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愛しい訪問者 ※
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その日も朝から患者さんが訪れ、ようやくお昼を食べたのは2時を回っていた。
どうやら、昨日来た患者さんの噂を聞いて、やって来た人も多いようだ
。
「先生、診察時間を決めましょう。休診の日も。そして表に張り出しておくんです。」
「でも、困っている患者さんを待たせるわけにはいかないし…。」
「そんな事を言っていたら、先生の方が体を壊しちゃいますよ。そしたら患者さんはまた遠くの病院に行かなければならないのですよ。そうならない為にもちゃんと規則正しい生活を送りましょう。」
それもそうだと、僕はマリアさんと時間を決め表に張り出した。
【いらっしゃいませ。当院の診察時間は9時から12時・14時から17時となっております。なお、日の日はお休みです。◎急患の方は時間外でも来てください。よろしくお願いします。】
「これで良し。」
今日は金の日。明日は土の日。その翌日は日の日、休みだ。
休みと言ってもやる事もこれと言ってないけれど、休みと聞くと、なぜかウキウキしてしまう。
もっとも、いつ急患があるか分からないので、絶えず僕の居場所が分かるようにしておかなければならないけれど。
診察時間を貼り出した次の日からは、規則正しいスケジュールで診察することができた。
朝9時に診療所を開ける。その為早めに並ぶ人が減った。12時には午前中の受付を打ち切り、1時頃にはちょっと遅いけれどマリアさんがあらかじめ作って持ってきてくれたお昼ご飯を食べる。その後、少し休憩して2時から午後の診察を開始して、5時には午後の受付を終了、6時ごろにはその日の診療を大体終わる。その後、診察室を片付けようやく1日のすべての仕事が終了する。夕食はマリアさんが作っていってくれたものを食べるか、たまにはうちで食事をしましょうと言ってくれた。
「やっぱり規則正しい生活は体もだけど、気持ちも楽だな。」
土の日の夜、そう独り言を言いながら、夕食の片づけをしていると、どんどんと、ドアをたたく音がする。
「あれ、急患かな?」
僕は手を拭きながら、慌ててドアに向かった。
「どうかしましたか!」
僕は慌ててドアを開くと、そこにはライアスさんが立っていた。
「どうして……此処が分かったの?僕は誰にも何も言わずにあそこを出たのに。」
「デニスが教えてくれたじゃないか。」
「嘘、あれは夢だ。」
「夢かも知れない。でも夢でデニスがイズガルドにいると教えてくれた。だから私はここへ来れた。」
僕はいつの間にか泣いていたようだ。ライアスさんが優しく僕の涙をぬぐってくれた。
「デニス。中に入れてくれないのかい?」
「あ、あぁ、ごめんなさい。どうぞ中に入って。」
中に入ったライアスさんはすごく驚いたようだ。
「これは……。すごいな。町のどんな診療所にも負けないぐらいだ。」
「ありがとう。ライアスさん、こっち。」
僕は隣の居間にライアスさんを通した。
「疲れたでしょう。今お茶を入れますから座っていてね。」
そう言って台所に行こうとすると、僕はいきなりライアスさんに抱きしめられた。
「どうして、どうして私に一言も相談せず行ってしまったんだ?私はそんなに頼りがいが無いか?」
「そ、そんな事ない。何度もライアスさんにお別れを言ってから王都を出ればよかったと思ったよ。でも僕は弱虫だから、一刻も早く逃げ出したくて、飛び出してしまったんだ。ごめんなさい。今までたくさん優しく、お世話になったのに挨拶もしないで。」
「違う、私はそんな気持ちでデニスに会っていたのでは無い。デニスは私の事をどう思っていた?私はデニスの事が好きだ。だから、すまない、下心があってデニスに会いに行っていたんだ。」
「下心?」
「ああ、デニスに会いたくて、私の事を好きになってもらいたくて足しげく君に会いに行ったんだ。」
「なんで?僕はそんな事しなくてもライアスさんが好きだよ。」
「君の好きと私の好きは多分違う。」
ライアスさんは僕の手を引き、ソファに座り、僕をその膝の上に座らせた。
ライアスさん、重くない?
