ねえ、センセ。―粘着系年下男子の憂鬱

ゴトウユカコ

文字の大きさ
上 下
39 / 90

不埓な悪戯にはめられて_9

しおりを挟む
 ラグの上に座ってロフト付き1Kの部屋の中を見回した。
 適度に整理されているけど、男の一人暮らしのせいか家電も家具も必要なものしかない。

 成瀬くんが住む部屋は都心の人気の街にあった。
 ラブホテルにでも行くのかと思っていたら、「オレの部屋にきて」と言われてここにいる。

 教育実習生だった時も今も、学校での成瀬くんしか知らない。
 そのせいでどうしようもなく浮かれてしまうのは仕方ないと思う。

「そんなに珍しい?」

 いろいろと見回していた私に少し苦笑しながら、成瀬くんは持ってきたマグカップ2つのうち片方を差し出した。

「アイスコーヒーしかなくて」

「ううん全然いい。ごめんね、気を遣わせて」

 差し出されたそれを受けとった。
 成瀬くんは軽く散らばるクッションを足でよけながら、私の正面に座った。

「なんか、ここにセンセがいんの、変な感じ」

「……スーツ姿の黒髪の成瀬くんっていうのもね」

 笑いながらアイスコーヒーに口をつけると、成瀬くんが「へん?」と首を傾げた。

「ううん、似合ってる」

 成瀬くんが嬉しそうに笑みを浮かべた。
 そのまま黙って私を見つめるから、なんとなく話題を探してしまう。

 苦しまぎれに橘先生のスマホのことを口にしたら、「返すけどあんな奴のことどうでもいい」と言われてしまった。
 確かに今出す話題じゃないけれど。
 落ち込みながらアイスコーヒーにまた口をつけた。

「……そんなに見ないでよ。飲みにくいじゃない」

 成瀬くんが嬉しそうに見つめてくるから、少し視線を避けるように体の向きを変えた。

「うん、……でも見てたい」

 成瀬くんが手を伸ばして私の髪をかきあげるようにした。
 またどきどきしてきて、マグカップの中の液体にあえて集中する。

「センセ……」

 わかっていたけど、これから成瀬くんとそういうことをするって思ったら、さんざん成瀬くんにはあられもない顔も姿も見られているのに、ひどく緊張する。

「センセ」とまた甘く呼ばれた。
 恥ずかしいのと、心臓がどきどきと早鐘を打っているのとで、ちょっとしたことで反応してしまいそうで、苦しい。

 成瀬くんが顔をあげない私の手から飲みかけのマグカップをそっと抜き取った。

 意識をそらせるものがなくなって、全身が火照っていることや顔中が赤いだろうことや、意識していてどうしようもなく震えそうになることや、成瀬くんを前に普通でいられない自分を思い知らされる。

「……センセ、好き」

 成瀬くんが私ににじりよって。

「センセ、オレの目見て」

 少し切なそうな声に、ぎこちなく顔をあげた。
 成瀬くんが泣き出しそうな顔をしていて、私は胸を打たれたまま、その透明な光をたたえて潤んだ目を見つめた。

「どんだけ……望んでたか、わかる?」

 成瀬くんが私の肩をおすようにした。
 ラグの上に押し倒されても、私は成瀬くんの切なさの温度をあげた目にとらわれて。

「4年、待った。センセにもう一度会うと決めて……」

 成瀬くんが私の腰の辺りで立ち膝になったまま、上半身のワイシャツを脱ぎ捨てた。
 しなやかそうな筋肉の胸板がいやおうなく視界に飛び込んできた。

「その間に他の男と結婚しちゃうんじゃないかとか、もう二度と会えなくなるんじゃないかとか、いろんなこと考えて、でも諦めらんなかった」

 成瀬くんの言葉に、ハッと息を飲んだ。

 直己。
 今の今まで思い出してもいなかったことに気づいて、動揺のあまり視線が揺れた。

 やっぱり、と言いかけた唇を、成瀬くんは親指でなぞるように触れて、言葉を飲み込ませた。

「もう彼氏のとこには帰さないから」

「……成瀬くん、まさか」

 前もふと思った。
 私に彼氏がいるとなんで知っているんだろう。

 成瀬くんは少し淋しげな笑みを唇の端に浮かべた。

「……今は、オレを見て、センセ」

 成瀬くんが私の方に覆いかぶさるようにして、唇を私の額に、まぶたに、鼻に、ほおに、そっと触れさせた。
 あまりの優しさに成瀬くんのことしか考えられなくなる。

「センセが、ほしい」

 どくん、と大きく鼓動が跳ねた時、成瀬くんの唇が唇に触れて、それから強く重なった。
 かすかに昔知ったミントアメが口に広がる。
 まるでその味を確かめるみたいに少し離れてはまた重なるキスが繰り返される。
 私の握りあわせていた両手がほどかれ、ブラウスの前ボタンも外されていく。

 少しずつ体から力が抜けて、体の奥がじんわりと熱を孕んで。
 キスが深くなって、私は成瀬くんの首に腕を回した。
 舌を絡ませあうたびに、どうしようもなく内腿の奥が潤んで全身が熱くて息があがって。

 交わされる息遣いの合間に、成瀬くんは私を覆い隠すすべてを取り去った。
 見られたくないから成瀬くんにしがみつくようにすると、成瀬くんは「だめ」と言いながらキスをやめて体を離した。

「見せて」

「恥ずかしい」

 手で隠そうとしても、成瀬くんが「いまさら?」と笑いながらその手を抑えた。

「ほら。いいから、センセの全部、見たい」

 密着している方がまだ恥ずかしくないのに、こうしてまじまじと見られると私の裸をどう思ってるのか怖くて逃げ出したくなる。

「……言われるほど、胸大きくないし」

「知ってる」

「……そ、それは確かに知ってるだろうけど……!」

「オレ、センセの胸すっごく好きだよ。形キレイでかわいくて柔らかくて、」

 まだ続けようとする成瀬くんに「もういいからっ」と俯いた。
 恥ずかしすぎる。

 小さく笑った成瀬くんは私の腕を引っ張って上半身を起こさせた。
 引き寄せられ、成瀬くんに向かい合って膝の上に座った形になる。
 そのまま成瀬くんは私の首に顔を埋めて大きく息を吸い込むようにした。

「センセの、におい」

「かがないで」と嫌がっても、成瀬くんはそのまま何度か深呼吸してにおいを吸い込むようにしてから、ふいに首筋を強く吸った。

「ん」と思わず声が漏れた。

「腕回して」

 言われたまま成瀬くんの頭のあたりに腕をのばすと、成瀬くんは私の腰をさらに自分の方へ引き寄せた。
 首筋から鎖骨、胸元へ、成瀬くんのキスと舌先が愛撫しながらおりていくにつれ、成瀬くんの手が胸をまさぐって愛撫して。

「やっぱり、センセのかわいい」

「も、もういいから……!」

 学校で何度もされているのに、今日はひどく優しくて、熱くて、大切なものを扱うようにしてくれるからいつもより感じて、身をよじった。

 チャックを降ろす音がきこえた。
 熱いものが内腿の奥に直接当たって、思わず震える。

 今までは絶対、触れることがなかったもの。
 それがもたらす官能の甘さに、期待と不安とがふくらんでいくのに、成瀬くんは私のおしりを抱えて揺らすようにそれをこすりつけるだけ。
 よけいに自分の意識が成瀬くんの動きを追ってしまう。

「や、やだ……」

 いれるのを焦らして、焦らして、成瀬くんのその大きさや固さや熱さを刻みこむようにこすりつけられる。
 それが苦しくて、恥ずかしくて、切なくて、泣きたくなる。

 意地悪に、成瀬くんはさらに胸の先を口の中で飴のように舐り愛撫してばかり。
 全身が沸騰したみたいに汗ばんでいるのに、成瀬くんはまだいれてくれない。

「センセ、かわいいよ」

 ささやかれて首を振った。
 成瀬くんがほしくてほしくてたまらない。

「じ、らさないで。お願い」

 指が数本私の中に入ってくる。
 これじゃ学校での時と変わらない。
 泣きそうに「お願い、いれて、成瀬くん、」と言った瞬間、成瀬くんが息をつめたように動きを止めた。

