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第一部 再会
9、交わりの花
しおりを挟む「何故だ?」
「お嫌でも抱くのをおすすめします。体を回復させて明日に備えておくべきでしょう」
苛立ちを覚え、ジェードは彼に近づくと手首を握った。
「何故そこまでしようとする?」
淫乱が誘うのとはまた雰囲気が違う。全く、心からの「親切心」がそうさせているらしい。理解出来ない。
「私……」
リーリヤは困ったように微笑んだ。
「私、他にあなたにして差し上げられることがないので。花は、抱かれないと咲かないのですよ」
だから体を許すというのか? 見ず知らずの、素性もわからない男に?
馬鹿げている。
シャツの 釦はすっかり外され、胸がはだけて明かりに照らされている。こんな時であるのに、一目見ただけで肉欲を刺激される妖しい魅力があった。
「お前の今の話を全て信用すると思うのか? 交わるのに夢中になっている隙に、仕込んだ何かで私を刺すかもしれない」
「色仕掛けを疑われているのですか……。そんなに魅力的じゃないと思うけどな……」
これだけの美貌を持ちながら、本人には自覚がないらしい。
呟きながら自分の体を見下ろしたリーリヤは、何かひらめいたのか顔を上げ、両手首を合わせて持ち上げた。
「でしたら私の手首を縄で縛って、何も出来ないように拘束して性交をしたらよろしいでしょう。裸になりますから、何も隠したり出来ませんよ」
安心させようとするような微笑みを見て、常軌を逸しているとジェードは思った。この男の言っていることが真実であるなら、明らかに危険なのはそちらの身であり、彼に利益は一切ない。
理由のわからない怒りがこみ上げて、体を一気に熱くさせた。
そこまで言うなら犯されればいい。そして後悔すればいい。
嗜虐心が刺激され、ジェードはリーリヤに渡された縄で言われた通りに手首を縛った。きつく縛ったので痛みがあったのだろう、やや眉をしかめたが、恐れのようなものは目に浮かんでいなかった。
脱いだマントを下にして、裸のリーリヤを押し倒す。
目にしただけで欲情する、美しい体だった。一切の不足がなく、妖艶な肢体。想像上の完璧な肉体というものがそこにあった。女のような柔らかさはないが、しっとりとした肌は触り心地が良い。
心配そうな目をしているから何かと思えば、リーリヤが見ているのはジェードの体のあちこちに巻かれた包帯だ。
「痛みませんか」
「お前は自分の心配をした方がいいのではないか?」
胸の突起も男の象徴も、人間のものと大差ない。だが形が良く、不格好な要素がどこにもなかった。
ジェードも王子であるから様々な女を抱く機会があったが、それほど興は乗らなかった。だが、今目の前にある体は別格だ。まさしく魔性のものだった。
肌に吸いつくと、リーリヤが体をびくりと震わせる。
胸の飾りを刺激すると、短く声を漏らして目をつぶった。触る度に視線を泳がせるそのさまは、まるで処女に近い。
とても誘った側の男の反応ではない。
そんな疑問を悟ったのか、リーリヤは少しひきつった笑みを浮かべて弁解した。
「申し訳ありません。経験が多くないので……」
「花の子というのは性交をあまりしないのか?」
「それぞれではないかと……。私は誰も抱いたことがありませんし、決まって抱かれる側なのですが、こういうのが得意ではないので、あまり積極的には挑んでこなかったと言いますか……」
今までの余裕がなくなっている。
それであの申し出をするのだから、やはり馬鹿としか言いようがない。しかしジェードにとってはこの男が慣れているかどうかなど大した問題ではなかった。
体が甘い。舐めれば肌は自然な甘さを感じる。
万が一のことも考えてリーリヤに不審な動きがないかを観察しつつ、ジェードはその味を堪能した。弱い刺激に悶えつつ、リーリヤは耐えている。
ジェードは男を抱いた経験がなかったが、男の体がどんなものであるかは己も男なので知っている。男色家の話も聞いたので知識はあった。人間でないものにどこまで通用するかは知らないが。
桃色に勃ち上がる陰茎から、蜜のようなものが漏れている。舐めるとこれもまた甘い。花の蜜だ。