「そうだ、これを…。」
そう言って胸元から
一つの袋を取り出しライアスさんは僕の手にそれを渡しました。
?
「お土産だ。南方のハニーキャンディ。」
「え、ハニーキャンディ?それも南方の?」
「あぁ、遠征先で買ってきた。デニスが好きなキャンディだ。それも南方産はとても味が濃くて旨いと有名だったからぜひデニスに食べさせたくて。」
「うれしい。ありがとう。」
僕はキャンディの入った袋を受け取った。
もちろんお土産をもらうのはうれしいけれど、それよりもライアスさんが僕を気に掛けていてくれいたことがすごくうれしかったんだ。
「だが帰ってみればデニスは姿を消していた。」
ライアスさんはとても悲しそうな顔をしている。
「ごめんなさい。僕……。」
「なぜだ。なぜ私に相談してくれなかった?辛く当たられていたのはずいぶん前からなんだろ?いくらだって話す機会はあったはずだ。私はデニスにとって、そんな程度の人間だったのか?それとも相談するほどの仲ではなかったのか?」
「そんな事ない!ライアスさんは僕にとって大事な人。だからこそ僕なんかの事で煩わせたくなかったんです。」
すると突然ギュッと抱きしめられました。
「ばか、私はデニスの為なら何だってできる。ただその気持ちが君にとって重く取られないかと思って我慢していた。」
えっと、ライアスさんは何を言っているのかな?
「デニス、私はデニスにとって、どういう存在なのだろう。デニスは私の事をどう思っている?」
ライアスさんは僕の首筋に顔をうずめたまま、そうささやいた。
そんなの決まっています。でも僕の気持ちを伝えるのはとても恥ずかしい。ライアスさんの方が、僕の気持ちを聞いたら疎ましく思うかもしれない。
そんな事になったらもう僕はライアスさんに会えない。
「ライアスさんは、王都で僕によく話しかけてくれました。お菓子もくれました。数少ない僕を気に掛けてくれる人です。」
「……それだけか?」
「話をしていると、とても楽しいです。傍に居るととても安心します。」
「そうか……、やはりデニスにとって私はその程度の人間だったんだな。」
僕の言葉を聞きながら深くため息をつくライアスさん。
僕はライアスさんを失望させてしまったんだろうか。
違う、違うんだよ。僕はいつもライアスさんの事が頭から離れないほどあなたの事を思っています。
「あ、あぁ、あの……。」
「ん?」
「僕は、その……あの……。」
「デニス、何をそんなに緊張しているんだい。私はもう君を困らせるようなことをしない。気長に待つことにした。」
その言葉を聞いた僕はなぜか安心したような、がっかりしたような、変な気分になった。
喉もカラカラ。
「ライアスさん、キャンディいただいてもいいですか?」
「あぁ、好きなだけお食べ。」
僕はさっそく袋の口を開け、ひとつつまむと口の中に放り込んだ。
ライアスさん、ずっと胸ポケットにこれ入れておいたでしょう。
キャンディは周りが少し溶けてぺたぺたしていた。
その指を少し見つめ、口に含む。
口の中で少し舐め回した後、確認する。うん、もう大丈夫。指はぺタペタしていない。
するといきなり手をとらえられた。びっくりしているとライアスさんはその僕の指を自分の口に含んだ。
「な、何しているの?もうペタペタないよ。」
そう言っても僕の指を舐め続けている。
指の股を舐められた時、背筋をピリッと衝撃が走った。
「はぁっ。」
なぜ僕はこんな声を出してしまったんだろう。
ライアスさんが指を含んだまま僕を見つめている。
やがて気が済んだのか、僕の手を離したライアンさんは、両手で僕の頬をはさみ、顔を近づけてくる。
?!
……どうして僕にキスなんてしているの?キスって愛し合っている人同士がするものではないの?
