ねえ、センセ。―粘着系年下男子の憂鬱

ゴトウユカコ

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不埓な悪戯にはめられて_4

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「予想外にもつね、センセ」

「じゃ、じゃあ、成瀬くんこそ負けを認めたら?」

「えーやだ」

 にっこりと、首筋から私を見上げた成瀬くんに言葉をつまらせた。

「センセこそ負けにしようよ? 昨日だって、目潤ませて見つめてくるから、思わずゴミ捨て場まで追いかけちゃったんだもん」

「見つめてなんかない」

「うそばっか。ねえ、そろそろ負けて? そしたらオレ、センセのこと、めちゃくちゃに抱き壊すから」

 ぞくり、と背筋に不穏な甘さが走り抜けた。
 一瞬、引きずられそうになる。

「もう戻れないくらい気持ちいいと思うよ。オレとするの」と、成瀬くんが小さく笑った。
 その掠れた声が孕んだ色気に身を縮めた。

「……いや」

「そっか。じゃあ、今日はどういう方法がいーかな……」

 成瀬くんが襟で緩めていたネクタイをしゅるりと抜いた。

「何する気?」

 後ろにいざろうとしても、壁が邪魔をした。
 無邪気に悪戯を楽しむ目で、成瀬くんは「いいこと」と言いながら、ふいに私の両手を背中側に束ねた。

「ちょ、やだ。待って」

「センセって、ほんと素直じゃないよね」

 成瀬くんは私が抵抗するのも構わず、手際よくネクタイで縛った。
 後ろで縛られて身動きがとれなくなる。
 必死で解こうとしても、全然緩まない。

「ほ、本当に誰かきたら」

 屋上への出入り口の踊り場なんて、いつ誰が来てもおかしくない。
 階下からは死角とはいえ、よりによって今はまだ生徒たちが授業を受けている時間だった。

 成瀬くんからの呼び出しに、教員室に残っていた他の先生には図書室で調べものと言って出てきたけれど、長い不在が何度も続けば怪しまれる。
 そう説明しても、成瀬くんは聞く耳なんてもってくれなかった。

 その上、昨日、あんな泣きそうな顔を見せておいて、今日はこんなに余裕そうな意地悪な顔ばかり。
 悔しいのに、断ったら、そして見つかってしまったら、この細いつながりを失ってしまうんじゃないかと不安でたまらない。

「成瀬くん、お願い解いて」

 請う声に成瀬くんは何も答えず、ゆっくり続きを愉しむように舌と唇で首筋をなぞり、鎖骨、胸元へと辿り降りていく。
 体の一部の自由が奪われ、その分他の感覚が鋭くなってるのがわかる。

 いつもみたいに鍵を閉めた空間じゃないせいで、喘ぎ声が漏れないように唇を噛みしめる。
 階段の下を誰かが通ったら、と怖い。
 屋上の出入り口のドアは開け放されていて、外が見える分、外から見られているような感覚もぬぐえない。

 なのに、さっきから入ってくる風が胸の先や素肌を舐めるみたいに通り過ぎていくから、体はやけに敏感に疼いてる。

「いつもより濡れてる。どんどんエッチになってるね、センセ」

 カッと全身が羞恥心に熱くなった。

 成瀬くんが自分の指を私の中に侵入させる。
 何度ものみこんだ成瀬くんの指を、体はもう覚えてしまって、私以上に私の体は簡単に成瀬くんに反応してしまう。

「あっつ……」

 ささやいた成瀬くんの声も熱い。
 手首を縛られたまま、成瀬くんを突き放すこともできず、唇を噛み締めたまま横を向いて耐えようとする。

「センセ、ほんとかわいい……」

 思わず唇が開きかけた、その瞬間。
 複数の足音と、声が近づいてきた。

「成瀬、どこ行ったんだよ。文化祭の準備もあんのにさー」

「けっこういなくなるよね、成瀬くん」

「スマホ鳴らしても反応ないし。このままだと全体ミーティングに遅れんぞ」

 階段のすぐ下の廊下から、教育実習生らしき声が聞こえてきて、凍りついた。
 成瀬くんも動きを止めた。

 実習生たちは階下で立ち止まって話をしている。
 立ち去ってくれなければ、ここでこんなことを続けていられるわけがない。
 このまま解放してくれるはず。

 そう思って息を吐いた瞬間、ふいに成瀬くんはそのまま私を壁に押しつけ、私の片足をもちあげた。

「なる、んうっ」

 驚いて出しかけた声を塞ぐように、成瀬くんは私に噛み付くようにキスをして、そのまま舌を差し入れてきた。
 不意打ちの深いキスと同時に、止まっていた指が激しく私の中に潜り込む。
 しかも一本じゃなかった。

「あれ、なんか聞こえなかった?」

「そう? あーやっぱり成瀬既読になんね」

「とりあえずそろそろ行かないとヤバいよね」

 両手は使えない。
 激しく頭を振って、成瀬くんのキスから逃れようとした。

 声が漏れたら。
 この卑猥な音が下まで聞こえたら。
 こんなふうに、成瀬くんの指でイカされるところを、見られたら。

 激しくなる指と舌の動きに、苦しくて切なくて、何度も火をつけられていた子宮の奥が成瀬くんをほしがって、啼いていて。

 いや、と口にしたいのに、言葉にならず。
 やめて、と身をよじるのに、それはどんどん快楽を深くして。

 有無を言わせない、強引な成瀬くんの力に涙があふれた。

 こんなの、全然、嬉しくない。
 こんなの、全然、優しくない。
 本当にただの、お遊戯。

 実習生の遠ざかる話し声。
 成瀬くんの抑えきれない息遣い。
 こぼれそうになる喘ぎ声。
 全身が震えて、どうしようもなく、突き上げてくる衝動。

 こんなふうに、イキたくない。
 1人でなんてイキたくないのに。

 成瀬くんに染まった体が大きくのけぞった。
 縛られた手首のネクタイが強く張るほどに身をそらせると、成瀬くんが今までにないほどに強く抱きしめた。

「センセ……――き」

 成瀬くんが耳もとでささやく何かを聞き取る余裕もなく、子宮から脳天へと突き抜けた絶頂に全身が波打ち、成瀬くんのいない果てへさらわれた。
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