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60 聖獣様の守護騎士
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「しゃぶしゃぶって言うんですよ」
「しゃぶ、しゃぶ……」
鍋の湯は沸騰している。イリスが箸でつかんでいるのは、肉の代わりの葉っぱである。白くて肉厚で、湯にくぐらせると柔らかくなって食感も良くなる。
イリスは前世、しゃぶしゃぶといったらぽん酢派だった。弟はゴマだれが好きだったのをなんとなく思い出す。
ここにはぽん酢もゴマだれもないが、さがせば大体のものが見つかる山だから、ぽん酢的なものも用意できた。醤油っぽいものは早くから見つけているし、すだちっぽいものも発見している。
他にも、たれはレパートリーに富んでいて、湯にくぐらせた食材をどれにつけて食べるか悩んでしまう。
「ねえ! ねえ! そっちのたれをこっちに寄越してよ! 僕は食べ比べてみたいんだよ!」
「お前が取りに来いよ!」
「なんか先に全部茹でてから食べたらよくなぁーい? って思ったけど、こうやっていちいちくぐらせて食べるのも面白いねぇ」
「野菜の芯が特に美味だね!」
相変わらず賑やかなのは、精霊達が騒いでいるからだ。こうなってくるとセフィドリーフはうんざりした顔をする。
「うるさいぞ、お前達」
鍋は二つ用意されていて、一つはセフィドリーフとイリス、もう一つは精霊達用だ。
精霊達は叱られてもあまり気にしない。行儀の面で言うと微妙かもしれないが、彼らは人間ではないのでテーブルマナーはさほど厳しくしなくてもいいだろう。この城にはイリスとセフィドリーフ、そして精霊達しかいないのだ。楽しんでもらえて何よりだった。
今日も平和に時間が過ぎていく。
セフィドリーフは同胞に語った。
私はもう悩まない。人間を信用する根拠は、イリス・トリーヴェルダの存在だ。
我らと交わることができる、純真な人間がいるかもしれない。そういう希望を心のどこかで捨て切れなかった自分のもとに現れたのが彼だった。
イリスの存在は未来の希望だ。自分達が友好の象徴となり、平和的な道を模索し続ける。
おそらく、人々はこれからも道を誤るだろう。しかし私はその度に絶望したりせず、根気よく彼らが自ら解決策を見出すのを見守りたい。
時間はかかるだろうが、度量の広い王となろう。見守り続ける優しき王となる。やっとその覚悟ができた。
私達を信じて、しばし待て。
お前達を楽園へと導くことを私が約束しよう。
その声は、かつてなく威厳に満ちていたという。
よく晴れた日。イリスは弁当の焼おにぎりを携えて、セフィドリーフと共に散歩に出かけた。
セフィドリーフは天上で同胞達に説明をして、イリスも神殿に改めて報告に行ったりと少々ばたついていたが、やっと落ち着いたのだった。
山へ至る道は閉じたが、人々の祈りは渾然一体となって、そよ風のように山へ届く。その中には君の母親のものもある、とセフィドリーフは言っていた。家族と領民が健やかであることを願う、それなりのごく普通の祈りだ、と。「家族」の中には、イリスもきちんと入っているらしい。
「私と離れたのだからさぞ幸せになるでしょう」との母の声に、「相変わらず愛の歪んだ仕方のない女だ」とセフィドリーフは手厳しい。
今後もここで生活することが決まってから、セフィドリーフはイリスのことを心配していた。
山での暮らしはおそらくあまり刺激がなくて、退屈するかもしれない。何もない日々がただ続いていくだけだ。それでもいいだろうか、と。
いいに決まっている。そんな幸せなことはそうないではないか。
イリスとセフィドリーフが番になるということは、人間と聖獣の絆をあらわしている。
「私、セフィドリーフ様の番に選ばれてすごく嬉しいです」
にこやかに言って隣を歩くイリスを、セフィドリーフは横目で見ている。
「……番になるってことがどういう意味かわかってるのかな? 何をするか知ってる?」
「?」
「だからさ、番になるっていうのは、つまり私と……」
言いかけて口をつぐんだセフィドリーフは、何故か天を仰いでいる。
「うん……君は、屋敷の奥に閉じこもっていて他人と関わらなかったからか、年齢よりもちょっと幼いというか……すごく、純情そうだからな……。込み入った話はまた今度にしよう」
まあいいか、と一人頷くセフィドリーフに、イリスは首を傾げた。何の話だろう。
景色がひらけ、広く山を見渡せるところまでたどり着いた。
今日も今日とて、聖なる山は美しい。どこを見ても清浄な白が輝き、豊かな自然が心を慰める。ここは聖なる気に満ちている。
そして隣には、愛しい人がいる。
「「幸せだなぁ」」
イリスとセフィドリーフの独り言が見事に重なって、二人は笑い出した。
「美味しいものを作ってくれて、私を守ってくれる騎士がいつもそばにいるなんて、私は幸せ者だ」
「美しくて優しい聖獣の王に仕えられる私も、幸せ者です」
向かい合って、セフィドリーフがイリスに口づけをする。周囲で精霊の欠片が、きらきら光って祝福している。
顔を離すと、セフィドリーフが微笑みかけた。
「セフィって呼んで、イリス。それが私の名前だから。君には私の名を呼ぶことを許可しよう」
「セ……」
慣れないことに顔を赤らめたが、イリスはどうにか彼の名前を口にした。
「……セフィ」
セフィドリーフがごく自然にイリスの手を握った。手を繋ぐと、温もりが伝わってきてイリスは涙が出そうになった。慈しみを持って手を握ってくれる人がここにいる。それはなんて素晴らしいことなのだろう。
「これからも、私を守ってくれるね? 私の騎士よ」
「はい。もちろんです」
二人並んで景色を眺める。
イリスは心の中で、いつか、全ての生き物が健やかに安穏と暮らせる楽園が、地上に来るのを祈った。
「さて、じゃあお昼にしようか。お腹空いちゃった。君の作るヤキオニギリは本当に美味しいから……」
「今日はたくさん作ってきましたよ。お茶も用意しましょうね」
私は聖獣様の守護騎士、イリス・トリーヴェルダ。
風の聖獣、セフィドリーフ様。私はまだ非力だけれど、あなたを必ず守り抜きます。そして美味しい料理を作って、あなたのことを、ずっとずっとお支えします。
(終)
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最高のお言葉いただき嬉しいです😭🙏
おわってしまった。。!!!
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番外編、後日談、第二章、なんでもいいのでお願いします!お願いします!
お読みいただきありがとうございます!無事完結することができました(*´∀`*)
そう言っていただけて、書いて良かった〜と嬉しさいっぱいです!
いつか時間があれば、後日談とか書けたらいいなと思っております💪
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そうですね!いつか番外編など書く機会があれば、仲良し後日談みたいなものがいいかな〜と思っております( ´ ▽ ` )ノ