 次の瞬間、成瀬くんがぐっと私のおしりを持ち上げるようにすると「いれる、ね」とささやいて。
 何度もこすりつけて濡れたものを深く私の中へとつきいれた。

「ふ……ぅっ」

 背筋を甘い疼痛が抜け、ひときわ、ふるりと震えた。
 思わず成瀬くんにしがみつく。
 成瀬くんも荒く息をついていて苦しそうだった。

「き、つ……。ごめん、センセ、もう少し力……抜いて」

 成瀬くんのせっぱ詰まった声に、必死で力を抜こうと息を深く吸って長く吐いた。
 吐いた瞬間、成瀬くんが私の体に体を重ねるようにしてラグに押し倒した。
 さらに深いところへ成瀬くんが入ってきた。

 息がつまるような感覚の中で抑えていた声がこぼれ、成瀬くんの腰が深く私へ落ちる。

「……っ、ほんとは……もう、ずっと……センセにいれたかった」

 落ち着かせるように息をついてから成瀬くんが掠れた声で言った。
 それが嬉しくて、成瀬くんをねだるように成瀬くんの腰を腿ではさみこんだ。

「……ほんとエロい、ね」

「だ、って。ずっと、ずっと焦らされて。私だって、成瀬くんがほしかった」

 私の中を探るように腰を揺らしていた成瀬くんが大きく腰を前に出した。
 堪えきれず声をあげた私の反応に、「……っは、もう、やば。こんなん、すぐイキそう」と苦笑して、ゆっくり、やがてじょじょに力強く動き出した。

 互いの呼吸が、学校でしてたよりももっと淫靡な音が、成瀬くんの部屋に満ちて。
 部屋の成瀬くんのにおいが、私に満ちて。

「ごめん、センセ、オレ、もたない」

 泣き出しそうな声に頷いた。
 呼吸を合わせるように腰を揺らしながら成瀬くんの顔に手を伸ばす。

「キス、して」

 成瀬くんが両手を突いて自分の体を支えながら顔を近づけてきた。
 その手首のあたりを思わず掴むと、それよりも逆に恋人つなぎで私の手をラグの上に縫い止めた。

「センセ、好き」

 その唇が刻んだ言葉にぎゅっと心臓がしめつけられた。

 成瀬くんが小さく呻くようにしながらも私の唇を貪る。
 絡みあう舌と唾液と荒い息とが早まる合間に、成瀬くんがせっぱつまったように言った。

「好き。好き……好きだよ、センセ、好きって、言って」

 私は全身から迸りそうなほどに溶けたどろどろの熱の中で朦朧と成瀬くんのキスをねだって、ねだって。

「好き」

 成瀬くんの言葉に重なるように私も「好き」を繰り返して。

 見上げる成瀬くんは少し眉を寄せながら腰を動かしていて、額からこめかみ、首筋から鎖骨、胸の間を流れ落ちていく汗や、二の腕から肘にかけて濡れている肌や、飛び出たのど仏が飲み込むたびに上下するのや。
 私のために動く1つ1つがひどく色っぽくて、こんなふうに体を重ねたことを二度と忘れない、と思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

続・上司に恋していいですか?

茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。 会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。 ☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。 「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。

Honey Ginger

なかな悠桃
恋愛
斉藤花菜は平凡な営業事務。唯一の楽しみは乙ゲーアプリをすること。ある日、仕事を押し付けられ残業中ある行動を隣の席の後輩、上坂耀太に見られてしまい・・・・・・。 ※誤字・脱字など見つけ次第修正します。読み難い点などあると思いますが、ご了承ください。

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...