31 / 79
第二章 村のために、いろいろ頑張る!
31. <武闘大会6> どうして、こうなった?
しおりを挟む魔剣士さんが弟子にしてくれって、どういうこと?
「えっと……おぬしは、騎士団に所属しておるのじゃろう? そっちの仕事は……」
俺と違って、魔剣士さんにはこの世界では花形の立派な騎士のお仕事があるよね?
「騎士の仕事に、一切未練はございません。いつでも、辞する覚悟はできております!」
あ~公衆の面前で言い切っちゃたよ、この人。
同じ領地の人とか、上官さんとか、下手したら領主様だってここに居るかもしれないのに。
あっ! 同じ騎士服を着た男性が、慌ててどこかへ走っていったよ。
これ、マズいんじゃないかな……
「……ゴホン。すまぬが、儂は弟子を取ってはおらぬのじゃ」
俺がマホーの弟子なのに、その弟子っておかしいでしょう?
そもそも、モホーはこの世に存在しない人物…アンデッド(設定)なんだから。
⦅別に、おかしくはないぞい。『弟子の弟子』…つまり『孫弟子』というやつじゃな。それに、こやつはなかなか見どころがある。これからが、楽しみじゃわい⦆
ちょっと、なんでマホーが受け入れるつもりになってんの?
未熟者の俺が、弟子を育てられるわけないだろう!
⦅儂が弟子を通して、孫弟子を育てるのじゃ。良い考えじゃろう?⦆
全然良い考えじゃないし、俺は断固反対!!
それよりも、とりあえず試合の決着をつけてもらわないと。
「その…おぬしは、一度冷静になるのじゃ。何事も、急いては事を仕損じるというもの。ところで、この試合はおぬしの棄権ということで、よいのかのう?」
「はい。私の実力では、到底及びませんので」
魔剣士さんは、キリッとした笑顔で言った。
よし、決まった!
いろいろあったけど、これで本来の目的は果たせたぞ。
あとは、褒賞を受け取って、すぐにゴウドさんへ譲渡の手続きをしてもらって、俺は村へ帰って温泉に浸かりのんびりと……
試合を終えた俺は、今後のことに思いを巡らす。
―――しかし、このときの俺は、貴族の強かさを真に理解していなかった。
圧倒的な力を見せつけたことで生じる、面倒な弊害に……
◇◇◇
表彰式は、何事もなく終わった。
……表彰式『は』、ね!
◇
国王陛下からお言葉を頂戴し(校長先生のお話のように長かった……)、希望の褒美を聞かれ(すでに『トーアル村』と書かれた書類が用意してあった)、譲渡の書類にサインをしてあっさり終了。
拍子抜けするくらい、スムーズに事が進んだ。
念には念を入れて、『今後、トーアル村に対し、対等な商取引以外で貴族たちが権力を盾に横暴なことをしないよう、国王からも釘を刺しておいてくれ』的なことをやんわりとお願いしたら、「この国の貴族で、其方に盾突こうとする者などおらん」と苦笑されてしまった。
それでも、その場で「トーアル村への無用な手出しは、罷り成らぬ!」と発言してくれたし、明文化もしてくれたよ。
もっとおじいちゃんのような国王を想像していたけど、ゴウドさんくらいの年齢の若々しい男性で、王子様たちも含め皆やっぱりかっこ良かった。
トーアル村の人たちを見ていても、過疎化はしているけど圧政に苦しんでいる様子はない。
王都も荒れた感じはなく栄えているし、統治が上手くいっているんだと思う。
俺のような庶民の意見にも耳を傾けてくれたし、この国の国王様は良い人だね。
⦅そりゃあ、おぬしを敵に回したくはないからのう……⦆
……その言い方、まるで俺が国王を脅したみたいに聞こえるんだが。
⦅あえて苦言を呈すれば、先ほどの国王に対するおぬしの行動は『権力』ではなく『能力』を盾にしたものじゃ。そのことは、自覚しておいたほうが良いじゃろうな⦆
「…………」
そうか、見方を変えればそうなるんだな。
俺がしたことも、貴族たちとなんら変わらないってことなのか……
⦅そう落ち込むでない。おぬしは、『他人のために、己の能力をつかった』のじゃ。あやつらは、『己の欲のために、権力と他人をつかった』。そこは、全く違うぞい⦆
ハハハ、マホーは慰めてくれたのか?
