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13、玩具になれ
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どうしたらジルトを奪還できるか考えた末、手っ取り早くフィアリスは王都にあるウェイブルフェン公爵の邸宅に侵入することにした。
ジルトを捕らえたのは公爵ではない。その息子のギリネアス・ウェイブルフェンである。顔は悪くないが身持ちが悪いともっぱら評判で、貴族令嬢達からは毛嫌いされていた。単に素行が悪いというだけではなく、人の道に反することを行っているらしいと噂が立っており、まともな人間であれば極力関わり合いになるのを避けている。
正面切って会ってくれと頼んでいる時間はなかった。それに余計な策を練られたくはないので、意表をつこうと決めた。
ここは複数ある公爵邸の一つで、公爵は滅多に寄りつかないと聞いている。
フィアリスはわざと悪手を打ったふりをして、邸宅の防護魔法に引っかかり、警備の者に手酷くやられた。
そうしてギリネアスの前まで引っ立てられたのだ。この方が早い。疑われないようにしっかり負傷するのは大変だったが、上手くいった。
「侵入者が誰かと思えば、あのリトスロードのお抱え魔術師とはな」
笑いながら、ギリネアスは目の前で縛り上げられて横たわるフィアリスのフードをはぎとった。
顔をのぞきこんで、ほう、という風に目を細める。
彼がもう少し頭の回る人間であれば、事前に聞いたフィアリスの評判からして、こうもあっさり捕まるのはおかしいと疑っただろう。
ギリネアスも悪知恵が働く人間ではあるが、自分に都合良くことが進むとあまり疑心を抱かないのか。フィアリスにとっては好都合だ。彼が常軌を逸した好色だということも。
「うちの者を……お返しいただきたいのです。ギリネアス様」
息を切らしてフィアリスは訴えた。
「お前にそれを命令したのはリトスロード侯爵か?」
「いいえ。私の……独断です。彼も独断でここへ。私はやめろと言ったのですが、止められませんでした」
「それで助けに来たというわけか? 恐れ多くも我が公爵家の邸宅に忍びこんで? これは問題だぞ、魔術師フィアリス。二つの家の火種になるとは思わなかったか?」
「彼は……私の恩人です。リトスロード侯爵様はきっと見捨てろと仰る。私にはそれができなかった……」
適当に作り話をする。
ジルトはウェイブルフェンに腹を立て、自らの判断で忍びこんだ。それを知っていたフィアリスは止めようとしたが止められず、正体がバレたと知って動揺し、後先考えず慌てて奪還のために侵入した、とこういうものだ。
「返していただきたいのです。お願い申しあげます。どうか彼に慈悲を……っ」
弱々しく、フィアリスはうめいた。足が痛むふりをする。実際折れかけていたので痛いことは痛い。
「そういうわけにはいかないな。俺は父上に報告しなければならない。当然、リトスロードにも抗議しなくてはな」
「それだけは……。侯爵様には私がこのような愚行を犯したことを伝えないでいただけませんか。何でもします。愚かな彼を解放し、このことを内密に済ませていただけましたら、私は何でも……」
必死な眼差しでギリネアスを見上げた。
実際、まだウェイブルフェン側に大した損害がないのは確認済みだ。ジルトはろくな情報をつかめないまま捕まってしまったのだから。
だから解放したところで痛手は少ないはず。
フィアリスは、ギリネアスの興味がこちらに向くよう工夫した。
自尊心の強いこの令息は、敵対する家のお抱え魔術師がこうして無様に倒れて懇願する様を非常に気持ちよく思っているはずだ。
事前に知った話によると、ギリネアスは加虐趣味を持っている。弱った相手を見ると欲情して、徹底的になぶると聞いていた。
「何でも致します」
しばらく目を細めてフィアリスを見下ろしていたギリネアスだったが、顎をつかんで品定めするように見つめる。粘っこい視線が全身にそそがれた。
「そんなに怖いのか、お前の主は」
これにはフィアリスは何とも答えず目をそらす。
「しかし、ぞっとするほど美しい顔をしているな。お前に比べれば、そこらの貴族の娘などかすんでしまう。リトスロードのフィアリスがこれほど華奢な男だとは知らなかった。本当にお前がフィアリスなのか? 偽物ではなかろうな」
「ギリネアス様。彼を……」
言い募るフィアリスの言葉をギリネアスが制する。
「まあいい、わかった。今日俺は気分が良いからお前の願いを聞いてやろう。俺は案外善人なんだ。それに退屈だから、玩具がほしかっただけだしな。おい、フィアリス。お前何でもするとそう言ったな。今更撤回はできないぞ」
「はい……」
にやり、とおぞましい笑みをギリネアスは浮かべた。そして顔を近づけると、フィアリスの頬を舐めあげた。
嫌がって身を固くすると、ますますギリネアスは嬉しそうにする。
「ではしばらくお前が俺の玩具になれ」
その場で押し倒されて、口で口を塞がれる。
「……んぅっ……!」
口内を舌で犯されながら、思った以上にこの男はうかつなところがあるらしいとフィアリスは分析していた。
これでは隙だらけで、殺してくれと言っているようではないか。まあ、これが罠だという可能性も捨てられないのでその手には乗らないが。
などと考えていると、無理矢理服を脱がされそうになった。
「まずは身体検査から始めないとな。よからぬものを隠し持っていないとも限らない。隅から隅まで調べさせてもらうか。ものが隠せそうな場所は『全部』だ」
「や、やめ……」
この手の輩は支配欲も強く、抵抗すればそれだけ喜ぶ。
弱々しく嫌がるフィアリスに、ギリネアスはとても詳細を口に出すのもはばかるような「身体検査」とやらを強行した。悲鳴が嬌声へと変わるのを、残忍な笑みを浮かべながら楽しんでいる。
結構な趣味だ、と犯されながらフィアリスは内心呆れるしかなかった。
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