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番外編―2―1 変化

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今日は朝から体調が変だ。
体調が悪いとかではないけれど、どこかおかしい。
ライアスも気が付いたようで、

「デニス、大丈夫かい?」

と、気に掛けてくれる。

「ん、大丈夫、ちょっと違和感があるけれど大したこと無いから。」

「そうか……。」

そう言いながら、僕のおでこを触ったりあごの下のリンパを触ったりしている。
熱が有るかどうか、確認しているんだろうか。

「デニス、私の思い違いでなければ、この後微熱が出て体がだるくなってくると思う。今日はベッドに入って安静にしていた方がいい。」

「え、ちょっと待って。」

僕は自分の体にさっと魔力を這わせてみた。

「別に悪いところは無いよ。ちょっとぼーっとするけど、どうってこと無い。」

「多分これから変化してくると思う。デニスにとってそろそろ起こってもおかしくない時期だから。」

「でも、今日だって患者さんが来るはずだから、診療所を休みにするわけにはいきません。」

「確かにそうだが、多分体が付いていけないと思うぞ。」

「そ、そんな事…。」

「とにかく、マリアさんには声をかけておく。なるべく無理をしないように。分ったかい?」

そう言えばライアスと話をしているうちにも、少しづつ怠さが増していくような気がして、逆らえないような気がしてきた。

「なるべく早く帰るから、大人しくしているんだよ。」

そう言って、ライアスはいつも通り僕にキスをして仕事に出かけて行った。
その後は、あまり気に掛けないように、いつも通り片付けや患者さんを迎える支度をしていたけれど、やはりライアスの言っていた通り、具合がだんだん悪くなってきた。

「まあまあ、何をしているんです。早くベッドに入らなくてはだめですよ。」

マリアさんだ。

「うん、今入ろうと思っていたところです。やっぱりライアスの言う通り無理だったみたい。」

「そうですね。ライアス様が、間違いなければそろそろだからと、とても嬉しそうでしたよ。」

嬉しそう?僕が具合悪いのに?

「さあさあ、後の事は私がやっておきますから、先生は早くベッドに入って下さいな。」

「マリアさん、でも今日も患者さんがいらっしゃるはずで……。」

「分かっておりますよ。ちゃんと理由と1週間ほどお休みしますと書いて入り口に貼っておきますから。」

1週間?!

「そんなに休まなくても大丈夫だよ。明日にはもう元気になっているはずだから。」

すると、マリアさんは微笑みながら、ゆっくり顔を振った。

「先生、最低でも4日は動けませんよ。そのあと数日は安静が必要です。1週間の休みなんて短いぐらいです。」

「でも、患者さんが、」

「大丈夫ですよ。前と違って、今はライアス様が開いてくれた移転用の陣が有ります。急患はそれを使って王都の治療院に行けば済みますし。それ以外の患者さんは、先生の評判を聞き、慕って来る人ばかりですから。先生の具合がよくなるまで、いくらだった待ちますよ。」

「そうでしょうか?」

「そうですよ、だから先生は落ち着いて、ちゃんと静養してください。」

「…早く病気なおさなくちゃ。」

「……先生、先生のそれは病気ではないと思いますよ。」

病気じゃない?だったら何なのだろう。微熱、倦怠感、後は…そう言えば体全体に軽い違和感がある。

「………マリアさん、もしかして僕大人になるの?」

「ええ、私も今の時点では、はっきりと言えませんが、多分間違いないと思いますよ。ライアス様もそうおっしゃってました。」

大人になると言えば語弊がある。正確には体が成熟しきって男性や女性に変化できる体になることを一般的に大人になると言うのだから。
僕達には生まれた時、性は一つしかない。
そして、体が成熟し切って大人になってからは恋人がいれば自然と3年ほどで体が男と女に変化する。でも、体の変化を望まない人は行為に及ぶ前からグリープの木の葉を煎じて飲めばいい。今ではせんじ薬の代わりにグリープの錠剤もある。
そして、子供が欲しい人は、ゆっくり体の変化を待つ人もいるけれど、たいていの人は結婚式と共に各地にある宮代に参り世界樹の実をいただく儀式をする。
その小さな実の上半分を女性になる人が、下半分を男性になる人が食べると、3年かかる変化が1月ほどで完了してしまうんだ。
僕はまだ子供だったから、結婚式は挙げても世界樹の木の実の儀式はしていない。
ライアスは、どうしたいのかな。
僕は…えっと…。やっぱり恥ずかしいや。
でも、ライアスとの赤ちゃんだったら早くほしい…気がする。
その後、やはり倦怠感で動けなくなった僕はベッドで大人しく横になっていた。
マリアさんが診療所の入り口に貼ったメモを読んだ人の中には、大きな声でおめでとう!と叫んで帰る人もいて、照れ臭いけれど、とてもうれしかった。
僕はうつらつらしながらその日一日を過ごした。
途中マリアさんがあまり食欲のない僕に、お昼ご飯の代わりにスズナシの実のプディングを持ってきてくれて、ありがたく頂きました。
んーマリアさんのプディング最高!
ライアスは言ったとおり、いつもより早い時間に帰って来てくれた。

「デニス、具合はどうだい。」

「ライアスの言ったとおり、やっぱり動くのおっくうになっちゃった。でも大丈夫、そんなに辛いっていう訳ではないから。」

「それなら、いいが。」

どうやらライアスは、僕が具合が悪かったら、王都の治療院に連れて行くつもりだったみたいだ。

「そんなに心配しないで。誰だってなる事なんでしょ?」

「それはそうなんだけれど、具合の悪そうなデニスを見ているのは辛い。」

「何言っているの。ライアスの時はどうしていたの?」

「まあ…、家で寝ていたな……。」

「でしょ?だからそんなに心配しなくても大丈夫だよ。」

僕の教えてもらった知識でもこれは自然の摂理、だから自然が、自然の一部である僕たちに変化を及ぼしてもひどい事はしない。安心していて大丈夫。
ライアスは僕が完全に大人になる日まで、なるべく早く帰ってくるって言ってくれた。それだけで十分。
それに今日は火の日あと4日もすればライアスはお休みになる。
ライアスが仕事に行っている間はマリアさんたちがなるべく気に掛けてくれると言ってくれた。
それから4日、ライアスは日の日でお休み。僕もだいぶ安定してきた。
あと少しというところかな。

「ねぇライアス、ライアスは赤ちゃんほしい?」

「ああ、欲しいさ。私たちの血を分けた二人の絆となる子供だ。」

「そっか。」

僕を膝にのせてずいぶん恥ずかしい事を言うね。

「ねえ、ライアス、僕ずっと考えていたんだけど、ライアスの赤ちゃんは早くほしい。」

「だが、デニスは体が変化したばかりだ。少し時間を置いてからの方がいい。年だってまだ若いんだ。自然に任せてもいいぐらいだ。」

僕もそれは考えた。
でもね、僕はきっと欲張りなんだと思う。誰にもライアスを渡したくないんだ。
赤ちゃんをライアスを縛るための道具にする気はないよ。でも、赤ちゃんがいれば少しでも自分に自信が持てる気がするんだ。

「辛くたって平気。ね、僕が大人になったら宮代に、世界樹の儀式を受けに行こう?」

「しかし…。」

「お願い。」

最終的にはライアスは折れてくれた。
そして間もなく、僕の体は変化に耐えうる体になった。
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