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31 全ての間違い
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フェリクスは生涯に渡り、度々セフィドリーフのもとを訪ね続けた。
彼も寸暇を惜しむ身であるので、世の情勢のこともあり、途中からは訪問の頻度はかなり減っていた。しかし一年に一度以上はやってきて、白亜の城で酒を飲み、食事をした。
「私の力が欲しいんじゃないのか? てっきり君は、そういうものをあてにして来ているのではないかと思ってたけど」
先の戦で辛酸を嘗めたフェンドリト王国の国王を久方振りに迎えたセフィドリーフはある時そう言った。聖獣を味方につければ、勝利は必ずや手に入れられる。しかしフェリクスは一度としてセフィドリーフに助力を頼まなかったのだ。
「これは我らの争いだからな。あなたを巻き込むのは申し訳ない。私はあなたが安穏とした生活を送ることを望んでいるのだよ。友人を血生臭い戦に引き込みたくはない」
髪に白髪が混じり、皺も増えたフェリクスはいつものように笑っていた。そして二つ足のセフィドリーフの姿をまじまじと眺める。
「……それに、あなたはなんというか……、人間には深入りしない方が良さそうだ。私は初め、聖獣というのはもっと冷酷で割り切った考え方をするのだと思っていた。けれどあなたは想像よりも優しくて、繊細だ。人は危険なところがある。あなたは傷つけられるかもしれない」
「自分で言うことじゃないけど、私は結構強いんだよ。人間に負けたりはしないよ」
フェリクスはゆっくりとかぶりを振った。
「あなたのその強さが人間を呼び寄せる。我らは力を欲する生き物だ。よいか、私の言うことを聞け。風を司る偉大なるセフィドリーフ。あなたはただ、山から人を見下ろしているんだ」
そう念を押されなくても、人里に下りようという気にはあまりならないのだが。わかったわかった、とセフィドリーフは適当に相づちを打っておいた。
「それで君は、あの予言をまだ信じているのか?」
「ああ」
「どちらを?」
「もちろん、聖獣の王が人と結ばれる方だ。私は良いものと悪いものがあれば、良い方を信じると決めている」
どちらにしても、セフィドリーフにはあまり関係のないことに思われた。自分は王にならないし、人間の番も見つけない。
この二つの予言は後世に伝わる際、どういうわけか「フェリクス王の予言」と呼ばれるようになった。フェリクスが吹聴したわけではないのだから、どこからどう伝わったのかわからない。
そして、このフェリクス王の予言こそが、後にセフィドリーフを苦しめることになるのだった。
フェリクス王がこの世を去り、国々は混乱の渦中にあった。
戦争はフェンドリト王国が劣勢であり、いよいよ勝敗が決するという時、戦場に一匹の銀色の獣が降り立った。
獣は――セフィドリーフは、敵を吹き飛ばし、フェンドリト王国に勝利をもたらした。
剣を抜いて敵将に突きつけ、撤退を要求したのだ。
獣の耳と尾を持つ美丈夫は、王国に畏怖と狂喜をもたらした。
聖獣が、我らの国に味方したのだ!
はっきり言って、セフィドリーフは深く考えて行動したのではなかった。とにかく、フェリクスが愛した国が消えるのが哀れでならず、彼の忠告も忘れてつい人の世に介入したのだ。
後から考えれば、あれが全ての間違いだった。
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