何が何だか分からない。そんな僕の気持ちが通じたのかライアンさんはキスから僕を開放してくれた。
でも、相変わらず瞳は僕を捕らえたままだ。
「どうして……キスしたの?」
「やはりだめだ。気長になど待ってはいられない。」
何をでしょう。
「デニス、私は君を愛している。」
「…ダメ、そんな事を言っては……。」
「どうして?」
「僕なんかじゃダメ。ネルさんも言ってた。ライアンさんには僕なんかよりもっと相応しい人がいるはずだからって。」
とたんにライアスさんの目が厳しい色に変わった。
「私に相応しいか相応しくないかは私が決める。そんな奴の言う事は鵜呑みにするな。」
え?
「私はデニスを愛している。その気持ちは他人によって左右されるものではない。デニスは?私を好いていてくれているか?」
僕の目を真直ぐ見つめ話すライアスさんの言葉が嘘とは思えない。ライアスさんが嘘偽りなく告げてくれている以上、僕も正直に答えなくては。
「好きです、ライアスさん。」
「デニス……。本当に?でも好きと愛しているとは違う。知っているかい?」
「ごめんなさい。」
「やはり……私が走り過ぎたのか、デニスは私ほど気持ちが…。」
「あ、違うんです。待ってください。その…、その言葉を使うのが、ちょっと恥ずかしくて…。今、今言います。あの、あ、あい……。」
「ん、いいよ、ゆっくりでも。その言葉をデニスが私に言ってくれるなら、いくらでも待つからね。」
僕の言いたい言葉を察したのか、先ほどの顔とは打って変わったライアスさんの蕩けるような顔。
もう、そんな顔で見つめないで下さい。恥ずかしくて言えないじゃないですか。
僕は目を瞑り、思い切って告げる。
「僕、ライアスさんを、あ…愛してます。」
デニス。
名前を呼びながら再び僕を抱きしめてくれる。
でも僕の耳元で
「でもダメ、そういう事は相手の目を見てきちんと告げなくてはマナー違反だよ。」
そうなんですか?ずいぶんスキルが高いんですね。
それならば僕は覚悟を決め、ライアスさんを見つめながら、告げることにした。
「あ、あい、あ、ああ愛して‥ます。」
と小さな声で呟いた。
「何?なんて言ったの?聞こえなかった。」
意地悪だ。もう1度言わなくちゃダメなの?
ライアスさんは微笑んだまま、膝の上の僕を抱えなおし待っているみたい。
だから僕は先ほどより大きな声で、はっきり伝えられるよう頑張った。
「あ、あの、あ、愛しています。」
でも恥ずかしくて目が泳いでしまった。
「ダメだなぁ、ちゃんと心に伝わってこないよ。」
もう、もう、もう!
もういい!僕は半分自棄になりながら、ライアスさんの胸元を掴んで、目を見つめながら叫んだ。
「ライアスさん愛しています!」
えーいおまけだ!そのまま自分の唇をライアスさんの唇に押し付ける。
どうだ、参ったか。僕は軽く息をあげながら勝ち誇った目でライアスさんを見つめた。
最初は驚いていたようだったけど、
「最高だ。」
そう言いながらライアスさんは再び僕に口づける。
最初は啄むようなキス。
チュッ、チュッと音を立てながら、僕の唇で遊ぶみたいに。
だけどだんだんこれがキス?と思うぐらい僕の知識では知らなかったキスに変わる。
唇を合わせたまま、舌で唇をなでたり、唇に吸い付いたまま僕の口の合わせに舌を這わせる。
僕はぼーっとしながら、一体ライアスさんは何をしたいのかなと思っていた。
すると、僕が息継ぎをしようと、少し唇を開いた途端、ライアスさんの舌が僕の口の中に入ってきた。
ダメだよ、口の中に舌を入れるなんて汚いよ。
そう思い、何とか出そうと舌で舌を押し出そうとする。
「ふふっ。」
ライアスさんは僕が口の中で舌を動かすと、それにに自分の舌を絡めてきた。
ダメ、そんなことしないで。
叶わないと思った僕は体を離そうと腕を突っ張る。
でもライアスさんは、さらに力を込めて僕を抱きしめた。
いくら抵抗してもライアスさんに敵うはずがないんだ。僕は諦めることにした。
もう好きにして。
体の力を抜く。
デニス……。
ライアスさんはようやく唇を離し僕を見つめる。
「綺麗だデニス。」
きれい?僕が?綺麗なのはライアスさんです。
ライアスさんはまた僕の方に頭をかしげてくる。
またキスするの?
