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揺れる心
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自宅の最寄り駅に降りると、成瀬くんは当たり前のように私の手を繋いだ。
周りの目をつい意識して咎めるように隣を見上げると、成瀬くんは嬉しそうな感情を隠しもしない。
「大丈夫だよ、さすがにここまで来れば生徒も先生もいないって」
「それはそうなんだけど」
「センセのうち、駅からどんくらい?」
「歩いて10分もかかんない」
「じゃあその間だけだし」
「……とかいって、送るだけのつもりじゃないくせに」
思わず文句を言うと、成瀬くんは楽しそうに上半身を傾けて私の顔をのぞきこむようにした。
「バレた」
「バレたじゃない……」
拗ねた顔をすると、成瀬くんは「そんな顔すると、ここでキスするよ?」と笑った。
慌てて険しい顔をつくって見せると、成瀬くんは「かわいーね」と言いながら一瞬のうちに私の唇を奪った。
目の前が暗くなったのと唇のひんやりした感触しかわからないくらいの。
「っもー。油断も隙もない!」
思わず成瀬くんと繋いだ手を振り払って歩き出した。
いくらなんでも駅前の公衆の面前でキスされると思ってなかった。
あまりに恥ずかしいのと、でも成瀬くんが私のことを好きだってみんなに言ってくれてるみたいで嬉しいのとで、自分がよくわからなくなった。
本当は米川さんたちや橘先生のことをどうするか、そしてなにより、直己とのことをどうするか、何も答えは出ていないのに。
でもこうして隣に成瀬くんがいてくれるだけで、気持ちが浮ついて嬉しくて、さっきの恐怖や不安もどんどん薄れていく。
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「減るの」
「減るの?」
成瀬くんが隣に並んで、また手を繋いだ。
指が指の間に絡んで、強く握られる。
「減る」
「減るかー……。じゃあ、1回するたびにめっちゃ長くてめっちゃ深いのにする」
「……それは困る」
「えー……センセ、わがまま」
「けど……」
「けど、なに?」
聞かれて思わずほおが熱くなった。
成瀬くんだったらいい、なんて口が裂けても言えない。
「なんでもない!」
「えー……」と不満そうな声を出しながらももにやけている成瀬くんが繋いでいた手を外すと私の腰に手を回した。
そして反対側の私の手の甲に手を重ねてまた繋ぎなおした。
まるで私に元気を出すように言ってくれてるみたいだと思う。
成瀬くんがそばにいてこうしてくれるているだけで、安心できている。
「成瀬くん、街中なんだよ。いちおう先生なんだから……」
「そんな困った顔ばっかしてると、またキスするかんね?」
成瀬くんの意地悪な声に顔の表情を普通に戻そうとして、普通がわからなくなる。
それを目を細めて見ていた成瀬くんが吹き出した。
「センセ、かーわい!」
「もううるさいな、私、これでも年上なんだけど!」
「うん、知ってるよ。あんまり年上っぽくないけどね」
「いちいち一言よけいなの」
拗ねると、成瀬くんがさらに体を私に寄せた。
「だってセンセのいろんな顔、全部オレだけのものにしたいんだからしょうがないじゃん?」
どきりとして隣の、すぐ至近距離にあるその顔を見た。
成瀬くんがさっと顔を傾けて、またキスをして。
キスされるたび、自分という器が成瀬くんの存在でいっぱいになってくみたいだった。
「センセの部屋、楽しみ」
にこにこと喜びを隠さない成瀬くんに、私も嬉しいし、幸せな気持ちに満たされる。
この時間がずっと続けばいい。
「そっか。私の部屋、初めてだっけ?」
「そ。オレん家も初めてで、今日はセンセんとこ。やっばい、嬉しすぎ。昔のオレに言ってやりたい。センセのこと諦めない選択したお前サイコーって」
軽いノリでもその素直さが今の私の気持ちをどんどん軽くしていく。
「そんなに? そうだ、コンビニは? 寄る?」
「アルコール」
「即答」
「あとゴム」
「え」
「持ってるけど足りなくなると思うから」
「ま、待って、明日も普通に仕事なんだから、まさか泊まる気……」
「え、泊まるよ?」
当然というような顔をした成瀬くんに、だめ、と言いかけて、思わずため息をついた。
「……出勤時間はずらすからね」
「センセ、好き」
成瀬くんが甘えるように私を抱き寄せて、思わず「だから、人が見るから! ほらコンビニ行くなら」とおしのけようとした。
いくら家に向かう路地とはいえ、帰宅の人通りがないわけじゃない。
その時。
「……杏?」
成瀬くん、じゃない声。
