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終章 一つになる心
76. 独白
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離宮の庭園を、二人の人物がゆっくりと歩いていた。
一人は俊熙。もう一人は、俊熙から「二人だけで話したいことがある」と直々に指名を受けた峰風だ。
話があると言った俊熙だが、一向に口を開く気配がない。
このままでは、乗車場に着いてしまう。
馬車には双方の従者が待機しているため、二人きりで話をすることができなくなる。
こちらから声をかけるべきか。
峰風が様子を窺っていると、俊熙が突然足を止めた。
「今から口にすることは、すべて私のひとりごとです。峰風殿は、たまたま隣を歩いていて偶然耳にしてしまっただけ」
それだけ言うと、俊熙は再び歩き出した。
「……凛月が国外追放をされたのは、私のせいなのです」
「!?」
「私は、凛月が豊穣の巫女に選ばれると信じて疑わなかった。だから、言ってしまったのです。『次期巫女を、妻に迎えるつもりだ』と」
俊熙は焦っていた。
自分の年齢からみて、いつ許嫁を決められてもおかしくはない。
しかし、心に決めた相手は凛月ただ一人。
周囲に宣言すれば無理やり相手を押し付けられることはなく、あとは凛月が豊穣の巫女になるのを待つだけ。
ところが、選ばれたのは別の人物だった。
「彼女は高位官吏の娘です。きっと、何か裏があると思いました」
調査を始めた俊熙は、凛月が国外追放処分になったことを知る。
処分の撤回を求めて、祖母である皇后へ会いに行った。
◇◇◇
「どうか、お祖母様のお力で凛月を助けてください!!」
「わたくしにできることは、凛月を安全に第三国へ送り届けることだけです」
皇后によると、皇族への不敬罪でも処罰を受けるところだったとのこと。
それは撤回させたが、国外追放処分については口を出さなかったと言う。
「なぜですか? 凛月は、何も罪を犯していないのに……」
「彼女の命を守るためです。このまま国に居れば、いずれ命を落とすかもしれません」
「凛月は私が守ります!」
「このような事態になったのは、あなたが不用意な発言をしたからですよ。わたくしは、何度も申し上げました。凛月を伴侶に望むのであれば、時機が来るまで待ちなさいと」
◇◇◇
勝手な行動はせず、凛月への接触もしない。俊熙は、たしかに皇后から言われていた。
「それなのに、私は待てなかった。そして……凛月を失った」
「…………」
俊熙へどんな言葉をかけるべきなのか、峰風にはわからない。
もし自分だったら、待つことができたのだろうか。
「峰風殿に、率直にお尋ねしたい。あなたは、凛月のことをどう思っておられますか?」
「……凛月が帰国を希望するなら、後押しをしようと思っておりました。生まれ育った国で暮らすほうが、彼女のためであると。しかし、凛月はこの国で生きていくことを選びました。それを聞いて……私は嬉しかった」
「つまり?」
「凛月を、これからも守ってやりたい。できることなら、私が幸せにしたいと思っています」
俊熙の目を見て、峰風は答える。
ここで自分の気持ちを正直に話さないのは、俊熙に対し失礼のような気がした。
「凛月は、この国で穏やかに暮らしているようですね」
「そうでしょうか?」
峰風の助手になったことで、凛月は様々な騒動に巻き込まれている。
自分が勧誘しなければ良かったのではないか?
その考えが、峰風の頭を離れることはない。
「顔を見れば、すぐにわかりますよ。凛月は、表情に出やすいですから」
「ハハハ、たしかに……」
「どうか、これからも凛月を守ってやってほしい。峰風殿になら、安心して任せられます」
想い人を、他の男に託す。
その心情を、峰風が推し量ることはできない。
「かしこまりました」
───ただ、託された願いを引き受ける事しか
一人は俊熙。もう一人は、俊熙から「二人だけで話したいことがある」と直々に指名を受けた峰風だ。
話があると言った俊熙だが、一向に口を開く気配がない。
このままでは、乗車場に着いてしまう。
馬車には双方の従者が待機しているため、二人きりで話をすることができなくなる。
こちらから声をかけるべきか。
峰風が様子を窺っていると、俊熙が突然足を止めた。
「今から口にすることは、すべて私のひとりごとです。峰風殿は、たまたま隣を歩いていて偶然耳にしてしまっただけ」
それだけ言うと、俊熙は再び歩き出した。
「……凛月が国外追放をされたのは、私のせいなのです」
「!?」
「私は、凛月が豊穣の巫女に選ばれると信じて疑わなかった。だから、言ってしまったのです。『次期巫女を、妻に迎えるつもりだ』と」
俊熙は焦っていた。
自分の年齢からみて、いつ許嫁を決められてもおかしくはない。
しかし、心に決めた相手は凛月ただ一人。
周囲に宣言すれば無理やり相手を押し付けられることはなく、あとは凛月が豊穣の巫女になるのを待つだけ。
ところが、選ばれたのは別の人物だった。
「彼女は高位官吏の娘です。きっと、何か裏があると思いました」
調査を始めた俊熙は、凛月が国外追放処分になったことを知る。
処分の撤回を求めて、祖母である皇后へ会いに行った。
◇◇◇
「どうか、お祖母様のお力で凛月を助けてください!!」
「わたくしにできることは、凛月を安全に第三国へ送り届けることだけです」
皇后によると、皇族への不敬罪でも処罰を受けるところだったとのこと。
それは撤回させたが、国外追放処分については口を出さなかったと言う。
「なぜですか? 凛月は、何も罪を犯していないのに……」
「彼女の命を守るためです。このまま国に居れば、いずれ命を落とすかもしれません」
「凛月は私が守ります!」
「このような事態になったのは、あなたが不用意な発言をしたからですよ。わたくしは、何度も申し上げました。凛月を伴侶に望むのであれば、時機が来るまで待ちなさいと」
◇◇◇
勝手な行動はせず、凛月への接触もしない。俊熙は、たしかに皇后から言われていた。
「それなのに、私は待てなかった。そして……凛月を失った」
「…………」
俊熙へどんな言葉をかけるべきなのか、峰風にはわからない。
もし自分だったら、待つことができたのだろうか。
「峰風殿に、率直にお尋ねしたい。あなたは、凛月のことをどう思っておられますか?」
「……凛月が帰国を希望するなら、後押しをしようと思っておりました。生まれ育った国で暮らすほうが、彼女のためであると。しかし、凛月はこの国で生きていくことを選びました。それを聞いて……私は嬉しかった」
「つまり?」
「凛月を、これからも守ってやりたい。できることなら、私が幸せにしたいと思っています」
俊熙の目を見て、峰風は答える。
ここで自分の気持ちを正直に話さないのは、俊熙に対し失礼のような気がした。
「凛月は、この国で穏やかに暮らしているようですね」
「そうでしょうか?」
峰風の助手になったことで、凛月は様々な騒動に巻き込まれている。
自分が勧誘しなければ良かったのではないか?
その考えが、峰風の頭を離れることはない。
「顔を見れば、すぐにわかりますよ。凛月は、表情に出やすいですから」
「ハハハ、たしかに……」
「どうか、これからも凛月を守ってやってほしい。峰風殿になら、安心して任せられます」
想い人を、他の男に託す。
その心情を、峰風が推し量ることはできない。
「かしこまりました」
───ただ、託された願いを引き受ける事しか
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