非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku

文字の大きさ
上 下
29 / 60

29 城

しおりを挟む



「なんと! どうなっている! 遠くに見えた時は幻かと思ったが、確かにあるぞ。しかし、見事だな」

 フェリクスは呆気にとられながらも、目の前にそびえる建物を見て感嘆の声をあげていた。
 彼の目に映っているのは、白亜の城だ。以前来た時には影も形もなかった大きな城が、そこに忽然と現れたのだ。
 中からセフィドリーフが出てくると、フェリクスが嬉しそうに破顔する。

「セフィドリーフ! これは一体、何事だ?」
「建てたんだよ」
「建てたって? あなた一人でか」
「私は魔法が使えるんでね。石を切り出して組み立てるくらい造作もない。細部はあまり自信がなかったから、精霊に相談して作ったけどな」

 今までは必要性を感じなかったので試みたことがなかったが、城くらい、半日もあれば作れるのだ。セフィドリーフが城というものをまじまじと見たのはかなり昔だったので、建築様式はところどころがかなり古い時代のものになった。アエラスの助言で手を加えたので、少しばかり奇妙な城になったかもしれない。
 いつも付き従っている護衛の騎士達は驚きのあまり口を開けているし、フェリクスは感心してしきりに頷いていた。

「やはり、聖気に属するものは違うな。神の御業に近い。天晴れだ! セフィドリーフよ!」

 この男はいつも元気だな、とセフィドリーフは内心呆れた。こんなに小さくて脆い生き物なのに、力に満ちている。

「それでまたどうして、急に城を建てようと思ったのだ?」

 戯れに建物を建てる聖獣もいるにはいた。それは砂の城を作るように容易くて、すぐに壊して何度も作れる。
 けれどはっきり言って聖獣にはさほど必要なものでもない。巣の中に身を隠して安全を確保しなければならないわけではないからだ。
 大きな四つ足ではかえって住みにくいし、家がほしいと特別感じたことはなかった。

「人間の王を迎えるのに、いつもその辺の草の上ってわけにはいかないじゃないか。君達は屋根が好きだろう? それと、かまどを作っておいた。調理場だ。竈だのなんだの、調理器具なんて持って行ったり来たりさせたんじゃ、君の家来があんまり可哀想じゃないか」

 そうすると、私のためでもあるのだな、と喜んでフェリクスは中を見学した。何を見ても見事だ見事だと言って褒める。
 その日は軽い食事をして話をするだけで済ませた。次に料理人を連れてくるらしい。これは彼の従者が譲らなかったことで、さすがに国王に料理人まがいのことはさせたくなかったと見える。

「必ず時間を見つけて泊まりにくるぞ」

 と多忙なはずの王は宣言した。


 初めて城に足を踏み入れてから一ヶ月半後、フェリクスはいつもよりは多い従者を連れて聖なる山にやって来た。前に言った通り、専属の料理番も一緒だ。
 聖獣様のお口に合うものが作れるかどうか……と恐縮しながら、調理場へと入っていく。
 セフィドリーフは苦いものも辛いものも、特に嫌いなものはないからなんでもそれなりに美味しく味わえた。

 このごろは今まで以上に食事というものは悪くないと思えた。力が増すのを感じるし、山の自然は豊かになっている。今年は地上も豊作だというが、それもセフィドリーフの力の影響なのかもしれない。
 今宵はフェリクスが普段食べているようなものが卓に並んだ。いつも明るいうちに彼と口にする軽い料理ではなくて、これが王侯貴族の食べるものなのか、とセフィドリーフは興味を持って咀嚼した。
 確かに、数が多くて豪勢ではあった。

「いかがでしょう」

 緊張で失神しそうになっている料理番を哀れに思いながら、「美味しいよ」と言ってやった。すると額の汗を拭きながら、ほっとした顔で下がっていく。

(そんなに怖いかな、私は)

 二つ足の姿でいるのだから、大して彼らと変わらないような気がするのだが。
 どんな道具も一度使い方を見ればすぐに覚えるセフィドリーフは、フォークなどの使い方や作法も理解して、フェリクスと同じように食べることができた。

「今夜は泊まるぞ、セフィドリーフ。よいだろうな?」
「お好きにどうぞ。でも君は一国の主で、あまり暇がないんじゃなかったかな?」
「たまにはいいのだよ。今日来るために私は、うんと急いで仕事を片づけてきた。臣下も文句はないだろう」
「異種族との交流も仕事の一つだのなんだの言って、丸め込んだんだろうな」
「よくわかったな」

 食事を終えると場所を移動して、テラスへと出た。夜天には大小の星々が散らばり、またたいている。二人は椅子に座ってそんな夜空を見上げていた。

「ここは静かだ。地上の喧噪が遠い。なんと美しいのだろう」

 珍しく落ち着いた声音でフェリクスが言う。
 セフィドリーフは隣に座るフェリクスの横顔を眺めた。近くに置かれた燭の明かりに照らされるその顔は、若いがしかし、目尻に老いの兆しである皺が刻まれている。
 セフィドリーフは覚えがないので想像するしかないが、大勢の上に立ったり何かをまとめたり決定するのは、楽な立場ではないのだろう。
 この一見底抜けに明るく見える男も、多くの悩みを抱え、時には眉間に深い皺を刻むに違いない。

「フェリクス。そう頻繁に私を見張りに来なくてもいい。君の民に危害を加えないと約束しよう」

 そう言うと、フェリクスはちょっと目を見開いてセフィドリーフに視線を寄越した。

「私の訪問を、そういう風に思っていたのか?」
「人とは異なり、人より遙かに強い力を持つ生き物がいるのだから、心配して当然だ。かといって排除をしようと刺激してもっと大変な状況になるのも避けたい。最も責任ある立場の君がわざわざ様子を見に出向いたんだろう? そして私のご機嫌をうかがっているんだ。もう、そんなことはしなくてもいい。別に襲わないよ。本当だ。利益がないもの」
「セフィドリーフ。私はあなたと友になりたかっただけだ」
「君は人の国の王だろう。そんな単純な理由だけで来るはずがないし、来れる立場でもないはずだ。それくらい私でもわかる」

 フェリクスはしばし顎を撫で、一気に杯の酒をあおった。
 彼が気のいい男であることはなんとなくわかる。けれど、これでも一国の最高権力者であり、彼が動くとなればそれなりの理由があるはずなのだ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

処理中です...