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35 他の聖獣
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「リィ様は風を司っているから風の聖獣、セフィドリーフ。他には、水のウォルスラン。火のエンファーラ、土のダルクストイア。後、闇のディアレアン。リィ様の四つ足の姿は狼に似ているだろう? 水は馬、火は鳥、土は鹿、闇は猫に近いかな。四つ足四つ足って言うけど、エンファーラ様は鳥だから唯一獣の方も二つ足だよね。とにかく、みんな獣の姿の方は大きくって綺麗だよ」
アエラスが五聖のことをいろいろと説明してくれた。地上には聖獣達の記録がほとんど残されておらず、イリスもセフィドリーフのことは今まで名前くらいしか知らなかったので他の聖獣については当然何も知識がなかった。
聖獣達はそれぞれ何らかの動物に近い形を持っているが、動物そのものではないそうだ。地上でいうところの「狼っぽい」「鹿っぽい」というだけであり、便宜上狼と呼んでいるという。
「そういえば、君達精霊はセフィドリーフ様のことをリィ様って呼ぶけど……」
「セフィドリーフというのは、『偉大なる風のセフィ』って意味なんだよ。リィという部分が風。だから僕達はリィ様って呼んでる。人は知らない旧い言葉なんだ」
要するに、「イリス」のような個人名は「セフィ」なのだ。ディアレアンであれば、「深遠なる闇のディア」という意味になるという。
「人間ってリィ様に呼びかける時、風を司る偉大なるセフィドリーフって言うけど、翻訳すると『風を司る偉大なる、偉大なる風のセフィ』って意味が重なっちゃうからなんか面白いよね」
名前なんてそんなものだけどさ、とアエラスは笑っていた。
山の中を歩きながらアエラスはイリスに五聖のいろいろな話をしてくれた。正直全員愛想がない。リィ様があれでもまだ一番とっつきやすいと説明する。
「聖獣様達は交流があるの?」
「あんまりないよ。これは元からで、みんなが地上にいた頃からさほど関わらなかったんだ。すっごく不仲ってわけではないけど、仲良くもないね。上に行った方々のことはもう詳しく知らないけど、リィ様は頑固にここへ残るって主張したからその時は揉めて、疎遠になったんだ」
もしかするとセフィドリーフ様って孤立しているのかな。そう考えると悲しくなった。確か彼は聖獣の王のはずなんだけど。
かといって部外者の自分が気を揉んだところでどうしようもない。
イリスはアエラスと別れて、今日も食材さがしへ出かけることにした。アエラスは近頃とみに豊かになってきた山の自然を見回ってくるという。
「それじゃあね、イリス。気をおつけ」
「わかってる」
ここは安全な山だ。イリスさえうっかりしていなければ何も起こらない。
今日はおにぎりをお弁当に持ってきたから、景色の良いところを見つけて食べようと思っている。卵黄の醤油漬けを具にしたものだ。正確には卵黄ではなくて木の実なのだが、卵黄に似ていたので醤油(貝の汁)に漬けてみた。これは試作品で、美味しかったらセフィドリーフにも食べてもらう予定だった。
何か面白いものが見つからないかな、と山の中を散策する。歩く度にもの珍しい食材が見つかるので、散歩をしても飽きなかった。
セフィドリーフは自分の山だが、今まで食材を求めて歩き回ったことはあまりないし、昔何かを食べるとしたら適当に木の実やキノコなどをむしって食べるくらいだったという。
火を通したり凍らせたりすると思わぬ変化を見せるものがたくさんあった。たとえば、米のような石だとか。いろいろ集めて試してみるのはイリスの趣味の一つとなった。
気をつけなければならないのは、迷子になることだ。山は広いし、人が通るように道が整備されているわけでもない。迷ったところで精霊達やセフィドリーフがすぐに見つけてくれるだろうが、もう子供ではないのだし彼らに面倒はかけたくない。
(後、足を踏み外して崖から落ちたりしないことだな)
急な斜面に球体のキノコを見つけたのでそれも欲しかったが、危ないのでやめておいた。
今日はいつもの石の米とは微妙に異なる種類の石を発見して、集めておいた。イリスは最近もち米をさがしている。
前世で主食としていたのはいわゆるうるち米で、粘りけがあるのがもち米だ。うるち米は半透明、もち米は真っ白で不透明。
実はさっき見つけた石米は普段のものより透き通っていない。もしかしたら、炊くともち米のような食感になるのでは、と期待している。
餅が作れたらまた面白いものができるだろう。ひょっとすると餅つきができるかもしれない。もう世界観が合わないというのは気にしないようにした。
籠を置いたイリスは、昼食を食べる場所をさがして近くを歩き始めた。どこも見晴らしが良いが、腰かけるのに丁度良い倒木があるあの辺にしようか、などと見て回る。
するとどこかから声が聞こえてきた。
「お前が、セフィドリーフの守護騎士とかいう人間か」
「え?」
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