花の貴人と宝石王子

muku

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第一部 再会

37、優しくしないで

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 自分なりに、彼が手を出さなくなった理由を考えてみた。飽きたのではないとすると、遠慮しているとしか思えない。
 けれどこちらは別に迷惑などと思っていないし、いくら抱かれたって構わないのだ。
 食事もとってほしいとは思いつつ、花の子が咲かせた花を口にする方が滋養はつくし、肉体的、精神的な負担も軽減される。

 テクタイトが彼を悩ませているとしたら、花の子を抱けばいくらか気晴らしになるはずなのだ。
 けれど彼は抱こうとしない。ならば、こちらから誘うしかなかった。リーリヤから乞うたなら、それは許可を出しているのも同様である。

「リーリヤ」

 ジェードがこちらが望まない言葉を口にしようとしているのを察したリーリヤは、即座に声をかぶせた。

「抱いてほしいのです。ジェード様、私……」

 真顔で続けるのが難しくなり、リーリヤは顔を歪めてうつむいた。

「長く生きてきましたが、こうして誰かを誘うのは、初めてなのですよ。私から、抱いてくださいとねだるのは、あなたが初めてなのです」

 だからこれは、リーリヤにとってもかなり思い切りが必要な行動だった。はっきり言って、恥ずかしかった。
 わざと夜に忍んできて、薄衣しか身にまとわずに、彼を誘惑しているのだ。こんな、私が。自分の魅力に懐疑的な者が誘うほど滑稽なことはない。

 けれどもう、他にどうしたらいいのか思いつかなかったのだ。固持し続けるであろうジェードと冷静に話し合う方が耐えられない気がした。勢いで通すしかない。
 リーリヤは意を決して、ジェードの肩をつかむと唇を重ねた。たどたどしい深い口づけは受け入れられる。だが怖じ気づいて、リーリヤはすぐに顔を離して下を向いた。

「……すみません」
「何故謝る」
「上手に……できないから……」

 梔子くちなし公の侍従オピスに語ったように、上手くできないなら真心をこめるしかない。そう思ったのだが。
 彼の額に軽く口づけを落とすのは簡単なのに、いざ濃密な絡み方をしようとするとしり込みしてしまう。

 複数の男に何度か抱かれてきたが、いつでも相手に委ねるばかりで、されるがままだった。気づけば終わっている。
 詳しくはないが、抱かれ方もきっと酷く下手に違いない。

「私、いい歳をして、こんなこと一つ、上手くできないのです。あなたを満足させたいのに……」

 剣が駄目ならせめて夜伽の技でも達者であればよかった。
 情けなくなって泣き笑いのようなものを浮かべた瞬間、ジェードがリーリヤを引き寄せてまた口づけをしてきた。
 先ほどに比べると、とても長い口づけだった。目を閉じて、リーリヤはそれを受け入れる。

 こうした彼からの口づけも、七日ぶりだった。ジェードが上手いというのもあるのだろうが、する度に何故か心地良さが増していく。念入りに教え込まれるようで、リーリヤも無理なく応じられた。
 自ら服を脱いでいくが、ジェードに手伝われる。ジェードも裸になると、リーリヤの背中に手を回して、ゆっくりと寝台に体を横たえさせた。

 愛撫されると、じわじわと熱が広がっていく。快楽を覚えている体が反応する。
 目を開けるとジェードがこちらを見下ろしていて、熱っぽい瞳は、はっとするくらい愛おしげだった。平素あれほど冷たい双眸が、恋しさに潤んでいるかのようだ。
 私がこの方にこんな目をさせているのか、と思うと胸がざわついた。大きな戸惑いの中に、愛おしさと悦びが混じっているのを自覚する。

 ジェードはリーリヤの背後から挿入した。指で慣らされなくても交尾のための愛液は滴り、後孔はすっかり迎える準備ができている。
 腰をつかまれ、熱い杭がゆっくりと打ちこまれる。内側が擦られる感覚に、リーリヤは声を漏らした。花の子は後ろの孔でもよく感じる。

「苦しくはないか?」
「は……い」

 動きが速まっていき、視界が揺れた。

「……ぁ、あ、……、ふ、あ! あぁっ、んん」

 数日ぶりの快楽は、想像以上だった。体が意思とは無関係に、貪るようにジェードのものを締め上げようとする。
 ぐちゅぐちゅと響く淫らな音と自分の喘ぎ声が、また興奮を高めていった。

(繋がっている、ジェード様と……)

 奥に、欲しい。欲望が叫んでいる。もっと突かれたい。絶頂を迎えたい、と。

(駄目だ、私ばかり気持ち良くなったって……)

 こちらが奉仕するためにやって来たのだから、自分の欲を満たしてしまったら本末転倒である。だが主導権はジェードにあって、リーリヤはどうにもできそうになかった。

「ジェード、さま、ぁ……、んっ! んぅ、あああッ!」

 体をびくつかせて達したリーリヤは、敷布の上に肘をついてうなだれた。弛緩した口から唾液がこぼれそうになって手で拭う。
 頭の中がぼんやりしていたが、自分を叱咤して身を起こそうとする。四つん這いになるリーリヤに、ジェードがひたと身を寄せた。射精したばかりだが彼のものは衰えを知らず、すぐに猛り立つ。熱いそれが尻に触れて、リーリヤは一瞬震えた。