でも今度は僕の首筋に顔をうずめ、下から上は舐め上げた。
あっ。
僕な体がビクッと痙攣した。
どうして?
チュッと僕の首に何度もキスする。そのたびに僕の体は小さく跳ねる。
こんなの知らない。体がこんな反応をするなんて、先生には教わらなかった。
でも理由を考える余裕なんて無くなる。気持ちがいい。
体が反応するたび頭の中は真っ白になっていく。
「かわいいデニス。私は言ったよね。」
キスしながらライアンさんが話す。
「私がイズガルドに着いたら話したいことがあると。」
そう言われたような気がする。
「デニス、今から私の言う事に答えて。」
ライアスさんは僕の胸元のボタンを外し、はだけさせる。
「返事はハイだけでいいからね。」
キスを続けながら、僕の胸をまさぐる。何でそんな事をされると、こんなに気持ちがいいんだろう。
「ねぇ、デニス。」
「はい…。ンンッ」
「私と結婚してくれ。」
「え?あ、ああっ!」
「デニス、返事はハイだよ。」
ライアスさんは、今何を言ったんだろう。
「デニス、私を愛している?」
「はい…、愛して‥ンンッ、いま…す。」
「デニス、プロポーズの返事は?ハイだよ。」
「ハ…イ。……ハイ。ライアスさん……。」
「そう、いい子だ。約束したからね。君は僕と結婚するんだ。」
「ハ、ハイ…。」
どうやら、昨日来た患者さんの噂を聞いて、やって来た人も多いようだ
。
「先生、診察時間を決めましょう。休診の日も。そして表に張り出しておくんです。」
「でも、困っている患者さんを待たせるわけにはいかないし…。」
「そんな事を言っていたら、先生の方が体を壊しちゃいますよ。そしたら患者さんはまた遠くの病院に行かなければならないのですよ。そうならない為にもちゃんと規則正しい生活を送りましょう。」
それもそうだと、僕はマリアさんと時間を決め表に張り出した。
【いらっしゃいませ。当院の診察時間は9時から12時・14時から17時となっております。なお、日の日はお休みです。◎急患の方は時間外でも来てください。よろしくお願いします。】
「これで良し。」
今日は金の日。明日は土の日。その翌日は日の日、休みだ。
休みと言ってもやる事もこれと言ってないけれど、休みと聞くと、なぜかウキウキしてしまう。
もっとも、いつ急患があるか分からないので、絶えず僕の居場所が分かるようにしておかなければならないけれど。
診察時間を貼り出した次の日からは、規則正しいスケジュールで診察することができた。
朝9時に診療所を開ける。その為早めに並ぶ人が減った。12時には午前中の受付を打ち切り、1時頃にはちょっと遅いけれどマリアさんがあらかじめ作って持ってきてくれたお昼ご飯を食べる。その後、少し休憩して2時から午後の診察を開始して、5時には午後の受付を終了、6時ごろにはその日の診療を大体終わる。その後、診察室を片付けようやく1日のすべての仕事が終了する。夕食はマリアさんが作っていってくれたものを食べるか、たまにはうちで食事をしましょうと言ってくれた。
「やっぱり規則正しい生活は体もだけど、気持ちも楽だな。」
土の日の夜、そう独り言を言いながら、夕食の片づけをしていると、どんどんと、ドアをたたく音がする。
「あれ、急患かな?」
僕は手を拭きながら、慌ててドアに向かった。
