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15 幻想料理
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映える料理、というのがある。
食事というのはやはり味が重視されるものだが、見た目の美しさや華やかさ、面白さなどが求められる場合も少なくなかった。
キャラ弁にお菓子の家。動物の形をしたビスケットやパン、ケーキ。食事は生きていく上で欠かせないものであると同時に、娯楽の一種でもあった。綺麗なものや風変わりなものは心を楽しませるのである。
中世の料理も、見せ物や縁起物として喜ばれるものがあった。イリスの実家でも弟の誕生日などでそういうものが出されたことがある。
前世の中世ではヨーロッパの宮廷でアントルメが供されており、これは食べるというより観賞用としてお披露目されたそうだ。不死の象徴である孔雀料理はポーズを取らせたり金粉を塗ったり、城の形をしたものやワインを吹く噴水など。いずれも富める者の遊びのようなものであっただろうが、とにかく飾った料理は大昔から存在したわけである。
イリスの料理も城に住む者達に喜ばれた。
様々な食材を集めては実験を重ねて、気分はまるで学者である。ゼリーの素になる素材は、地底湖の植物の他、白い豆から抽出することもできた。豆から作ったゼリーは中に入れるものによって、固まり具合が異なってくる。口にするとすぐとろけるもの、ジュレのように崩れるもの、勝手に冷えてシャーベットのようになるもの。四つのブロックに分けて固めて並べ、食感を楽しめるよう工夫した。
「これは朝靄フォンデュです」
「ふぉんでゅ……?」
イリスが鍋に入れて運んできたのは乳白色の朝靄である。時折発生する朝靄は魔力のこもった鍋で集めることができる。しばらく寝かせておくと、鍋の中に定着してそこに漂うようになるのだ。しかも、濃くなる。
以前アエラスに「朝靄の一番美味しいところに連れて行ってあげるよ」と誘われ、早朝二人して立ち食いをした時に朝靄で何か作れないかと考えたのだ。
イリスはセフィドリーフに根菜を刺した串を渡し、朝靄をからめるようにすすめる。
濃厚な朝靄は重たい味ではなく、口の中にあまやかな清涼感をもたらした。
「朝靄って、濃くなるとこういう味がしたんだな」
セフィドリーフが感じ入ったように言う。精霊達も「味見、味見!」とパンや野菜を手に近寄ってきて、朝靄にくぐらせていた。
「夜霧も同じようにして食べられるんですけど、味が違うんですよ」
夜霧はどことなくビターなので、マシュマロのように甘いものと合わせた方がよかった。
他の日は、粉を練ってのばし、ごく薄い生地を用意した。空気を入れると球体に膨らむ。まるでフーセンガムのようだ。
中に光るキノコを入れて、満月に見立てて食卓へと並べる。大きさは人の顔ほどもあるだろうか。
セフィドリーフがそっとナイフを入れると月は呆気なくほろほろと崩れ、中に潜んでいた蝶もどきの葉っぱが一斉に羽ばたいていく。
この日も集っていた精霊達は、我先にと楽しげに蝶もどきを捕まえ始めた。そんな賑やかな光景を横目に、セフィドリーフは崩れた月がふりかかったキノコを黙々と咀嚼している。
食事の時間、次第に緊張した雰囲気はなくなっていき、セフィドリーフの食べる量も徐々に増えていった。
「ごちそうさま」
今日もセフィドリーフは完食だ。気遣って無理して食べていなければいいのだけれど、と心配になるが、精霊達によると彼は後で吐き戻したりもせず、漂う魔力も増していっているそうで、胸をなで下ろす。
「今日も召し上がっていただいて、ありがとうございました」
イリスが頭を下げると、セフィドリーフは肩をすくめる。
「作ってもらってるのは私だから、礼を言うのはこちらなんだがね」
「でも私、セフィドリーフ様に召し上がっていただくのが、心の底から幸せなんです。だから私も感謝を伝えたくて」
必要とされないことを、酷く苦には思わなかった。けれど、作ったものを食べてもらうことは、拒絶されてばかりだった己が受けれ入られているようで、幸福感が生まれる。
この世界に生まれて、初めて居場所を得たような気がして。
「そういえば、あれも美味しかったな。ヤキオニギリ。また作ってよ」
「はい!」
イリスは苦笑をこらえられなかった。美しい山の中の城で、美しい人外の青年が焼おにぎりを食らうというのはなかなかシュールな図ではある。
(世界観を考えた方が良かったかな……)
とはいえ、美味しいものは美味しい。いっそのこと天ぷらうどんでも作ってしまおうかと思うイリスであった。
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