上 下
8 / 23
第一章 バグ編

再会

しおりを挟む
俺がゲーム内に閉じ込められてから4日目、エイジさんは毎日何かある度に連絡をくれる。
運営の調査の結果、俺の本体は今病院に入院中の様だ。
どうやら俺がここに入り込んだ時、本体は意識を失い救急車で病院に担ぎ込まれ、未だに意識不明だそうだ。
たまに意識が浮上しそうになるが、覚醒するまでに至っていない。との事。
それって時間的にこちらでの夜中で、俺が睡眠をとっている時だと思う。
エイジさんにそれらの事を運営に伝えてもらった。
とにかく今このアバターを動かしているのは俺自身で在る事は確認が取れたようだ。
ギア無しでゲーム内にいきなりログインしてしまった事など、訳の分からない事だらけで、
運営側も速やかに研究チームを組み、病院側と共に俺の治療に当たる事になったようだ。
この事が公になると、世界中に影響が出るので家族以外には口止めされているみたいで、
とにかくこの症例は俺だけにしか起きていない事で、
世界的に広まっているこのゲームをいきなり停止して調査するには、
ログインしている人にも負担がかなり出てしまうので、
ゲームは注意しながらも現状維持しているようだ。
そして俺の体は三上郡の病院からどこかの大学病院に移動されて、
治療という名目の研究体となっているみたい。
まあ早いとこ、ここから出られて、
また何の心配もなく自由にゲームを楽しめれば、なんも言う事は無いよ俺は。

そして5日目、
いつものように朝飯を食いに行こうとギサの町を歩いていると、
走ってきた奴にいきなり抱きしめられた。

「うおっ!」

「皐月!皐月!おまっ……。」

涼太!

「お前何やってたんだよ!
相談したくてもちっともログインしてこねえし。
俺がこっちでどんなに心細く…。」

俺は諒太にぎゅうぎゅう抱き締められながらも必死になって文句を垂れた。
ちょっと腕緩めろや、苦しいって。

「お前…。こんなところで何やってるんだよ!人に心配かけやがって……。」

涼太、もしかして泣いてる?
俺は両手を諒太の背に回しポンポンと叩いた。
うん、確かに心配かけたよな。考えてみたらリアルでは諒太の前で倒れたはずだ。
詳しい事は親にしか知らされてないはずだから、諒太も蚊帳の外だったはずだ。
涼太、心配かけて悪かった、ごめんな。
とにかくちゃんと説明しなくちゃ。

「涼太、俺の家に行こ?話したいことあるんだ。」

そう言って、俺たち二人は家に戻る事にした。


「なあ、一緒にスーパー行った日のこと覚えてる?」

「ああ。」

「実はあの時、俺が庭でしゃがみ込んでたのってさ、」

「やっぱり何かあったんだろ?」

やっぱり涼太だよな。

「うん、信じてもらえるか分からないけど…、
俺自身、あれは幻だと思ってたぐらいだから。」

「お前の言う嘘と冗談以外、俺が信じない訳ないだろうが。」

「俺の嘘と冗談とマジって判別つくのか?」

「何年付き合ってると思ってるんだよ。」

自信たっぷりだな。

「あの日、俺、買い物に行こうと思って、玄関から一歩踏み出したら…………。」

それから、今まで有ったこの6日間の事を俺は諒太に話した。
かなり時間がかかったけれど、その間諒太はじっと俺に付き合ってくれた。
多分全部話せたと思う。
話し終わった時、どうしてか俺は涼太に肩を抱かれ、涙を拭かれていた。

「ごめんな。俺がもっと早く此処に来ていれば、
お前をこんなに不安にさせなかったかも知れないのに。」

「そ、そうだよ!俺、ずっと待ってたんだぞ。何で来てくれなかったんだよ!」

我ながら大人げないと思う。でも、今まで不安だった分、つい当たってしまった。

「此処には楽しかったお前との思い出が詰まっていたから、ログインするのが辛かったんだ。」



「今のリアルのお前は意識が無く、病院のベッドに横たわっているだけだ。」

うん、エイジさんから教えてもらった。

「原因も分からない。眠っているような状況だと医者は言っていたが、
目を離すと、いつ呼吸が止まってしまうか不安で……。
俺はお前の傍から離れられなかった。怖かった。すごく。」

「ごめん。」

て、俺が悪いのか?

「でも何故か、お前は三上総合病院から、東京の大学病院に移されたんだ。」

「ああ。エイジさんが教えてくれた。」

「…そうか、紗月の所には、もうエイジさん経由で運営から連絡がきていたんだったな。」

「うん。」

「俺はお前に付いて行く事が出来なかった。
叔母さんは何かあったらすぐ連絡すると言ってくれたけど、
1日に1回電話をくれたけど、だけど!」

涼太、ただ寝てるだけの俺の様子を1日にそう何回も電話で説明するのは、おふくろも大変だと思うぞ。
考えてみろよ、朝電話で寝てます。
昼電話で寝てます。
夜電話で寝てます。
空しいだろうが。

「分かっちゃいるんだ。でも……何もできない自分が不甲斐なくて、じれったかった。
俺は…。」

涼太はまた俺を抱きしめている腕にギュッと力を込めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

三男のVRMMO記

七草
ファンタジー
自由な世界が謳い文句のVRMMOがあった。 その名も、【Seek Freedom Online】 これは、武道家の三男でありながら武道および戦闘のセンスが欠けらも無い主人公が、テイムモンスターやプレイヤー、果てにはNPCにまで守られながら、なんとなく自由にゲームを楽しむ物語である。 ※主人公は俺TUEEEEではありませんが、生産面で見ると比較的チートです。 ※腐向けにはしませんが、主人公は基本愛されです。なお、作者がなんでもいける人間なので、それっぽい表現は混ざるかもしれません。 ※基本はほのぼの系でのんびり系ですが、時々シリアス混じります。 ※VRMMOの知識はほかの作品様やネットよりの物です。いつかやってみたい。 ※お察しの通りご都合主義で進みます。 ※世界チャット→SFO掲示板に名前を変えました。 この前コメントを下された方、返信内容と違うことしてすみません<(_ _)> 変えた理由は「スレ」のほかの言い方が見つからなかったからです。 内容に変更はないので、そのまま読んで頂いて大丈夫です。

中年剣士異世界転生無双

吉口 浩
ファンタジー
アラフォーサラリーマンの大村五郎は、道端の少年を助けようとして事故死してしまう。 身を犠牲にして少年を助けようとした褒美としてファンタジー世界へと転生する五郎。 生前の特技である剣術を超人的な腕前へと強化された五郎は、無双獅子奮迅の活躍を繰り広げる。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...