ねえ、センセ。―粘着系年下男子の憂鬱

ゴトウユカコ

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センセ、と永遠のキスでささやいて_6

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 焼きそばを食べ終えた蒼くんが満足そうに中庭の中央に設けられたフードコートスペースのイスに寄りかかった。

「たこ焼き、まだ残ってるよ。食べる?」

 半分は蒼くんのお腹におさまったけれど、私の分の半分はまだ2、3個残っている。

「食べる」

 蒼くんは体を背もたれから起こすと口を大きく開けた。
 思わず笑いながら、その口にたこ焼きを入れる。

「あっち」

「けっこうタコ大きい。なんか文化祭なのに、食べ物のクオリティ高いよね」

 蒼くんがはふはふしながら頷く。
 それがかわいい。

「他に食べたいのある?」

「クレープ」

 蒼くんの即答に笑いながら、「買ってくる」とずらりと並ぶ屋台に向かう。
 先に目をつけていたスムージーを買い、それからクレープの屋台に並んだ。
 前に2、3人いるもののスムーズに順番がきて、チョコと生クリームたっぷりのクレープを注文する。
 目の前でクレープを焼き始めた生徒たちは、私が2Cの副担任をしている先生だと気づいていない。
 それらしく見せているからという理由もあるとは思うけど、おそらくそれ以前に、今目の前のことで一生懸命なんだと思うと微笑ましくなってくる。

 クレープを受け取って蒼くんのところに戻ろうとした時だった。

「ねえねえ、君、慶林高の子?」

「ねえ、聞いてる? 君だよ、君」

 後ろから肩を叩かれて振り返る。
 大学生らしき2人の男が立っている。

「かわいいよね君。ねえ、そう言われない?」

「いえ、あの」

「あのさ、オレたちと回んない?」

 まさかのナンパ。
 勤務先である高校でそんなことが起きるなんて思いもしなかったせいか、口をぽかんと開けてしまった。
 しかも本当に私を女子高生として見ている。
 そんなに幼く見えるのかなと思いつつ、慌てて「ごめんなさい」と謝る。

「え、いいでしょ、ほんの30分だけでも」

 あっさり引き下がってくれるかと思いきや、2人は未練たらしい顔で私の腕を掴んだ。
 その強引さに、血の気が引いていく。
 あの時の恐怖がじわりと顔を出す。

「ごめんなさい。あの、私、人を待たせているんです」

 振り切って逃げようとする。
 怖い。

「いいから。ねえ、名前なんていうの? 3年?」

 片手にスムージー、もう片手にたっぷり盛られたチョコと生クリームのクレープ。
 両手がふさがっているし、なによりクレープてっぺんの生クリームを落としたくなくて腕を振り払いきれない。
 泣きそうなまま固まっていると、目の前の2人がかすかに眉をひそめた。

「ねえ、ナンパならオレも混ぜてくんない?」

 軽い言い方とともに、蒼くんの腕が背後から私の肩に回された。

「なんだよ、お前」

「えー名乗るもんでもないけど。あ、クレープうまそ」

 蒼くんが背後から私の手を掴んで、大きな口を開けた。
 がぶりとクレープに食いつく。

「おい、邪魔すんなよ」

 クレープが落ちそうになり慌てて体勢を整えると同時に、ふいに蒼くんが私の頭を引き寄せた。
 そしてそのまま唇が重ねられ。

「んむ!?」

 生クリームとチョコの味の舌がすべりこんでくる。
 甘ったるい舌が私の舌を絡めとり、まるで口移しでクレープを食べさせられている感覚に陥る。
 全身がしびれていくみたいに濃厚なキス。
 むしろ私自身がクレープになったみたいに貪られて、甘いにおいでくらくらとする。
 体から力が抜けそうになり、崩れ落ちないように蒼くんが私を引き寄せた。

「……あれーまだいたの? 何、この先も見たい?」

 深く濃密なキスに真っ赤になっている私を腕の中に閉じ込めたまま、蒼くんが意地悪に笑った。

「っち、違えよ! くそっ」

 上ずった声がしてバタバタと走っていく音がした。

「あーあ、あの感じだと、杏のその顔で勃っちゃったんじゃない?」

 楽しげに笑う蒼くんをにらむように見ると、悪い顔をしていた蒼くんは小さく息を吐いた。

「もう怖くないから、杏、……って、だから無防備にその顔晒さないで。オレも我慢できなくなるよ?」

 耳元で甘くささやかれ、どきりと心臓が跳ねる。

「我慢して! っていうか、その顔とかわかんないし! もうすっごい目立っちゃったじゃない。絶対バレてる」

 そう言ったそばから、「もしかして」と近くから声が聞こえた。
 声がする方を振り向かないようにしていると、さらに声が上がった。

「やっぱ成瀬先生じゃね?」

「慶林高にあんな子いたっけ?」

「ヤバい、成瀬先生、制服じゃん、かっこよすぎない?」

 ひそひそ声は少しずつ大きくなっていて、私は「ほらー」と軽く睨んだ。
 蒼くんがまた深い溜め息をついて、それから私の手を引っ張った。
 残りのクレープが溶けかけてるのにどこに行くつもりか、蒼くんはそのまま歩き出して。
 引かれるままに連れて行かれた先は、体育館の裏手だった。
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