でも、ありがとうな。
俺は、ゴブリン討伐のときに誓った言葉を思い返す。
『この能力に驕り高ぶることなく、困っている人のために使っていこう』
今一度、この言葉を心に刻んだのだった。
◆◆◆
「このトーアル村を、村長の私に、ですか?」
「父さんが、名実ともにトーアル村の村長になる……」
突然のことに呆然としている父娘を、ドレファスは眼鏡の奥から温かいまなざしで見つめていた。
◇
夕刻近くに、騎士団に護衛されながらトーアル村までやって来たのは、村の監査人であるドレファスだった。
今日は建国祭であるため仕事は休みであったはずなのに、こんな時間にわざわざ彼が出向いて来たのは、やはり噂通り、武闘大会の優勝者がこのトーアル村を所望し、いずれかの貴族に下賜されたのだろうと父娘は思った。
一番可能性があるのは、スコット伯爵家だ。
四男は以前からしつこくルビーに言い寄っていたが、温泉が開業したあと、正式にスコット家から婚約の申し入れがあった。
四男のアーチー・スコットは、二十歳。
ルビーの一つ年上で、いい歳なのに親の金で遊び歩いている自称冒険者。
見目は悪くないが、外見も性格も全くルビーの好みではなく、どちらかといえば嫌いな部類にはいる人種だ。
ゴウドもそのことがわかっているので、「家格が違いすぎる」と何とか理由をつけてやんわりと断ろうとしていた。
トーアル村の評判が徐々に高まるにつれ、様々な家からルビーへ縁談話が持ち込まれ始める。
近隣の町や村の町長・村長の子息はもちろんのこと、スコット家以外の貴族からも舞い込んでくるようになった。
そして、トーアル村の価値を見出した貴族らによって、村の領有権自体が狙われることになったのだ。
◇◇◇
ドレファスから、この村が今度の武闘大会の褒賞になるかもしれないとの話に、父娘は頭を抱える。
村は国の直轄領ではあるが、監査人のもと村長のゴウドにはある程度権限が与えられており、温泉事業は比較的自由に展開できた。
しかし、貴族の領有地となれば、領主の意向を反映しなければならなくなる。
今は温泉に身分関係なく入浴できるが、それもどうなるかわからない。
自分たちが、温泉事業に今後も携わることができるか、どうか。
ルビーが、不本意な結婚や関係を強いられるかもしれない。
不安の種は尽きなかった。
「この件を、カズキさんに相談されてみてはいかがでしょうか?」
先行きに不安と悩みを持つ父娘を見かねたドレファスは、ある提案をした。
和樹なら、きっと解決してくれる。
確固たる自信が、ドレファスにはあった。
しかし、父娘は首を横に振る。
他国の旅人である和樹を、自分たちの面倒事に巻き込むつもりはなかったのだ。
「ドレファスさん、この件はカズキには絶対に言わないでください」
ルビーから先に釘を刺され、ドレファスは渋々頷く。
そして、運命の日を迎えた。
◇
「武闘大会で優勝をされたのは、大魔法使いのモホー殿です。彼は、トーアル村を国王陛下から下賜されるとすぐに譲渡の手続きをされました。この村の一切の権利をすべて……村長へ譲ると」
「このトーアル村を、村長の私に、ですか?」
「父さんが、名実ともにトーアル村の村長になる……」
「厳密に言いますと、村の権利は『トーアル村村長』のものです。ですから、ルビーさんがご結婚をされて夫が村長を継げば、その方が権利を有することになりますね」
「それだと、ルビーが無理やり貴族の子息と結婚させられるかもしれないのか……」
喜びも束の間、すぐに顔が曇ったゴウドへ、ドレファスは笑顔を向ける。
「ご安心ください。貴族たちが無用な手出しができぬよう、モホー殿が手を打たれました。詳細は、こちらの書類をご確認ください」
書類には、対等な商取引以外での貴族たちのトーアル村への無用な手出しを禁ずるとある。
つまり、意に沿わない婚約話や商取引はこちら側から断っても問題ないということ。
「貴族との関係をすべて断ってしまうと、村の事業に支障がでますからね……」
庶民・貴族関係なく、対等な取引をしていけばいいのだ。
「国王陛下は速やかに手続きを行うよう申し付けられ、この村の監査人である私が代理人として参上した次第です」
国王の命令は絶対で、何人たりとも背くことはできない。
ゴウドは戸惑いつつも、トーアル村の村長として書類に署名をする。
こうして、トーアル村が、正式に村人のものになったのだった。
◇
王都への帰り道、ランプの灯された薄暗い馬車の中でドレファスはホッと息を吐く。
今日の武闘大会を、彼は祈るような気持ちで観戦していた。
トーアル村が他の貴族の領地になる可能性が出てきたとき、ゴウドやルビーは和樹へ助けを求めようとはしなかった。
彼ほどの実力者であれば、武闘大会で優勝できる確率が高いにもかかわらずだ。
ドレファスとしては、自身も深く関わり立ち上げた大事な事業を、簡単に他人へ渡すことは我慢ならなかった。