「どうかしましたか!」
僕は慌ててドアを開くと、そこにはライアスさんが立っていた。
「どうして……此処が分かったの?僕は誰にも何も言わずにあそこを出たのに。」
「デニスが教えてくれたじゃないか。」
「嘘、あれは夢だ。」
「夢かも知れない。でも夢でデニスがイズガルドにいると教えてくれた。だから私はここへ来れた。」
僕はいつの間にか泣いていたようだ。ライアスさんが優しく僕の涙をぬぐってくれた。
「デニス。中に入れてくれないのかい?」
「あ、あぁ、ごめんなさい。どうぞ中に入って。」
中に入ったライアスさんはすごく驚いたようだ。
「これは……。すごいな。町のどんな診療所にも負けないぐらいだ。」
「ありがとう。ライアスさん、こっち。」
僕は隣の居間にライアスさんを通した。
「疲れたでしょう。今お茶を入れますから座っていてね。」
そう言って台所に行こうとすると、僕はいきなりライアスさんに抱きしめられた。
「どうして、どうして私に一言も相談せず行ってしまったんだ?私はそんなに頼りがいが無いか?」
「そ、そんな事ない。何度もライアスさんにお別れを言ってから王都を出ればよかったと思ったよ。でも僕は弱虫だから、一刻も早く逃げ出したくて、飛び出してしまったんだ。ごめんなさい。今までたくさん優しく、お世話になったのに挨拶もしないで。」
「違う、私はそんな気持ちでデニスに会っていたのでは無い。デニスは私の事をどう思っていた?私はデニスの事が好きだ。だから、すまない、下心があってデニスに会いに行っていたんだ。」
「下心?」
「ああ、デニスに会いたくて、私の事を好きになってもらいたくて足しげく君に会いに行ったんだ。」
「なんで?僕はそんな事しなくてもライアスさんが好きだよ。」
「君の好きと私の好きは多分違う。」
ライアスさんは僕の手を引き、ソファに座り、僕をその膝の上に座らせた。
ライアスさん、重くない?
「そうだ、これを…。」
そう言って胸元から
一つの袋を取り出しライアスさんは僕の手にそれを渡しました。
?
「お土産だ。南方のハニーキャンディ。」
「え、ハニーキャンディ?それも南方の?」
「あぁ、遠征先で買ってきた。デニスが好きなキャンディだ。それも南方産はとても味が濃くて旨いと有名だったからぜひデニスに食べさせたくて。」
「うれしい。ありがとう。」
僕はキャンディの入った袋を受け取った。
もちろんお土産をもらうのはうれしいけれど、それよりもライアスさんが僕を気に掛けていてくれいたことがすごくうれしかったんだ。
「だが帰ってみればデニスは姿を消していた。」
ライアスさんはとても悲しそうな顔をしている。
「ごめんなさい。僕……。」
「なぜだ。なぜ私に相談してくれなかった?辛く当たられていたのはずいぶん前からなんだろ?いくらだって話す機会はあったはずだ。私はデニスにとって、そんな程度の人間だったのか?それとも相談するほどの仲ではなかったのか?」
「そんな事ない!ライアスさんは僕にとって大事な人。だからこそ僕なんかの事で煩わせたくなかったんです。」
すると突然ギュッと抱きしめられました。
「ばか、私はデニスの為なら何だってできる。ただその気持ちが君にとって重く取られないかと思って我慢していた。」
えっと、ライアスさんは何を言っているのかな?
