非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku

文字の大きさ
上 下
4 / 60

04 精霊の少年

しおりを挟む

 * * *

「みんなして、私を馬鹿にしてるんだろうな」

 セフィドリーフは寝台に寝転がる。
 気を抜くと、隠していた白い尾がふわりと出現するが構わなかった。
 いらないと何度言っても守護騎士を寄越すと神殿側は言い張った。それで人との繋がりを保とうとする目的が見え見えで、セフィドリーフとしてはうんざりだった。

 何でも無理矢理選ばれた貴族の一人が守護騎士としてやって来るというから、一応は話を聞いてやろうと待っていたのだが。

(どう見たって子供だよ、あの子は)

 あれではこっちがお守りしなくてはならないだろう。どいつもこいつも何を考えているのだか。

『あの子、面白いですねぇ』

 アエラスが笑う声がする。
 何が面白いのだかセフィドリーフにはさっぱりだ。

『僕は人の子に化けて山を下り、事前に守護騎士の情報を集めたんですけどね、リィ様』
「またお前は勝手なことをしたのか。というか、知ってたなら何故私に先に言わないんだ?」
『だって、興味がない、の一点張りでしたからね! あのイリス・トリーヴェルダって子は風変わりでしょう? 家族から嫌われてるらしいですよ。ほとんど同じ食卓についたこともないって噂ですからね。追い返されても帰る場所なんてないのでは?』

 だから何だというのだろう。お守りをする義理はないはずだ。
 セフィドリーフは耳をすませた。先ほどまで扉の前でわめいてねばっていたが、いつの間にか静かになっている。
 出て行ったのだろうか?
 それならそれで結構だ。たとえ来たのがあんなひ弱な子供じゃなくて屈強な男だったとしても、初めから追い返すつもりでいた。

 セフィドリーフは身を起こすと、歩いていって扉を開けて廊下の様子を確認した。
 すると、見覚えのある白銀の甲冑が目に入る。

「…………」

 しかし、それは抜け殻だった。
 まだどこか声変わりしきっていない、少年時代を引きずっている風変わりな青年の姿はない。
 セフィドリーフの隣に、白い詰め襟の服を着た少年が姿を現した。精霊のアエラスだ。アエラスは廊下の窓の方に歩み寄って、外を指さす。

「あそこですよ、リィ様」

 見ると、建物の外にイリスが立っている。腰に帯びた剣の柄に手をかけて、遠くを見つめていた。ここから見る限り、特に落ち込んだ顔つきでもないようだ。
 セフィドリーフは肩をすくめて、寝室へと戻った。

 とにかくあの子はさっさと帰った方がいい。人間嫌いの自分が、人間に守ってもらうなど考えられない。第一、神殿にも再三説明しているが、セフィドリーフよりも強い者などそういないのだ。形ばかりの守護騎士など馬鹿げている。
 そんなものは要らない。誰かに守られる必要などない。
 そして、セフィドリーフはもう誰も守らない。


「この山は本当に静かで、美しいな」

 身軽になったイリスは、感嘆のため息をもらしながら遠くに連なる山々に目をやった。
 どこを見ても景色は幻想的で、空気は地上より清浄だ。さすがに聖なる山と言われることはある。

「そうでしょう、いいところだよね」

 突然話しかけられて、イリスはまばたきした。振り向くと、十二歳かそこらの見知らぬ少年がこちらを見上げてニコニコしている。
 先ほどセフィドリーフのところで耳にしたのと同じ声であるようだった。確か彼は、アエラス、と呼びかけていた。

「精霊を見るのは初めて?」

 見た目は普通の少年と変わらないが、雰囲気は確かに浮き世離れしたところがある。

「はい、初めてです。あなたはアエラス様?」
「様なんてやめてほしいな。かしこまられると、距離をとられてるように感じるんだ。もっと親しげに話しかけてくれないと、僕のこと嫌いなのかと思っちゃうよ」
「えっ、はい。いや……、うん。あなた……君は精霊なんだね。私は精霊って初めて見るんだ。会えて光栄だよ」
「僕達は君のこと、前からちょっと知ってたけどね。精霊の欠片によく話しかけてたじゃない? そういう情報が前から入っててさ。変わった子がいるって」

 精霊から見ても自分は奇人変人の部類に入っていたと聞かされるとイリスも苦笑してしまう。
 アエラスのようにしっかりとした姿と意思を持つ精霊は、精霊の欠片から情報を得ることができるらしい。

「それで君は、追い出されたわけだけど、このまま帰るの?」

 問われたイリスはそれに答えず、別の質問をした。

「セフィドリーフ様は私のことがお嫌いなのかな」
「うーん。セフィドリーフ様は人間がみんな嫌いみたいだよ」
「そうか……」

 イリスはアエラスから視線を外し、また遠くに連なる峰々をぼんやりと眺めた。


 セフィドリーフは眠ることもなく、寝台に長い間横たわっていた。何か考え事をしているわけでもなかった。
 気づけば日は暮れていて、室内も暗くなっている。最近はこうして何をするでもなくぼうっとしていることが増えた。
 ため息をついて寝返りを打ち、ふと先ほどの出来事を思い出す。

(もう帰ったかな……)

 身を起こすと部屋を出て、廊下から外の様子をのぞく。すると昼間に見た場所と全く同じところに、同じ人影があった。
 どうもセフィドリーフが寝ている間ずっと、あそこでああして立っていたらしい。
 セフィドリーフは額を押さえた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

処理中です...