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第四章 関係の変化
60. 邂逅(かいこう)
しおりを挟む夕刻、峰風は別邸の庭園にいた。
あの後、作業は無事に終わった。それに伴い一日早くこの地を発つことが決まり、豪族の長が巫女へ感謝の宴会を開いている。
その席を、峰風は途中で抜け出してきたのだった。
欣怡は宴席では再び面紗を被っていたが、儀式を見届けていた者たちにはすでに面が割れている。
豪族の親類縁者が勢ぞろいするなか、特に若い男たちが巫女を取り囲み歓心を買おうと奮闘している。それを牽制するかのように、雲嵐ら護衛官たちが睨みをきかせる。
会場内は異様な雰囲気となっていた。
宰相の子息である峰風には、女たちが次々と酌をしに来る。
それを、角が立たないよう断るのもひと苦労。ひどく気疲れした。
庭園で気を休めているときに、ふと思い立つ。
この時季は、夕刻でも外はまだ明るい。
気分転換に、屋敷の外へ散歩に出ることにした。
せっかく地方に来たのだから、これまでは時間が取れずできなかったこの地域の植生を観察するつもりだ。
◇
門の辺りが、やけに騒々しい。
「申し訳ありませんが、ここをお通しすることはできません」
「我々は巫女様の所用で、外へ出る必要があるのだ」
「ですから、その主様が一緒でなければお通しできないのです」
峰風は、何事かと目を向ける。
門番たちと話をしているのは、馬車から顔を出した浩然だった。
「浩然、どうしたんだ?」
「峰風様……」
「こちらは、峰風様のお知り合いの方でしょうか?」
顔見知りの門番が、渡りに船とばかりに声をかけてきた。
「実は、宦官殿が外出されると仰っておりまして、困っていたところです」
門番によると、主に同行していない宦官を外に出すことはできない。
そもそも、後宮にいる宦官が屋敷に滞在すること自体が初めてで、対応に苦慮しているとのこと。
「浩然は官吏であるから、外出に問題はないぞ」
「いえ、こちらの方ではなく、もう一人の方でして」
「もう一人?」
窓から覗くと、笠を深く被った小柄な人物が座っている。子墨だった。
「子墨、こんな時間からどこへ行くんだ?」
「欣怡様の所用で、出かけるところでございます」
子墨ではなく、浩然が答える。
主の欣怡は宴席におり、同行することは不可能なこと。
明日、都へ戻るため、今しか時間がないと浩然は訴えるが、門番たちの返答は変わらない。
「だったら、私が同行しよう。あちらの者は、私の助手でもあるからな」
「峰風様がご一緒であれば、私共としても問題はございません」
主の代わりに高官の峰風が責任を持つことで、あっさりと許可が下りた。
「のんびりしていたら、日が暮れてしまう。浩然、早く馬車に乗せてくれ」
「ですが……」
なぜか、浩然が渋っている。表情も硬い。
と、その時、子墨が無言で浩然の袖をくいっと引っ張る。
大きく頷く子墨を見て、浩然はようやく扉を開けた。
馬車がゆっくりと動き出す。
「それで、欣怡様の所用とのことだが、どこへ向かっているんだ?」
隣に座る子墨へ顔を向けるが、返事がない。
「子墨?」
「峰風様、私からご説明──」
口を開いた浩然を制止し、子墨は被っていた笠を脱ぐ。
はらりと垂れた髪の色は、黒ではなく銀髪。
峰風の視界に、紫水晶が映る。
「もう一度、御神木のところへ参ります。樹医殿」
官服姿の欣怡が、にこやかに微笑んでいた。
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