「デニス、私はデニスにとって、どういう存在なのだろう。デニスは私の事をどう思っている?」
ライアスさんは僕の首筋に顔をうずめたまま、そうささやいた。
そんなの決まっています。でも僕の気持ちを伝えるのはとても恥ずかしい。ライアスさんの方が、僕の気持ちを聞いたら疎ましく思うかもしれない。
そんな事になったらもう僕はライアスさんに会えない。
「ライアスさんは、王都で僕によく話しかけてくれました。お菓子もくれました。数少ない僕を気に掛けてくれる人です。」
「……それだけか?」
「話をしていると、とても楽しいです。傍に居るととても安心します。」
「そうか……、やはりデニスにとって私はその程度の人間だったんだな。」
僕の言葉を聞きながら深くため息をつくライアスさん。
僕はライアスさんを失望させてしまったんだろうか。
違う、違うんだよ。僕はいつもライアスさんの事が頭から離れないほどあなたの事を思っています。
「あ、あぁ、あの……。」
「ん?」
「僕は、その……あの……。」
「デニス、何をそんなに緊張しているんだい。私はもう君を困らせるようなことをしない。気長に待つことにした。」
その言葉を聞いた僕はなぜか安心したような、がっかりしたような、変な気分になった。
喉もカラカラ。
「ライアスさん、キャンディいただいてもいいですか?」
「あぁ、好きなだけお食べ。」
僕はさっそく袋の口を開け、ひとつつまむと口の中に放り込んだ。
ライアスさん、ずっと胸ポケットにこれ入れておいたでしょう。
キャンディは周りが少し溶けてぺたぺたしていた。
その指を少し見つめ、口に含む。
口の中で少し舐め回した後、確認する。うん、もう大丈夫。指はぺタペタしていない。
するといきなり手をとらえられた。びっくりしているとライアスさんはその僕の指を自分の口に含んだ。
「な、何しているの?もうペタペタないよ。」
そう言っても僕の指を舐め続けている。
指の股を舐められた時、背筋をピリッと衝撃が走った。
「はぁっ。」
なぜ僕はこんな声を出してしまったんだろう。
ライアスさんが指を含んだまま僕を見つめている。
やがて気が済んだのか、僕の手を離したライアンさんは、両手で僕の頬をはさみ、顔を近づけてくる。
?!
……どうして僕にキスなんてしているの?キスって愛し合っている人同士がするものではないの?
何が何だか分からない。そんな僕の気持ちが通じたのかライアンさんはキスから僕を開放してくれた。
でも、相変わらず瞳は僕を捕らえたままだ。
「どうして……キスしたの?」
「やはりだめだ。気長になど待ってはいられない。」
何をでしょう。
「デニス、私は君を愛している。」
「…ダメ、そんな事を言っては……。」
「どうして?」
「僕なんかじゃダメ。ネルさんも言ってた。ライアンさんには僕なんかよりもっと相応しい人がいるはずだからって。」
とたんにライアスさんの目が厳しい色に変わった。
「私に相応しいか相応しくないかは私が決める。そんな奴の言う事は鵜呑みにするな。」
え?
「私はデニスを愛している。その気持ちは他人によって左右されるものではない。デニスは?私を好いていてくれているか?」
僕の目を真直ぐ見つめ話すライアスさんの言葉が嘘とは思えない。ライアスさんが嘘偽りなく告げてくれている以上、僕も正直に答えなくては。
「好きです、ライアスさん。」
「デニス……。本当に?でも好きと愛しているとは違う。知っているかい?」
「ごめんなさい。」
「やはり……私が走り過ぎたのか、デニスは私ほど気持ちが…。」
「あ、違うんです。待ってください。その…、その言葉を使うのが、ちょっと恥ずかしくて…。今、今言います。あの、あ、あい……。」
「ん、いいよ、ゆっくりでも。その言葉をデニスが私に言ってくれるなら、いくらでも待つからね。」
僕の言いたい言葉を察したのか、先ほどの顔とは打って変わったライアスさんの蕩けるような顔。
もう、そんな顔で見つめないで下さい。恥ずかしくて言えないじゃないですか。
僕は目を瞑り、思い切って告げる。
「僕、ライアスさんを、あ…愛してます。」
デニス。
名前を呼びながら再び僕を抱きしめてくれる。
でも僕の耳元で
「でもダメ、そういう事は相手の目を見てきちんと告げなくてはマナー違反だよ。」
そうなんですか?ずいぶんスキルが高いんですね。
それならば僕は覚悟を決め、ライアスさんを見つめながら、告げることにした。
「あ、あい、あ、ああ愛して‥ます。」
と小さな声で呟いた。
「何?なんて言ったの?聞こえなかった。」
意地悪だ。もう1度言わなくちゃダメなの?
