【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari

文字の大きさ
上 下
53 / 81
第四章 関係の変化

53. 竹林に眠る物(上)

しおりを挟む

 先触れもなく、今度は第二皇子が峰風の執務室にやって来た。

「樹医殿と助手に、どうしても頼みたいことがある。私と工部に協力してもらえないだろうか?」

 神妙な顔つきで峰風へ話を切り出した麗孝を、子墨は思わず二度見する。
 これまでとは全く違うしおらしい態度に、どこか体の具合でも悪いのかと思ったのだ。

「……何だ、その顔は?」

「い、いえ、何でもありません!」

 すぐに以前の調子に戻った麗孝に安堵する。
 何か裏があるのではないかとちょっと疑ったことは、許してほしい。

「梓宸殿下からは、麗孝殿下の意向に沿うようにと命を受けております。私と子墨も、ぜひ協力させていただきます」

「宮廷内で地に落ちた工部の信用を取り戻すために力を尽くせと、皇帝陛下より直々に任務を賜った。私が関係各所へ協力を依頼している。兄上にも、これまでの行いを謝罪したのだ」

 麗孝は梓宸から「口先の言葉だけでなく、これから行動や態度で示せ」と言われたらしい。

 先月の一件で、工部尚書だった雹華の父赦鶯は罷免された。雹華自身も宮に幽閉中。
 近々、父娘ともに宮廷を去るのではないかと噂されている。
 母と祖父の後ろ盾がなくなった麗孝は、これから己の力だけで宮廷内での立ち位置を確立していかなければならないのだ。

「刑部からの依頼で、工部が竹林の捜索をすると聞いております」

「その通りだ。都中を荒らしまわっていた窃盗団が、先日召し捕られた。盗品の在りを白状したのだが、その場所が広大でな。それで、工部へ話が回ってきた」

 人海戦術で探せば、いずれは見つかる。しかし、時間も人手も掛かりすぎる。
 多少でも捜索範囲を狭められれば、効率も上がる。
 麗孝は考えた末に、峰風と子墨に助力を請うことを決意したのだった。

「其方らは、兄上と御前様の覚えもめでたい。これまでのことを水に流してくれとは言わない。虫が良い話であるとわかっている。それでも、お願いしたいのだ」

 頭を下げる麗孝は十六歳。凛月の二つ下だ。
 梓宸は「アイツも、ある意味被害者ではある」と語っていた。
 成人して、まだ一年。周囲の大人の影響を受けやすかったのは事実である。

 今後、麗孝の宮廷内での立ち位置がどうなっていくかは、本人の心掛け次第だという。
 子墨は、以前よりやや顔つきが変わった麗孝をそっと見つめた。


 ◇


 後日二人が連れてこられたのは、竹林に囲まれた小規模ながらも趣のある邸宅。
 きちんと手入れが行き届いている美しい竹林に、子墨は目を奪われた。
 三人を待っていたのは、三十代半ばに見える男性二人と数人の男たち。
 その内の一人に、子墨は見覚えがあった。評議の際に拉致未遂事件を説明した刑部侍郎だ。
 他は、新しく任命された工部尚書と配下の者だという。

「麗孝殿下にこのような所までご足労いただき、申し訳ございません」

「今回は私が彼(子墨)の保証人となっているから、見届けるのは当然の義務だ」

 麗孝へ揖礼した工部尚書は、峰風と子墨へ顔を向ける。

「私は、この度工部尚書を拝命した王燗流カンルーという。協力に感謝する」

 燗流は、工部侍郎からの繰上りで尚書に抜擢された。
 盗品を早期に発見し、ぜひとも信頼回復につなげたいと意気込みを語る若い工部尚書の肩を、刑部侍郎がポンと叩く。
 峰風と梓宸のような関係が垣間見えた。

「こちらは、盗賊の首領の隠れ家です。手下は『首領がこの竹林の中に埋めた』と供述したのですが、奴が口を割りません。それで、工部に捜索を依頼しました」

「其方が、工部の汚名を返上し名誉挽回できる機会を与えてくれたのであろう? 私からも、礼を言わせてもらう」

「麗孝殿下、どうか頭を上げてください!」

 第二皇子から頭を下げられ、刑部侍郎が恐縮している。
 皆が一丸となって、この機会を活かそうと必死になっていた。
 
「樹医殿と助手に見てもらいたいのは、竹林の異変だ。『竹の生え方が不自然』『色が変色している』など、どんな些細なことでもいい。気付いたことがあったら、報告してくれ」

 そこを工部の者に掘らせるのが、麗孝の考えた作戦とのこと。
 周囲に広がる竹林は広く、ただ闇雲に掘っても見つかる可能性はまずない。
 確実に、その場所を探し当てなければならない
 
 大人数に掘り起こされ、美しい竹林が見るも無残な姿になることは子墨も望んでいない。
 桑園で工部の者に狙われたが、ここに居る彼らは無関係。とばっちりを受け、尻拭いをさせられているだけ。
 子墨としては思うところは何もない。喜んで協力させてもらうだけだ。
 
 ただ、地中に埋められているものを探し当てることなどできるのか、不安があった。


 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ
キャラ文芸
とある役人の娘は、大変見目麗しかった。 けれど美しい娘は自分の見た目が嫌で、見た目を褒めそやす人たちは嫌いだった。 そんな彼女が好きになったのは、彼女の容姿について何も言わない人。 密かに想いを寄せ続けていたけれど、想い人に好きと伝えることができず、その内にその人は宦官となって後宮に行ってしまった。 想いを告げられなかった美しい娘は、せめてその人のそばにいたいと、皇帝の妃となって後宮に入ることを決意する。 「そなたは後宮一の美姫だな」 後宮に入ると、皇帝にそう言われた。 皇帝という人物も、結局は見た目か……どんなに見た目を褒められようとも、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない。

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。 そこに迷い猫のように住み着いた女の子。 名前はミネ。 どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい ゆるりと始まった二人暮らし。 クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。 そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。 ***** ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイト掲載

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

処理中です...