人間ではないことを確信した。
後孔はキツいものの、ほぐさずともジェードのものをどうにか飲みこんでいく。手を縛られたままのリーリヤは先程から歯を食いしばっていたが、ついにこらえきれず声をあげた。
「いぁ……ッ……っぐ、んあッ!」
ゆっくりと抽送を始める。中は温かく、壁が吸いついてきた。思いの外、滑りがいい。
「あっ、う、……ゃあっ、あっああッ!!」
動きを激しくすると、呼吸を荒くしながらリーリヤは目に涙を浮かべてのけぞった。あの涙も甘いのだろうか、と思いながらジェードは腰を動かし続ける。
「も、もう、……あッ……だめ、やあぁっ」
リーリヤが身を震わせて、射精を伴わずに達する。
すると同時に、宙に白い花が浮かんで咲いた。見たことのあるようなないような花で、大きさは拳大だ。
自分も躊躇なく中に出して引き抜くと、ぐったりするリーリヤはそのままに、浮かぶ花を手に乗せた。
「それを……食べてみてください。あ……私が先に毒味しましょうか」
荒い呼吸を落ち着かせようとしながらリーリヤが弱々しく囁く。
これを食べて死んだところで、もうどうでもいいと思いながら花の半分を口でむしって食べた。
驚くほど美味かった。
見た目以上に食べ応えがあり、歯ですり潰すと甘みが口の中に広がる。その甘みが鼻まで抜ける。花弁は喉に落ちると一気に乾きを潤した。
馥郁たる香りは、全身に特殊なエネルギーのように巡っていく。
安堵と高揚感が同時に押し寄せて、思考が痺れた。麻薬のような、耽溺性のある薬を摂取した時と感覚が似ているが、それよりも遙かに心地よく、嫌な感じがしなかった。
半分ではやめられず、残りの半分も口に放り込む。
「どうですか」
これを食べて初めて、自分が自覚していたよりも弱っていたのだと気がついた。疲労は回復し、長い間何も食べずに痛みを感じていた胃の腑の具合も一瞬で良くなっている。
「あの花はまだ咲くのか?」
「はい。私が絶頂を迎えると……わっ!」
みなまで聞かず、ジェードはリーリヤに覆い被さった。あんなものではまだ足りない。
また激しく突いて、彼を責めた。
抵抗はしないがどうしたらいいかわからないといった様子で、嬌声をこらえながらリーリヤは受け入れている。
花を得る以上にこの男を啼かせたくて、ジェードは手加減をしなかった。
「あ、あああ、……そこは、っ、そんなに、強く……ひっ! あ、だめ……!」
花が咲く度それをくわえ、リーリヤの口にも何枚か押し込んだ。己の絶頂を迎えた証をくわえる彼の姿は実に淫靡でジェードを欲情させる。
血の乾いた喉にしゃぶりつくと、リーリヤは押し殺した悲鳴を漏らした。
困ったような、怯えたような顔がたまらなかった。
そんな交わりが、どれほど続いただろうか。
気がつくと、むせるほどの花の芳香が周囲に満ちている。それが花の子との情交を示すものらしかった。
白い花弁があちこちに散っていた。結局何輪咲かせたのかは数えていない。
「ご体調の方は、いかがですか……?」
肘をつき、起き上がりかけたリーリヤは手首のいましめがゆるんでいるのを見て、どうするべきか困惑しているようだった。
手首が赤くなっている。その痕はジェードに自己嫌悪を抱かせ、無言で縄を外してやった。当の本人は手首を軽くさすっただけで、頓着していないらしい。
「顔色はよろしいようですね」
それがさも嬉しいことのように微笑むと、リーリヤは落ちていた一輪の花を握った。次に手を開いた時には、花は種に変わっていた。
「花のままだと日持ちはしないのです。数時間で消えてしまう。けれど、こうして種に変えると持ち運びが出来ますから。どうぞ、持っていかれて下さい。これがあれば、二日くらいの飢えは防げます」
自分よりも先にジェードの肩に布をかけ、それからやっとリーリヤは服を身につけ始める。尊厳を傷つけられるような、いたわりの欠片もない犯され方をしたというのに、表情にはまるで変化がなかった。
ジェードにとっては、不気味で腹立たしいことだった。
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