ライアスさんは微笑んだまま、膝の上の僕を抱えなおし待っているみたい。
だから僕は先ほどより大きな声で、はっきり伝えられるよう頑張った。
「あ、あの、あ、愛しています。」
でも恥ずかしくて目が泳いでしまった。
「ダメだなぁ、ちゃんと心に伝わってこないよ。」
もう、もう、もう!
もういい!僕は半分自棄になりながら、ライアスさんの胸元を掴んで、目を見つめながら叫んだ。
「ライアスさん愛しています!」
えーいおまけだ!そのまま自分の唇をライアスさんの唇に押し付ける。
どうだ、参ったか。僕は軽く息をあげながら勝ち誇った目でライアスさんを見つめた。
最初は驚いていたようだったけど、
「最高だ。」
そう言いながらライアスさんは再び僕に口づける。
最初は啄むようなキス。
チュッ、チュッと音を立てながら、僕の唇で遊ぶみたいに。
だけどだんだんこれがキス?と思うぐらい僕の知識では知らなかったキスに変わる。
唇を合わせたまま、舌で唇をなでたり、唇に吸い付いたまま僕の口の合わせに舌を這わせる。
僕はぼーっとしながら、一体ライアスさんは何をしたいのかなと思っていた。
すると、僕が息継ぎをしようと、少し唇を開いた途端、ライアスさんの舌が僕の口の中に入ってきた。
ダメだよ、口の中に舌を入れるなんて汚いよ。
そう思い、何とか出そうと舌で舌を押し出そうとする。
「ふふっ。」
ライアスさんは僕が口の中で舌を動かすと、それにに自分の舌を絡めてきた。
ダメ、そんなことしないで。
叶わないと思った僕は体を離そうと腕を突っ張る。
でもライアスさんは、さらに力を込めて僕を抱きしめた。
いくら抵抗してもライアスさんに敵うはずがないんだ。僕は諦めることにした。
もう好きにして。
体の力を抜く。
デニス……。
ライアスさんはようやく唇を離し僕を見つめる。
「綺麗だデニス。」
きれい?僕が?綺麗なのはライアスさんです。
ライアスさんはまた僕の方に頭をかしげてくる。
またキスするの?
でも今度は僕の首筋に顔をうずめ、下から上は舐め上げた。
あっ。
僕な体がビクッと痙攣した。
どうして?
チュッと僕の首に何度もキスする。そのたびに僕の体は小さく跳ねる。
こんなの知らない。体がこんな反応をするなんて、先生には教わらなかった。
でも理由を考える余裕なんて無くなる。気持ちがいい。
体が反応するたび頭の中は真っ白になっていく。
「かわいいデニス。私は言ったよね。」
キスしながらライアンさんが話す。
「私がイズガルドに着いたら話したいことがあると。」
そう言われたような気がする。
「デニス、今から私の言う事に答えて。」
ライアスさんは僕の胸元のボタンを外し、はだけさせる。
「返事はハイだけでいいからね。」
キスを続けながら、僕の胸をまさぐる。何でそんな事をされると、こんなに気持ちがいいんだろう。
「ねぇ、デニス。」
「はい…。ンンッ」
「私と結婚してくれ。」
「え?あ、ああっ!」
「デニス、返事はハイだよ。」
ライアスさんは、今何を言ったんだろう。
「デニス、私を愛している?」
「はい…、愛して‥ンンッ、いま…す。」
「デニス、プロポーズの返事は?ハイだよ。」
「ハ…イ。……ハイ。ライアスさん……。」
「そう、いい子だ。約束したからね。君は僕と結婚するんだ。」
「ハ、ハイ…。」
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