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第四章 関係の変化
53. 竹林に眠る物(上)
しおりを挟む先触れもなく、今度は第二皇子が峰風の執務室にやって来た。
「樹医殿と助手に、どうしても頼みたいことがある。私と工部に協力してもらえないだろうか?」
神妙な顔つきで峰風へ話を切り出した麗孝を、子墨は思わず二度見する。
これまでとは全く違うしおらしい態度に、どこか体の具合でも悪いのかと思ったのだ。
「……何だ、その顔は?」
「い、いえ、何でもありません!」
すぐに以前の調子に戻った麗孝に安堵する。
何か裏があるのではないかとちょっと疑ったことは、許してほしい。
「梓宸殿下からは、麗孝殿下の意向に沿うようにと命を受けております。私と子墨も、ぜひ協力させていただきます」
「宮廷内で地に落ちた工部の信用を取り戻すために力を尽くせと、皇帝陛下より直々に任務を賜った。私が関係各所へ協力を依頼している。兄上にも、これまでの行いを謝罪したのだ」
麗孝は梓宸から「口先の言葉だけでなく、これから行動や態度で示せ」と言われたらしい。
先月の一件で、工部尚書だった雹華の父赦鶯は罷免された。雹華自身も宮に幽閉中。
近々、父娘ともに宮廷を去るのではないかと噂されている。
母と祖父の後ろ盾がなくなった麗孝は、これから己の力だけで宮廷内での立ち位置を確立していかなければならないのだ。
「刑部からの依頼で、工部が竹林の捜索をすると聞いております」
「その通りだ。都中を荒らしまわっていた窃盗団が、先日召し捕られた。盗品の在り処を白状したのだが、その場所が広大でな。それで、工部へ話が回ってきた」
人海戦術で探せば、いずれは見つかる。しかし、時間も人手も掛かりすぎる。
多少でも捜索範囲を狭められれば、効率も上がる。
麗孝は考えた末に、峰風と子墨に助力を請うことを決意したのだった。
「其方らは、兄上と御前様の覚えもめでたい。これまでのことを水に流してくれとは言わない。虫が良い話であるとわかっている。それでも、お願いしたいのだ」
頭を下げる麗孝は十六歳。凛月の二つ下だ。
梓宸は「アイツも、ある意味被害者ではある」と語っていた。
成人して、まだ一年。周囲の大人の影響を受けやすかったのは事実である。
今後、麗孝の宮廷内での立ち位置がどうなっていくかは、本人の心掛け次第だという。
子墨は、以前よりやや顔つきが変わった麗孝をそっと見つめた。
◇
後日二人が連れてこられたのは、竹林に囲まれた小規模ながらも趣のある邸宅。
きちんと手入れが行き届いている美しい竹林に、子墨は目を奪われた。
三人を待っていたのは、三十代半ばに見える男性二人と数人の男たち。
その内の一人に、子墨は見覚えがあった。評議の際に拉致未遂事件を説明した刑部侍郎だ。
他は、新しく任命された工部尚書と配下の者だという。
「麗孝殿下にこのような所までご足労いただき、申し訳ございません」
「今回は私が彼(子墨)の保証人となっているから、見届けるのは当然の義務だ」
麗孝へ揖礼した工部尚書は、峰風と子墨へ顔を向ける。
「私は、この度工部尚書を拝命した王燗流という。協力に感謝する」
燗流は、工部侍郎からの繰上りで尚書に抜擢された。
盗品を早期に発見し、ぜひとも信頼回復につなげたいと意気込みを語る若い工部尚書の肩を、刑部侍郎がポンと叩く。
峰風と梓宸のような関係が垣間見えた。
「こちらは、盗賊の首領の隠れ家です。手下は『首領がこの竹林の中に埋めた』と供述したのですが、奴が口を割りません。それで、工部に捜索を依頼しました」
「其方が、工部の汚名を返上し名誉挽回できる機会を与えてくれたのであろう? 私からも、礼を言わせてもらう」
「麗孝殿下、どうか頭を上げてください!」
第二皇子から頭を下げられ、刑部侍郎が恐縮している。
皆が一丸となって、この機会を活かそうと必死になっていた。
「樹医殿と助手に見てもらいたいのは、竹林の異変だ。『竹の生え方が不自然』『色が変色している』など、どんな些細なことでもいい。気付いたことがあったら、報告してくれ」
そこを工部の者に掘らせるのが、麗孝の考えた作戦とのこと。
周囲に広がる竹林は広く、ただ闇雲に掘っても見つかる可能性はまずない。
確実に、その場所を探し当てなければならない
大人数に掘り起こされ、美しい竹林が見るも無残な姿になることは子墨も望んでいない。
桑園で工部の者に狙われたが、ここに居る彼らは無関係。とばっちりを受け、尻拭いをさせられているだけ。
子墨としては思うところは何もない。喜んで協力させてもらうだけだ。
ただ、地中に埋められているものを探し当てることなどできるのか、不安があった。
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