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転生編

奇襲

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「アンリエッタ様、ごきげんよう。
今日も良い天気ですね。」

「クリスティーナ様、ええ、本当に良いお天気ですわ。」

「そう言えば、近頃宮廷内で、ちょっと噂になっている令嬢がいらっしゃるそうなんですがご存じですか?」

「さあ、どなたですの?」

「フローラ様と仰って、マリオット男爵の末の姫様だそうです。」

「フローラ……。」

まるで目の回るような思いがした。

「ご存じですの?」

「…いいえ、マリオット男爵様の名は存じ上げていますが、姫様の名前までは……。」

「そうですわね。でも噂では、とても可愛らしい方だそうで、
殿方の間ではかなり話題になっているそうです。」

「そ、そうですか。」

「ところが一部の方の間では。飛んだ食わせものと仰る方がいらっしゃいますの。
アンリエッタ様も気を付けられた方がよろしいかと。」

「まあ、何故でしょう。」

「ええ、その……小耳にはさんだんですが、
何でも自分は、第2王子のセドリック様のお嫁さんになるんだと、吹聴しているようなんです。」

「えっ?  セドリック様の?」

その話を聞いた途端、目の前が真っ暗になり、よろめいてしまった。

「危ない!アンリエッタ様。」

慌てたクリスティーヌ様に支えられなかったのなら、多分倒れていたでしょう。
それにしても、フローラ様が男爵令嬢にも関われず、セドリック様の妃となると、ふれ回るとは………。
セドリック様にその気が有るのなら別ですが、フローラ様の思い込みで仰っているのなら、
セドリック様にご迷惑が掛かると思わないのでしょうか。

「彼女は少し、慎みを持たねばいけませんね。」

そう私は呟いた。
しかしその一言が、後々私に不幸を呼び込むとは思わなかった。



『美夏さん、ダメです。
そこでその言葉を言った為に、後で私がフローラ様に意地悪をしたと他の人が信じてしまうのです。
そこでその言葉を言ってはいけません。』

え、そうなの?
普通だったらそう思うんだけどなぁ。
でも、アンリエッタがそう思うんだったら、そうなんだね。
分かった、此処は当り障りのない言葉を選ぼう。

しかし、他の言葉を見ても、ピンとくるものが無い。

A、彼女は常識を学ばなければいけませんね。
B、彼女はいい子です。そんなこと言う訳有りません。
C、彼女は少し、慎みを持たなければいけませんね。
D、何も言わない。

そうだなぁ、此処は無言で通すか。

『そうですわね。それがいいかもしれません。』

それではDに決定っと。



「大丈夫ですか?アンリエッタ様。」

「えっ、ええ、ありがとうございますクリスティーナ様。」

「………………。」

「…………………。」

「アンリエッタ様は、何も仰らないのですか。」

「何を……でしょうか。」

「仮にもセドリック様はあなたの婚約者。
なのにフローラ様はあなたを差し置いて、妻になると仰っているのですよ。」

「でも、それはあくまでも噂。
本当にフローラ様が言ったとは限りません。」

「それはそうですが……。」

「ですから、ね?真実がはっきりするまで、事を大きくしない方がいいと思うのです。」

「そうかもしれませんね。流石はアンリエッタ様。思慮深くてお優しい。
セドリック様のご婚約者だけは有りますわ。」

そう言って、クリスティーヌ様は微笑んだ。



それから3日ほど経って、問題のフローラ様が、我が家にいきなり尋ねてきた。
一体何の用なのかしら、
供もつけず、たった一人で男爵令嬢が侯爵令嬢の私を訪ねるなんて、不可解すぎる。
そう思ったけれど、取り合えず私は会う事にした。
彼女が何を考え、行動しているのか興味があったのです。


「良くいらっしゃいましたフローラ様、
どうぞお掛け下さい。」

私は彼女に椅子をすすめた。

「それで、今日我が家にいらっしゃったのは、何か御用があったからですの?」

「ええそう。
アンリエッタ、あなたに忠告をしておこうと思ったの。」

「アンリエッタ?と仰いましたか?」

「ええ、言ったわ。
だってそれがあなたの名前でしょう?私は何も間違ってはいないわ。」

「まあいいでしょう。ところで私に忠告と仰いましたが、私が何か………。」

「まあ、今のあなたの立場が問題なのよね。
スティーブン様とあなたは婚約していると聞いたわ。」

「はい、その通りです。
私達は幼少のころから決められていた婚約者同士。それがどうかなさいましたか?」

「私はいずれ、スティーブン様と結婚するって決まっているの。
だからあなたは邪魔なのよ。
私が行動を起こす前に、あなたの方から婚約を解消しなさい。
さもなくば、どうなっても知らないから。」

平然とそう言ったフローラ様。
私は驚きを隠せなかった。



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