遠く、イズガルドの地にて。

羽兎里

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番外編―2―2 宮代へ

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それから一月後、二人で王都の宮代に向かった。
元々一番近い宮代は王都だったんだ。
以前は何日も旅をし、王都まで世界樹の儀式を受けに行ったけど、今は陣が有るからイズガルドからだとあっという間に着いてしまう。
昔の人に比べてずるをしているような気がするけれど、せっかく有るんだから利用させてもらおう。
ライアスが前もって手配しておいてくれたらしく、陣を出ると、1台の馬車が僕達を待っていた。
僕達はその馬車に乗り込み王都の端にある宮代に向かう。
宮代は大きな世界樹を中心に成り立っていた。
厳かな空気の中、世界樹の木に向かう道を僕たちは進む。
実を選び摘み取るのは女性となる人の役目。
僕は大きな世界樹の前に立ち、どの実を選ぼうか見渡した。

『手を出して。』

「え?」

声が聞こえた。

「どうした?デニス。」

「声が…。」

『両手を差し出して。』

たしかに、鈴を転がすようなきれいな声が聞こえたんだ。
僕は何の疑いもせず、世界樹に向かい両手を差し出した。
すると僕の手の中にコロンと金色に良く熟した世界樹の実が落ちてきた。
普通だったら摘み取られず、熟し切った実は自然に地面に落ちて、すぐ世界樹の養分となるべく溶ける。
差し出した手に実が落ちてくるなんて、めったにない偶然だ。

「ライアス、これを、選んでも大丈夫かな。」

「大丈夫だろう。この熟し切った実なら、成熟が終わったばかりのデニスの体にも影響が少ないかもしれない。」

それから僕たちは祭司様に実を手渡し、祈りをささげてもらってから、その実を2つに割ってもらって、上半分をライアスが僕の口へ、下半分を僕がライアスの口へ含ませる。それから同時にその実を飲み下した。
あぁ、実がすうっと僕の中心へと降りていく。僕はこれで本当の意味で、ライアスのものになれたんだという気がした。

「ライアス、ライアス。」

僕はしがみついて、ほんの少し泣いてしまった。
ライアスはそんな僕を優しく抱きしめてくれた。
体が成熟したばかりの柔らかい僕の体は、すぐに変化を始めたようで、じきに倦怠感が押し寄せてきた。

「ライアス、ごめんなさい。ちょっと体がだるい。」

弱音は吐きたくなかったけれど、女性化するほうが、体への負担は大きいから、嘘をつかず、ちゃんと具合が悪い時は言うと約束させられていた。
すぐさまライアスは僕を抱き上げる。

「ライアス、体調が悪くない?大丈夫?」

「いや、自分の体の中で、何かしら起こっているとは感じるが、具合が悪いわけではない。」

男性は女性と違い、ちゃんとした精子を造れるよう精巣が変化するくらいだそうだ。

「よかった。やっぱり、女性になるほうのが変化が激しいんだね。身をもって、医学の実験体になっている気分。」

「そんな冗談めかしを言ってないで、大人しくしておいで。すぐ家に連れて帰ってあげるから。」

「ありがと、お願いします。」

僕は体の力を抜き、すべてをライアスにあずけた。



気が付くと、僕はイズガルドの家のベッドの中だった。

「ライアス…。」

時間はよく分からないけど、僕の隣には、僕の手をつないだまま眠るライアスがいた。

「ん…、起きたのかデニス。」

「うん、今時?」

「そうだな。2時ほどかな。」

「2時…、僕ずいぶん眠ったんだね。」

宮代に行ったのが、11時ぐらいだから、半日以上眠ってしまったんだ。

「そうだな、ちょっと心配した。こんなに眠るものなのかと、王都の治療師に確認したほどだ。」

そんな、オーバーだよ。

「前例がないわけではないと聞いて、ようやく安心した。何せ、2日以上眠っていたのだから。」

「嘘!今日は何の日?」

「水の日の早朝だ。」

うっそー。

「ごめんなさい、ずいぶん心配かけちゃって。」

「いや、あ―うん。心配した。」

「まさかと思うけど、お仕事お休みした?」

「ああ、しかし自分の体の変化の事もあるから、元々4日間は休むつもりでいたから大丈夫だ。」

それならいいけど。

「それよりデニス、」

「何?」

「お前の体の変化は、原因は分からないが、どうやら他のものより著しく早いようだ。」



するとライアスは、枕元のランプを点け、棚から手鏡を持ってきてくれた。

「きっと驚くと思うが、まあ誰でも時間をかけて変化することが、短時間で起こってしまっただけの事だ。」

そう言いながら、僕に鏡を手渡してくれた。
僕は、そんなに変わってしまったのかな、そう言えば、喉の調子もいつもと違う。そう思いつつ、ひと呼吸おいてから鏡の中をのぞいた。

「……………。これ、僕?」

するとライアスは後ろから僕を抱きかかえるように、鏡の中を覗き込んできた。
鏡の中には2人の人。
片方はライアス。それではもう一人は本当に僕なんだ。
髪はいつと変わらなく、背中まで伸ばしていて、今はそれを緩く片側に編んでいる。
でも、顔つきはまるで別人だ。
いや、面影はある。
でも、鏡の中には子供っぽかった顔つきが、面長の優しそうで綺麗な女性のそれに変化していた。

「綺麗だ、デニス。」

面と向かって言われると恥ずかしい。
そして、いつの間にか僕はライアスの膝の上に抱え上げられて、キスをされていた。

「デニスが、あまりにも綺麗になって、正直どうしていいか分からない。できればもう治療師もやめさせて、このイズガルドの家に閉じ込めておきたい。」

「でも、ライアスはそんな事しないでしょ?」

「あぁ、そんなことを本気でしたら、デニスに嫌われてしまう。それだけは嫌だ。」

「ふふ、ライアス、大好き。」

「俺もだ、愛している。」

そしてまたキスをした。
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