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22、聖女の力
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フィアリスとノアが中庭で待っていると、呼び出されたティリシアがやって来た。
今日はティリシアに魔力がどの程度のものなのか見せてもらう予定だった。魔術師であるフィアリスとノアは聖女という存在は聞き知っていたものの、そう呼ばれる女性を見たのは初めてで、力の詳細も知らなかったのだ。
一方、ティリシアも普通の令嬢としての暮らしをしており、魔術師とはあまり関わってこなかったらしい。王都の魔術師に力を調べてもらったことはあったが、術について学んだ経験はない。
「魔法が使えると言っても、私は力を放てるだけなのです」
ティリシアは土の上に立ち、目を閉じた。特に詠唱はしない。
両手を前に差し伸べるようにして、目を開ける。
すると一気に風が起こり、光の柱が空へと昇った。
「これは……」
フィアリスとノアは風に髪を乱しながら目を見張る。想像していたよりもその力は強かったのだ。平素の彼女からは魔力を感じるものの、これほどのものを秘めているようには思えない。なので、異常なほど突発的に感じた。
しかし光を発した本人も、困惑した表情で空を見上げている。
光が細くなり、風もおさまるとティリシアは呟いた。
「前より強くなっているわ……」
ティリシアは、この力は成長と共に強さが増していっているようだと以前二人に説明していた。
「光を出すだけなので、使うことは滅多にないのです。私、自分が魔法を使えるという事実を普段は忘れているほどですから。それにしても、ここ最近は今まで以上に強くなっています。急激に」
ノアは顎に手を当てている。
「聖女の力は満十八をもって失われると言いますが、力が頂点に達するのは十八の誕生日の直前になるのではないかと思われます。まだ少々日にちがある。もっと強力になる可能性はありますね」
「大丈夫でしょうか。暴走したりしないか心配だわ」
「調べてみたところ、歴代の聖女と呼ばれる方々でそういった事故はありません」
ティリシアは安堵して部屋に戻っていった。
中庭に残った二人の魔術師は、顔を見合わせる。異常に増幅した魔力持ちについてはお互い専門外ではある。
「エネルギー量が凄まじいですね。間欠泉から吹き出す湯のようです」
「教会がやる儀式に使われるって言ってたけど、どういうことをやるんだろう」
「あのままですよ。人々の前で、光の柱を披露するのです。天と地を繋ぐ尊い魔法だと、一部では有り難がられて、寄進が増えます」
「なるほどねぇ」
「聖女を何人か見てきたという、教会に診断を依頼された魔術師に話を聞きましたが、聖女に出来ることは光を迸らせるくらいで、調整して何か術を使わせたりといったことはさせられなかったそうです」
ノアのように細かい術を使ったり、フィアリスのように力を放って敵を倒す、という使い方は難しいそうだ。
魔力は人に恩恵も与えるが、それが病のように作用してしまうこともある。聖女達は体の具合にほぼ影響はないが、その風変わりな力は軽度の病のようなものだとも見なせるだろう。
「ティリシア様の力が最高潮に達するまでにもう少し時間があるとすると、油断は出来ません」
「そうだね。このまま相手がおとなしくしていてくれれば私達は助かるのだけれど」
ノアが調べを進めていくうちに、例のオーダントン伯爵はさらに暗い噂が複数出回っていることがわかった。怪しい実験はまだ続いているという話もあり、だとすればティリシアの力を諦めていないかもしれない。
リトスロード侯爵家が絡んできたのを知って怯み、引き下がってくれればと願うフィアリスだったが、そうことは上手く運ばなかった。
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