきなり諒太にげんこつをくらった。
痛いよ。
痛いじゃないか。俺はお前の気持ちを浮上させようと思ってだな。
頭をさすりながら恨めし気に諒太の顔を睨み付ける。
と、諒太は、分かってるよバーカって顔をしていた。
諒太はやっと少しは緊張が解けたようで、目元を緩め、俺の頭をくしゃくしゃとかき混ぜてから、腕を元の位置に戻した。
でも、もう俺の肩を抱かなくても大丈夫だろ?俺はちゃんと諒太の隣にいるよ。


「後でエイジさんにもお礼に行かなきゃな。
それと、俺ともフレンド登録してもらって、
紗月の情報は俺の方にも流してもらうようお願いして、
緊急の場合は……。」

「こらこら諒太、何言ってるの?
大体にして俺の事は家族以外オフレコみたいだから諒太に流せないと思うよ。
今話したことだって、俺の一存だから多分ルール違反だと思う。」

「この事はエイジさんだって知っているんだろう。
それなら俺が把握していても構わないじゃないか。」

「だってそれは、俺が運営と連絡が取れないから、
エイジさんが窓口になっていてくれているからであって。」

「だったら俺が窓口になる。」

「そんな事、お前の一存で決める事なんてできないだろうが。」

何寝ぼけたこと言ってるんだよ。

「とにかくこの事に関して、俺も無関係ではないはずだ。
……これ以上俺に心配かけるなよ。頼むから。」

あ、ダメだ、これ言われたら俺もう何の反論もできない。
とにかく俺は朝飯を食っていなかったし、
二人そろってゴッタニ亭に向かう事にした。

「いらっしゃいませー。」

「お、紗月、今日はゆっくりだったな。心配……サリュー!」

俺の隣に並ぶ諒太に気が付き、エイジさんがカウンターの中から出てきた。

「お前何やってたんだよ。紗月はずっとお前の事待ってたんだぞ。」

「あぁ聞いた。紗月が世話になった。礼を言う。」

礼を言うって、サリューは俺の保護者ですか。

「紗月がリアルで倒れた時、俺はすぐ隣に居たんだ。
最初に入院した病院でもずっと付き添っていた。
転院先にはついて行く事が出来なかったが…。」

何故か寂しそうにサリューがそう言った。

「俺は紗月のいない此処には、とてもログインする気にはなれなかったんだ。
それがまさか、こいつがここに缶詰になっているなんてな。」

何だ、リア充かよって何ですかエイジさん。違うから!

俺が朝飯を掻き込んでいる間、
エイジさんの紹介でサリューも運営と連絡を取っていた。
俺は一切連絡を取れないから、話に加われないのはしょうがないよな。ちぇっ!
お、この肉と葉の和え物旨い。

結論から言うと、何かあった時の為に、
運営から俺に張り付く人間をこちらに送ろうとしていたようだ。
ただ俺が拠点としているギサの町が、初級者レベルでは来れない町だったから、人選に手間取っていたみたいだ。
サリューはすぐに立候補したようだが、
専門的な知識がないし、まだ学生だから24時間俺に張り付くことができないという理由で却下されたみたいだ。
それでも食い下がったようで、運営から2人送り込まれてくる筈だった人間が、一人になり、その人がリアルにいる間はサリューが俺に付くことになった。

「そいつがリアルにいる間、俺が紗月に付くから。
もっとも俺はこちらにできる限り来て、お前の傍に居るからな。」

「うん、サンキュ。」
ただ、それは涼太が学生である事から、
夏休みが終わるまでの、ゴールデンシーズンのみという制限が付いたようだ。
それまでに問題が解決すればいいな。
だってこいつ、下手すると学校休んでまでログインしそうだから。
でもよくお前の希望が通ったな。
運営にごり押しして迷惑かけたんじゃないのか?

「迷惑って言うか、そいつほとんど脅迫めいた事言って、
自分の言い分通したんだぞ。」

エイジさんがあきれ顔で教えてくれた。


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