前方の路地、私が住む白いマンションの方から聞こえた声に、凍りついた。
ここにいるはずのない、その声の持ち主。
直己だった。
周りの目をつい意識して咎めるように隣を見上げると、成瀬くんは嬉しそうな感情を隠しもしない。
「大丈夫だよ、さすがにここまで来れば生徒も先生もいないって」
「それはそうなんだけど」
「センセのうち、駅からどんくらい?」
「歩いて10分もかかんない」
「じゃあその間だけだし」
「……とかいって、送るだけのつもりじゃないくせに」
思わず文句を言うと、成瀬くんは楽しそうに上半身を傾けて私の顔をのぞきこむようにした。
「バレた」
「バレたじゃない……」
拗ねた顔をすると、成瀬くんは「そんな顔すると、ここでキスするよ?」と笑った。
慌てて険しい顔をつくって見せると、成瀬くんは「かわいーね」と言いながら一瞬のうちに私の唇を奪った。
目の前が暗くなったのと唇のひんやりした感触しかわからないくらいの。
「っもー。油断も隙もない!」
思わず成瀬くんと繋いだ手を振り払って歩き出した。
いくらなんでも駅前の公衆の面前でキスされると思ってなかった。
あまりに恥ずかしいのと、でも成瀬くんが私のことを好きだってみんなに言ってくれてるみたいで嬉しいのとで、自分がよくわからなくなった。
本当は米川さんたちや橘先生のことをどうするか、そしてなにより、直己とのことをどうするか、何も答えは出ていないのに。
でもこうして隣に成瀬くんがいてくれるだけで、気持ちが浮ついて嬉しくて、さっきの恐怖や不安もどんどん薄れていく。
「いいじゃん、減るもんじゃないし」
「減るの」
「減るの?」
成瀬くんが隣に並んで、また手を繋いだ。
指が指の間に絡んで、強く握られる。
「減る」
「減るかー……。じゃあ、1回するたびにめっちゃ長くてめっちゃ深いのにする」
「……それは困る」
「えー……センセ、わがまま」
「けど……」
「けど、なに?」
聞かれて思わずほおが熱くなった。
成瀬くんだったらいい、なんて口が裂けても言えない。
「なんでもない!」
「えー……」と不満そうな声を出しながらももにやけている成瀬くんが繋いでいた手を外すと私の腰に手を回した。
そして反対側の私の手の甲に手を重ねてまた繋ぎなおした。
まるで私に元気を出すように言ってくれてるみたいだと思う。
成瀬くんがそばにいてこうしてくれるているだけで、安心できている。
「成瀬くん、街中なんだよ。いちおう先生なんだから……」
「そんな困った顔ばっかしてると、またキスするかんね?」
成瀬くんの意地悪な声に顔の表情を普通に戻そうとして、普通がわからなくなる。
それを目を細めて見ていた成瀬くんが吹き出した。
「センセ、かーわい!」
「もううるさいな、私、これでも年上なんだけど!」
「うん、知ってるよ。あんまり年上っぽくないけどね」
「いちいち一言よけいなの」
拗ねると、成瀬くんがさらに体を私に寄せた。
「だってセンセのいろんな顔、全部オレだけのものにしたいんだからしょうがないじゃん?」
どきりとして隣の、すぐ至近距離にあるその顔を見た。
成瀬くんがさっと顔を傾けて、またキスをして。
キスされるたび、自分という器が成瀬くんの存在でいっぱいになってくみたいだった。
「センセの部屋、楽しみ」
にこにこと喜びを隠さない成瀬くんに、私も嬉しいし、幸せな気持ちに満たされる。
この時間がずっと続けばいい。
「そっか。私の部屋、初めてだっけ?」
「そ。オレん家も初めてで、今日はセンセんとこ。やっばい、嬉しすぎ。昔のオレに言ってやりたい。センセのこと諦めない選択したお前サイコーって」
軽いノリでもその素直さが今の私の気持ちをどんどん軽くしていく。
「そんなに? そうだ、コンビニは? 寄る?」
「アルコール」
「即答」
「あとゴム」
「え」
「持ってるけど足りなくなると思うから」
「ま、待って、明日も普通に仕事なんだから、まさか泊まる気……」
「え、泊まるよ?」
当然というような顔をした成瀬くんに、だめ、と言いかけて、思わずため息をついた。
「……出勤時間はずらすからね」
「センセ、好き」
成瀬くんが甘えるように私を抱き寄せて、思わず「だから、人が見るから! ほらコンビニ行くなら」とおしのけようとした。
いくら家に向かう路地とはいえ、帰宅の人通りがないわけじゃない。
その時。
「……杏?」
成瀬くん、じゃない声。
前方の路地、私が住む白いマンションの方から聞こえた声に、凍りついた。
ここにいるはずのない、その声の持ち主。
直己だった。
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