父娘が一生懸命守ってきた村を、己の欲と都合のために手に入れようとする上位貴族たちへの怒りもある。
ルビーから先に釘を刺された手前、和樹へ直接お願いすることはできない。
だから、ドレファスは策を練り実行した。
和樹と親交の深いソウルたちが商う屋台へ行き、食事をしながら愚痴る……彼へ伝わることを願いながら。
「大魔法使いのモホーとは、あなたのことですよね……カズキさん」
さりげなく今日の和樹の動向を確認すると、清掃の仕事で朝王都へ行ったきりまだ帰ってきていないとのことで、ドレファスはさらに確信を深める。
「あなたが私の期待に応えてくださったのだから、私も頑張りますよ」
和樹はドレファスの想像を遥かに超える能力で周囲を圧倒し、優勝した。
自分は、自分ができることをこれから精一杯やっていこう。
懐に入れてある書簡を取り出し、ドレファスはすっかり日が落ちた窓の外へ目を向けた。
0
お気に入りに追加
390
あなたにおすすめの小説
異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜
山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。
息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。
壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。
茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。
そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。
明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。
しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。
仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。
そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。
婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています
葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。
そこはど田舎だった。
住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。
レコンティーニ王国は猫に優しい国です。
小説家になろう様にも掲載してます。
異世界でショッピングモールを経営しよう
Nowel
ファンタジー
突然異世界にやってきたジュン。
ステータス画面のギフトの欄にはショッピングモールの文字が。
これはつまりショッピングモールを開けということですか神様?
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
好き勝手スローライフしていただけなのに伝説の英雄になってしまった件~異世界転移させられた先は世界最凶の魔境だった~
狐火いりす@商業作家
ファンタジー
事故でショボ死した主人公──星宮なぎさは神によって異世界に転移させられる。
そこは、Sランク以上の魔物が当たり前のように闊歩する世界最凶の魔境だった。
「せっかく手に入れた第二の人生、楽しみつくさねぇともったいねぇだろ!」
神様の力によって【創造】スキルと最強フィジカルを手に入れたなぎさは、自由気ままなスローライフを始める。
露天風呂付きの家を建てたり、倒した魔物でおいしい料理を作ったり、美人な悪霊を仲間にしたり、ペットを飼ってみたり。
やりたいことをやって好き勝手に生きていく。
なぜか人類未踏破ダンジョンを攻略しちゃったり、ペットが神獣と幻獣だったり、邪竜から目をつけられたりするけど、細かいことは気にしない。
人類最強の主人公がただひたすら好き放題生きていたら伝説になってしまった、そんなほのぼのギャグコメディ。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~
厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない!
☆第4回次世代ファンタジーカップ
142位でした。ありがとう御座いました。
★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる