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第三章 雨降って、地固まる?

48. ……からの、まさかの展開へ

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 理由も聞かされずいきなり呼び出されたゴウドさんへ、グスカーベルさんが説明をしている。
 話を聞いたゴウドさんは、かなり戸惑っているみたいだ。

「私は、カズキくんが誰であろうと構わないと思っている。君が、これまで村にどれほど貢献してくれたか……だから、無理に自分の正体を明かす必要はないんだよ?」

「ありがとうございます。でも、身の潔白を証明したいのです」

 ゴウドさんだって、村に身元不明の人物が滞在しているよりは、正体がわかっているほうが安心だろう。
 指示されるまま、テーブルに置かれた水晶玉を両手で包み込むようにして持つ。
 水晶には、すぐにステータスの文字が映し出された。


      【名称】  カズキ・サカイ/20歳
      【種族】  人族
      【職業】  召喚勇者
      【レベル】 9236
      【魔力】  9497
      【体力】  8512
      【攻撃力】 魔法 9025
            物理 3284
      【防御力】 8891
      【属性】  火、水(氷)、土
      【スキル】 製薬、鑑定、探知、空間、風操作
            飛行
            回復、召喚
      【固有スキル】 蚊奪取、蚊召喚
              吸血取込、マホー
      【召喚獣】 メガタイガー


 へえ~、公式の画面を初めて見たけど、人もちゃんと種族名が出るんだな。
 『魔法使いの弟子』は自称だから、職業としては認定されないようだ。
 そして、実際の数値はこれなんだね。
 俺がわかりやすいように、マホーが数字の桁を減らして四捨五入してくれていたのか。
 うん、やっぱりあっち(100点満点)の表記のほうが、俺にはわかりやすくて良いな。

⦅武闘大会に出場したことで、細かい数値は上昇しておるが、大まかな数字は変わっておらんのう⦆

 なるほどね。
 桁が多いと、あとどれくらいで次の段階へ到達するのか、一目瞭然だもんな。
 面白いのは、『マホー』は名前がそのままだけど、トーラは種族名で載っていることだ。
 マホーはスキルで、トーラは召喚獣だからなのか。
 せっかく名前があるんだから、トーラも名で表示されればメガタイガーだとバレなくていいのにね。

「どうぞ、確認してください」

 水晶から手を離してしまうと文字が消えてしまうそうなので、触れたまま二人に見せる。
 
「「・・・・・」」

 水晶玉を見つめたまま、二人とも微動だにしない。
 この反応は、何に対してなんだろう?
 やっぱり、『召喚勇者』という職業?
 それとも、『レベル』?
 う~ん、全然わからん。

「カズキ、内容について確認をしてもいいか?」

「はい」

「君は、庶民ではなく貴族なのか?」

 あっ、そこからなんだ。

「いいえ、違います。俺の故郷では、皆が家名を持っていますので」

「そうか……ありがとう」

 あれ? グスカーベルさんの質問はもう終わり?
 続いて、ゴウドさんも俺に聞きたいことがあるみたい。

「カズキくんは、回復魔法も使えるのかい?」

「はい、一応ですが……」

 回復魔法はこれまで数回しか行使したことがないから、上手いとはいえない。
 これも、もっと精度を上げておくといざという時に役立つと思うのだが。

「……君の正体については、よくわかった。協力に感謝する」

 えっ!? もういいの?

「グスカーベル団長、ではカズキくんへの疑いは……」

「晴れたから、安心してくれ。カズキはこれからも、トーアル村のために尽力してほしい」

「はい、もちろんです」

「事情聴取は、これで終わりだ」

「では、俺はこれで失礼します」

 なんだ、あっけないくらいにあっさり終わったな。
 これまで『召喚勇者』と知られることに対して執拗に警戒していたが、自意識過剰みたいでかなり恥ずかしいぞ……

⦅まあ、良かったではないか。儂も、ホッとしたぞい⦆

 そうだな。
 村や国から追放されたら困るし。
 一時はどうなることかと思ったけど、とりあえず危機は回避できたのだから、本当に良かった。


 ◆◆◆


 和樹が出ていったあとの部屋の中は、しんと静まり返っていた。
 グスカーベルもゴウドも、すぐに立ち上がることができない。

「あの……団長。カズキくんは、間違いなく『人』なんですよね?」

「村長も見ただろう? 種族は『人族』になっていた。私は何度も確認をしたから、間違いない」

 グスカーベルは、今は何も映し出されていない水晶玉を片付けると、はあ…と深いため息を吐いた。

「……一体、どれほど研鑽を積めば、二十歳そこらの若者があのレベルに到達できるのだろうな」

 何百年も生きながらえなければ、到底無理だとグスカーベルは苦笑する。

「見たこともないような数字がたくさん並んでいて、私は自分の目がおかしくなったかと思いました」

「それは、私も同じだ」

 グスカーベルの予想では、和樹のレベルは自分より上の5,500から6,000あたりだった。
 しかし、蓋を開けてみれば、6,000どころかライデン王国一と言われる近衛騎士団団長の6,700を遥かに超える数字だったのだ。
 しかも、常人並みだと安堵できたのは『物理攻撃』の数値のみで、他は筆舌に尽くし難い値ばかり。
 
 スキルの多さにも驚いたが、固有スキルの数にいたってはもはや意味さえわからない。
 通常は持っていても一つ。
 それを四つも所持しているなど、グスカーベルはこれまで見たことも聞いたことも無い。
 その他にも、氷魔法や召喚獣がメガタイガーなど、何から確認をすればよいのか。
 どこを追及するべきなのかさえ、全くわからなかった。

「鑑定ではっきりしたのは、カズキにはこの国を害する意思はないということだ。彼にその気があったならば、もうすでに事を起こしていただろうからな。やはり、ハクばあさんの見立ては間違っていなかった」

「それで、結局のところ、彼の入国記録がなかった理由というのは……」

「……わからない。まあ、今となってはどうでもよいことだが」

「ただ、カズキくんがかたくなにギルドへの登録を拒んでいたのは、自分の能力を周囲に知られて畏怖の念を抱かれたり、反対に、利用されることを避けたかったからだと思います」

 昨夜、自身がモホーだったと告白したときも、同じようなことを言っていた。

「国の首脳陣に存在を知られれば、間違いなく取り込まれるだろうな」

 王女や大臣らの息女と婚姻を結ばされるだろうと、グスカーベルは断言する。
 優良人材の国外流出を防ぐ最善策は、国の重鎮の縁者と結婚をさせること。
 優れた能力はその子供へ引き継がれる可能性が高いため、将来国を支える優秀な人材も同時に確保できる……まさに、一石二鳥の手段なのだ。

「あの、カズキくんのことは、どうか国へは内密に……」

「もちろん、報告するつもりはない。そもそも、これは越権行為にあたるからな」

 和樹が快く受け入れてくれたため成立したが、本来は違法行為。
 それに、彼の嫌がるような行動を安易にするべきではないと、グスカーベルは理解している。
 和樹を敵に回していいことなど、何一つないのだ。

「では、昨夜の件は国できちんと対処させてもらう」

「よろしくお願いいたします」

 部下を連れて、グスカーベルは役場を出る。
 今日も観光客で賑わっている村の様子を眺めながら、任務に忠実なあまり余計な詮索をした過去の自分に愚痴の一つも言いたくなった。
 
(それにしても、『召喚勇者』とは何者だ?)

 【職業】に具体的な所属名がなかったことで、和樹が身分証明書を持っていないことが確定した。
 仕事を持っている者はその所属先が、ない者は学校名や定住先が表示される。
 だから、住所を定めず国を渡り歩く者は、ギルドへ登録をするのだ。
 村長からは「カズキは学生だ」と聞いていたが、学校名は表示されず、代わりに『召喚勇者』とあった。

(王宮書庫で調べてみるか……)

 ふとそんな考えが頭をよぎったが、グスカーベルはすぐに頭を振り思い付きを外へ追いやる。
 世の中には、知る必要のないこともあるのだ。
 今日彼自身が、それを身をもって学んだのだから。


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