ねえ、センセ。―粘着系年下男子の憂鬱

ゴトウユカコ

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哀しいほどの空回りの先_2

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 何度も何度もうがいをして口を濯いだ。
 震えが止まらない。

 私は私の判断を間違えたんじゃないか。
 ばかな選択をしたんじゃないか。

 でも待っているだけなんて、できなかった。
 私にできることを、探すしかなかった。
 なによりも、成瀬くんが危険を冒して私のために動いているというのにそれを米川さんが把握しているのがたまらなく嫌だった。

 あの子は、成瀬くんの力になれていて、私はただ待っているだけ。

ーーなんて浅ましいんだろう。
 腹の中はそれだなんて。

 こんなの橘先生と私、変わらない。

 泣き腫らした赤い目は何度洗ってもウサギのようで。
「しっかり」と言葉に出して呟き、保健室でもらってきたマスクをした。
 目が赤いのは寝不足だとすればいい。
 職員用トイレから出て、廊下を歩きかけて立ち止まった。

「センセ」

 そこにいたのは、荒く肩で息をつく成瀬くんだった。

「何があった?」

 成瀬くんは険しい顔で私をまっすぐ見つめている。

「な、何も」

 成瀬くんが本来は通る必要のない国語科の教員室そばだ。
 あまりに予想もしてないふいの出現に動揺した。

「何があったの、センセ」

 成瀬くんが大股で近づいてきて、私の手をとった。

「何も、別に何も」

「うそだ」

 強い口調で言い放たれた言葉が心臓を刺した。

「うそじゃない」

「じゃあなんで、そんな泣き腫らした顔してんの?」

「あの、人目があるから」

 遠くで通りがかった生徒がこっちを見ているような気がした。
 教員室から誰が出てきてもおかしくない時間なのに。

「ねえ、杏。オレには言えないこと?」

 先生呼びをしていない。
 それだけ冷静さを失ってるんだと思った。

「な、成瀬くん。落ち着いて」

「落ち着け?」

 成瀬くんの声は低く、怒りさえ感じられた。

「あ、杏ちゃん先生いたー! あの、備品……成瀬先生?」

 走り寄ってきた副担任のクラスの男子と女子が、おかしな雰囲気に気づいて手前で立ち止まった。

 どうしよう。
 泣き出したいのを堪えて、手首を振り払おうとしてもその力はびくともしなかった。

「成瀬先生、離してください、お願いです」

 懇願すると、成瀬くんはちらりと周りに目を走らせた。
 そしてどうしたらいいのか戸惑っている2人の生徒に、にっこり笑いかけた。

「オレ、この人に用があるの。悪いけど、備品でもなんでも、自分たちで解決して?」

 有無を言わせない声でそう言うと、成瀬くんはそのまま私を引っ張って歩き出した。
 周りに集まり出していた生徒たちがざわついて、出てきた先生も事態が飲み込めない顔で私と成瀬くんの様子に訝しげな顔をしていた。
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