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資金調達

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さて、当面の目的は果たしたぞっと。
たとえ短い間とはいえ、ミシェルの事は心が潰れそうに悲しい。
出来ればその傷が癒えるまで、感傷に浸り続けたい。
彼女の夢を引き継いであげたいとか、彼女の好きだった人たちはどこにいるのだろうとか、考える事は山ほどある。
だが私の目の前には、現実的な問題が立ちはだかっていたのだ。

それは……先立つものが無い!

持ち出した資金もそろそろ底を付きそうなのです。
食料調達のため、森にこもる事は嫌ではない。
静かで人の目を気にしなくてもいいから森は大好きだ。
でも今の私には、ミシェルの故郷を調べると言う新たな目標が出来た。
だからそうノンビリとはしていられない。

持って出た荷物の中で、一番売れそうな物。
それはきっと母様に貰ったドレスだろう。
それは私似合わずとも、普通の女性が着るなら全然いけるはず。

「よし!」

私はさっき道を聞いた古着屋さんへと向かった。



「と、言う訳で、これなんだけど」

私はカーテン風呂敷からドレスを取り出し、おばさんに見せた。
おばさんはそれを広げ、じっと品定めをしている。

「ふ~ん、これはあんたの物じゃないね、寸法が足りないし、体に合っていない。それとこれの出所は貴族様かね?型は古いがかなりいい品だ。まあこちとら古着屋だ、色々な物が流れてくるから詳しい事情は聞かないけどさ」
「もしかして盗品だと思ってます?違う違う、貰い物ですよ。ちょっとドレスが必要な時があって、その時これを貰ったんです」
「てことは……あんたこれを着たのかい?」

はい、着ましたとも。
おばさんは、赤くなった私の顔を見て、全てを察したのだろう。
私に、めちゃくちゃ気の毒そうな目を向けていた。

「そうか、よく耐えたね…。いや、そうさね、こんな物が流れて来るならうちも喉から手が出そうなほどなんだけどね、でもこの辺じゃこれの需要はないんだよ」
「はい?」
「これはいかにも貴族様のパーティーに着て行くようなものだ。だが見てごらん、うちは町人相手のしがないただの古着屋、こんな店にそれを置いて、綺麗だと眺めていく人はいるだろうが、買うような人がいると思うかい?」

おばさんの言う事も尤もだ。
だが私も買い取ってもらわねば死活問題、諦めるわけにはいかない。

「安くてもいいんです。いくらでもいいので買い取ってもらいませんか?」
「悪いねぇ、うちも慈善事業が出来るような身分じゃないんだよ」

そうか…、そうだよね、仕方ない、他の方法を見つけるか。

「ありがとうございました。無理を言ってごめんなさい」
「力になれなくて悪かったね…………ねえあんた」

おばさんが、その場を去ろうとした私を呼び止める。
えっ、やっぱり買い取ってくれるの?

「ドレスは無理なんだけど、その髪、売る気はあるかい?」
「髪?……これ?」

私は自分の束ねた髪の毛を指さした。

「ああ、そこまで長くしているんだ、とても大切にしているんだろうが、でもどうしても金が要るのならそれを売る手もあるよ」
「こんな物が売れるんですか?(つんつん)」

だって髪なんて、切ってしまえば後はゴミ箱にポイ。
そんなごみが売れるのだろうか。

「普通なら捨ててしまうが、でもそれほど見事な長さなら、ウイッグ用に買い取ってもらえるよ」

何だって、こんな邪魔なものが金になるのか!?

「でもこれ、パサパサに傷んでいますよ、こんなのでも買ってもらえるんですか?」
「そうさな、多少値切られるかもしれないが、でもそれほどの長さだ、ちゃんと買い取ってもらえるだろうよ」

やった!

「売ります!買って下さい今すぐ!!そうだハサミ、ハサミ有りますか!?」
「ちょっと落ち着きなよ、そりゃあうちで買ってもいいけど、どのみち手数料を乗せて、うちからサロンに売る事になる。それよりも自分でサロンに行って売ってきな、その方がいい」

おばさん、私の事考えてくれるんだ、優しい……。

「ありがとうございます、この恩は一生忘れません!」
「そんな大げさなもんじゃないよ、そうだ、この事は古着屋のロゼから聞いたと言うんだよ。そう言えば、あそこもあんたからぼったくろう何て気は起こさないはずだ」

なるほど、おばさんはただ者じゃないと見た!
それから私はおばさんにもう一度礼を言い、サロンと言われる所に向かった。



「すいませーん」
「おや…いらっしゃいませ。初めてのお客様ですね。当店は一見さんはお断りしておりますが、特別にお相手いたしましょう。で?どういったご用件ですか?髪のカットでしたらお客様なら首筋で揃えると、よくお似合いになると思いますが?」

首筋ですか…。
普通の女性ならそんなに短くしないけど、お金になるならいくらでも売りますよ。

「あの、こちらで髪の毛を買い取っていただけると聞いてきたんですけれど」

すると店員さんは苦い顔をして舌打ちをする。
そんな……やっぱり買い取ってもらえないのかな?

「分かったよ、まずはこの椅子に座れ」
「はい!」

髪を売りたいと言ったとたん、店員さんの態度が変わる。
こんな手入れの悪い髪など、やはり買いたくないのだろうか。
そのあと、店員さんは私の髪を引っ張ったり捻ったり、1本抜いて虫眼鏡で見たり、いろいろな事をやること約20分、ようやく結果が出たみたいだ。

「そうだな、先端から首筋までの長さで、5000ゼラってとこだな」
「5000ゼラ?」

5000ゼラか、それじゃあ宿に1泊ってところだな。
まぁ森でキャンプして、食費を最小限にすれば、10日ぐらいいけるかも。
でも、もう少し粘ってみるか。

「あの、もう少し高く買っていただけませんか」

それが無理なら、ショート、いやベリィショートでもいいから、もっと買い取ってほしい。
でも店員さんは、私の言葉を勘違いしたようだ。

「こんな汚れて傷んだ髪なんて5000ゼラだって出しすぎなんだよ。俺が優しく言っているうちに、さっさと売って出ていけばいいんだ!」
「いえ、それは分かっているんですけど、私、出来るだけお金が欲しいんです。もっと買い取ってもらえないですか?」
「へっ?いいのか?もっと売るってそんなに短くすると、おまえなんて男と間違われるぞ」

歯に衣着せないその言葉。
そんな事とっくに承知していますって。
でも今はそういう問題じゃないんです。

「丸坊主は困るけど、さっぱりと短くしちゃってください。そうでなければ、せっかくここを紹介してくれたロゼさんに、顔向けができないわ」
「ロ、ロゼ……!?もしかして古着屋の…」
「ええ、あっ、そう言えば古着屋のロゼさんの紹介だって言わなきゃいけないんだったった」
「い、いやですねぇお客様、それを最初に言って下さいよ。えぇ、お客様のご希望に沿えるよう、当店も精一杯努力させていただきますとも」

一瞬の間に私は上客になってしまったようだ。
何故じゃ。
さっきの対応とは雲泥の差だぞ。
これはもしかして”古着屋のロゼさん”と言う言葉がキーワードだったのか。

「で、お金が必要だから、出来るだけ長くと髪を売りたいとおっしゃっていましたね」
「はい」

店員さんは、とてもスマートな対応で、私を奥にある鏡の付いたテーブルに案内し、椅子をすすめる。
知らぬ間にお菓子とお茶まで乗っている。
このおまじないよく効くなあ。
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