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不埓な悪戯にはめられて_5
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また、1人でここにいる。
保健室の天井を見つめながら、情けなくて目尻をいく筋も涙が伝い落ちた。
成瀬くんと切れてしまうのが怖かった。
成瀬くんに今も女として見られていることが嬉しかった。
離れている直己のことをほとんど思い出さず、叶った教師の職さえも失いかねない。
それでも、成瀬くんに触れてほしかった。
それが成瀬くんを繋ぎ止められる方法ならなんでも。
でもこんなの恋でもなんでもない。
私は間違えた。
なによりも話をするのが先だったのに。
目が覚めてそばに成瀬くんがいたら、少しは文句も不満もぶつけられる。
でもこうして1人で目覚めてる。
それが、成瀬くんの意志。
私と話すことなんてきっとない。
4年前とその重さは、逆転してしまって、あまりに2人の温度は違うんだと思い知らされる。
また4年前を繰り返すの?
涙を拭った。
泣いててもなんにもならない。
もう一度、きちんと向き合って話をしたい。
成瀬くんの気持ちを、体の関係ではなく、ちゃんと知りたい。
それを伝えようと決心した時、ノックの音がして、誰かが入ってきた。
少し早足で、カーテンの向こうにかすかに映ったシルエットは背が高い。
成瀬くんではないような気がするけれど、誰かわからない。
そうだとしても、今、泣いていたのを見られたくない。
布団をそっとひきあげて、息をひそめ、眠っているふりをする。
「片桐先生」
そう呼んだ声は静かで、思いもよらない相手だった。
「寝てますか?」
生徒指導の橘先生。
驚きのあまり体を起こそうか一瞬迷って、なんとなく違和感に目を瞑った。
保健室にいることをどうして知ってるのか。
成瀬くんがわざわざ報告したとも思えない。
両手のシーツを無意識に強く握りしめていた。
「寝てる……かな」
呟かれた声とともにベッドを囲むカーテンが揺れた。
まさか寝ている他人、しかも女性に断りもなくカーテンを開けるなんて非常識な真似はしないはずだ。
でも橘先生の常識は違っていた。
そっとカーテンが引かれる音がした。
ぞわっと全身に鳥肌が立った。
苦手な先生だと思ってたけど、怖い、と初めて思った。
「片桐先生?」
寝てるから、早く出てって。
そんなふうに内心叫んでも、橘先生はベッドの脇に立って私を見下ろしているようだった。
寝たふりを気付かれているのだろうか。
動く気配がして、息をつめた。
「先生」
すぐ頭の方でささやくような声がした。
息遣いが、すぐ聞こえる。
そして息を深く吸い込んだのがわかった。
身を屈めて、顔を頭の方に寄せたとしか思えない近さだった。
恐怖が増して、唇が震えた。
「……先生が、あんなことしちゃマズイでしょう……」
その言葉の不吉さにざっと血の気が引いた。
たぶん橘先生は気づいてる。
私が今、寝たふりをしていることも。
そして、成瀬くんとのあの秘密も。
「……今度、ゆっくり話し合いましょう」
そう言って、橘先生は私から離れたようだった。
そのまま保健室のドアが閉まる音がした。
動けなかった。
まだそこにいたら、と震えが止まらない。
教育実習生の時よりもはるかに得体の知れない、粘り着くような気持ち悪さが私の背中に張りついたみたいだった。
保健室の天井を見つめながら、情けなくて目尻をいく筋も涙が伝い落ちた。
成瀬くんと切れてしまうのが怖かった。
成瀬くんに今も女として見られていることが嬉しかった。
離れている直己のことをほとんど思い出さず、叶った教師の職さえも失いかねない。
それでも、成瀬くんに触れてほしかった。
それが成瀬くんを繋ぎ止められる方法ならなんでも。
でもこんなの恋でもなんでもない。
私は間違えた。
なによりも話をするのが先だったのに。
目が覚めてそばに成瀬くんがいたら、少しは文句も不満もぶつけられる。
でもこうして1人で目覚めてる。
それが、成瀬くんの意志。
私と話すことなんてきっとない。
4年前とその重さは、逆転してしまって、あまりに2人の温度は違うんだと思い知らされる。
また4年前を繰り返すの?
涙を拭った。
泣いててもなんにもならない。
もう一度、きちんと向き合って話をしたい。
成瀬くんの気持ちを、体の関係ではなく、ちゃんと知りたい。
それを伝えようと決心した時、ノックの音がして、誰かが入ってきた。
少し早足で、カーテンの向こうにかすかに映ったシルエットは背が高い。
成瀬くんではないような気がするけれど、誰かわからない。
そうだとしても、今、泣いていたのを見られたくない。
布団をそっとひきあげて、息をひそめ、眠っているふりをする。
「片桐先生」
そう呼んだ声は静かで、思いもよらない相手だった。
「寝てますか?」
生徒指導の橘先生。
驚きのあまり体を起こそうか一瞬迷って、なんとなく違和感に目を瞑った。
保健室にいることをどうして知ってるのか。
成瀬くんがわざわざ報告したとも思えない。
両手のシーツを無意識に強く握りしめていた。
「寝てる……かな」
呟かれた声とともにベッドを囲むカーテンが揺れた。
まさか寝ている他人、しかも女性に断りもなくカーテンを開けるなんて非常識な真似はしないはずだ。
でも橘先生の常識は違っていた。
そっとカーテンが引かれる音がした。
ぞわっと全身に鳥肌が立った。
苦手な先生だと思ってたけど、怖い、と初めて思った。
「片桐先生?」
寝てるから、早く出てって。
そんなふうに内心叫んでも、橘先生はベッドの脇に立って私を見下ろしているようだった。
寝たふりを気付かれているのだろうか。
動く気配がして、息をつめた。
「先生」
すぐ頭の方でささやくような声がした。
息遣いが、すぐ聞こえる。
そして息を深く吸い込んだのがわかった。
身を屈めて、顔を頭の方に寄せたとしか思えない近さだった。
恐怖が増して、唇が震えた。
「……先生が、あんなことしちゃマズイでしょう……」
その言葉の不吉さにざっと血の気が引いた。
たぶん橘先生は気づいてる。
私が今、寝たふりをしていることも。
そして、成瀬くんとのあの秘密も。
「……今度、ゆっくり話し合いましょう」
そう言って、橘先生は私から離れたようだった。
そのまま保健室のドアが閉まる音がした。
動けなかった。
まだそこにいたら、と震えが止まらない。
教育実習生の時よりもはるかに得体の知れない、粘り着くような気持ち悪さが私の背中に張りついたみたいだった。
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