「どこが良かった?」

 笑いを含んだ声を聞き、リーリヤは振り返ろうとする。

「私……は、いいです、から……」
「当ててみよう」

 抱き抱えられて、リーリヤはジェードの上に座るような格好になった。まだ熱を持つ秘部は、容易にジェードのものを迎える。

「ひ……ああ!」

 また一気に貫かれて、悲鳴がもれた。抗議しようと顔を後ろに向けると、口づけされる。ジェードの勃ち上がった陰茎を後ろでくわえたまま、舌を絡ませた。

「ふぁ……、ん、ジェードさま、私……っ」

 乳輪をゆっくりと撫でていた指が突然突起を強くつまみ、その刺激でリーリヤは跳ねそうになった。

「ここをいじられるのも好きだろう?」
「やっ……!」
「そして中は、この辺りを擦られるのが好きだ」
「ぁ、んぁああっ」

 抱えられて突き上げられる。
 思考が真っ白になり、リーリヤからも勢いよく白濁が吹き出す。それをジェードが手で受け止め、ぬるぬるとまたリーリヤのものを擦り始めた。

「お前のしてほしいことをしてやる。どうしてほしい?」

 リーリヤは弱々しくかぶりを振った。擦られるのがあまりに気持ち良くて、どこにも力が入らない。何度もジェードがリーリヤの頭に唇を押しつける。
 なんだか今夜は妙に優しい。今までであれば問答無用で組み敷いて、ただ突いてくるばかりだったのに。これはあれはと尋ねてきて、まるで奉仕するかのような抱き方だった。

「やだ……、いやです……! そんなに優しくしないで。あなたの好きなように、してください……」

 乱暴に抱かれる方がいい。
 明らかにジェードは己の欲を抑えていた。リーリヤの反応をよく観察し、リーリヤの状態を優先している。
 リーリヤにしてみれば、これではあべこべだ。

「疲れたならこの辺にしておくが」
「疲れてなど……いません」

 呼吸を乱しながら、リーリヤは声を絞り出した。

「もっと、してほしいです」

 これは私の本心ではない。こうでも言わなければ、彼は本当にやめてしまうだろうから。
 私が求めているわけではないのだ。
 要求は聞き届けられ、何度目かの挿入が始まる。

「っ……ぅん、んんッ」

 性急さはなくて、丁寧で、いたわりのある交わりだった。
 重なる花弁の奥に、ゆっくりと指を押し入れられるような感覚。幾度となく誰かと性交をしてきたが、こんな抱かれ方は初めてだ。

「あ、ぁあ、ジェードさま……ッ、あ、あン、んっ、ひ、ああぁあっ!」

 押し寄せる快楽の波にあらがって思考するのが難しい。欲に支配されて、相手の名前を口にするのが精一杯だった。伝えたいことがあって呼ぶはずなのに、肝心の内容が霧散する。ねだるような甘い呼び方になってしまう。
 それに応えるように、優しく的確に突かれ続ける。

 ――違う。違う。ジェード様、私は、あなたのために、私が。

 揺さぶられるままに考えも切れ切れになっていく。体が蕩けてしまいそうだった。
 快感が頂点に達して、弾ける。花が咲く気配と共に、リーリヤは寝台に体を伏せた。
 余韻に浸りながら、目だけを動かして辺りの様子を見る。寝台の敷布の上には、白い花弁が積もっていた。
 ジェードは今夜、この花を一枚も口にしていないのだ。

「……ジェード様、花を」

 起き上がってそうすすめるが、ジェードは「いや」と短く返事をして、花に手を伸ばそうとしなかった。

「どうしてですか?」
「そう、いつも食べなくても平気だからだ」

 軽く放心しているリーリヤは、いつものように頭が働いていないのを感じていた。だから考えもたどたどしくなる。

 ――ジェード様が、私の花を召し上がってくださらない。

 これもやはり遠慮なのだろう。ぼうっとしていてもそれくらいは察しがつく。だが、相手の感情を慮るよりも自分の感情の方に意識が向いた。
 拒まれたのが、悲しかった。
 リーリヤは、ふらりと手をのばして白い花を鷲掴みにする。それをジェードが黙って見ていた。

「ジェード様は、私の……リーリヤの花を、召し上がってはくださらないのですか?」

 花をくわえて、顔を突き出す。そのままジェードの首に腕を回して、彼の口の中に花弁を押し込んだ。ジェードがリーリヤの唾液と一緒にそれを飲み込み、口づけを繰り返す。

「……リーリヤ」

 少しだけ顔を離し、ジェードは翡翠の目を細めて言った。

「私の我慢を台無しにするつもりか?」
「我慢などなさる必要はないと言っているのです。あなたの好きなようにされるのが、私の喜びなのですよ」

 それからのジェードの行為は、堪えきれなかったようでやや激しくなった。それでも、いくらか理性的ではあったが。
 花を喰らいながらリーリヤを抱く。体の芯から溶けていくような感覚に、リーリヤは一晩中翻弄され続けた。
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