【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

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第三章 転機

48. 夢の終わり

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「工部尚書へ敬意を表し、縄は打ちません。おとなしくご同行ください」

「皇帝陛下! これは私を陥れようとする者の策略です!! 私は何もしていない!!!」

 刑部侍郎の申し出にも、赦鶯はみっともなく喚き騒ぐ。最後まで醜態をさらした。
 その様子を麗孝は呆然と、峰風と梓宸は冷静に、高官たちは好奇の目で眺めている。
 皇帝はいつものように、無表情・無反応を貫く。
 
 埒が明かないと、刑部尚書は配下に命じ赦鶯を捕縛させた。

「麗孝、おまえは今回の件に関与しているのか?」

 梓宸は鋭い眼光を向ける。あまりの迫力に、麗孝は震えあがった。

「あ、兄上、私は何も知りません! 本当です!!」

「梓宸殿下、麗孝殿下は無関係であると証明されております。でなければ、今ごろは……」

 刑部尚書は言葉を濁す。見つめた先にいたのは、うなだれる赦鶯だった。


 ◇◇◇


 同時刻、雹華の宮には数名の宦官を引き連れた男が訪れていた。峰風が桑園で出会ったあの人物である。

 貴妃への面会にあたり、事前の申し入れも無しにいきなり押しかけてきた非常識な相手。
 しかし、皇帝の勅使である以上、雹華が無下に追い返すことはできない。

「一体、何事ですの?」

 不機嫌さを隠しもせず、雹華は応接室で使者と向き合う。
 ようやく今日、長かった謹慎処分が解けた。
 貴妃に従順な妃嬪たちと、久しぶりにお茶会をするはずだった。その予定を変更させられたのだ。
 機嫌を悪くするなと言うほうが、無理な話だった。

「先ほど、工部尚書が捕らえられました。容疑は、桑園内にて宦官の拉致を企み、騒動を惹起した罪です」

「お父様が、まさか……」

「同罪で、雹華様は本日より幽閉の身となります。宮の出入り口は封鎖し、周辺へ宦官を配置いたしますので、ご承知おきください」

 使者は、感情の籠っていない声で勅書を読み上げる。
 沙汰が下っている以上、すでに証拠も押さえられているのだろう。
 今さら無実を訴えたところで、悪あがきにしかならない。
 雹華は冷静に判断した。

「一つ、訊いてもいいかしら?」

「何でしょうか?」

「たかが宦官一人を拉致しようとした罪にしては、大仰すぎるのではなくて?」

 これは負け惜しみではない。雹華の素朴な疑問だった。

「『たかが宦官』、ではなかったからですよ」

「どういうこと?」

「この国において、重要なお役目を担う方。豊穣の巫女様の従者だったからです」

「豊穣の巫女……」

 父から話だけは聞いたことがあった。
 隣国で満月の日に奉納舞を舞う、他とは異なる容姿を持つ特別な巫女。

「それが、欣怡妃の正体だったというわけね」

「左様でございます。では、私はこれで──」

「待って、もう一つだけ。麗孝は、どうなるのかしら?」

「麗孝殿下が関与されていないことは、すでに証明されております。連座も適用されません」

「それは、良かったわ」

 使者は部屋を出ていった。
 外が騒々しい。早速、宦官たちが配置されたようだ。異様な雰囲気に、侍女たちがあたふたしている。
 雹華が幽閉されたことは、すぐに後宮中に広まるだろう。

 これから麗孝は、第一皇子と同じ境遇になる。
 梓宸とは違い、母親と後ろ盾を同時になくした我が子は一人でやっていけるのだろうか。
 雹華は心配でたまらない。
 どうして、こんな結果になってしまったのか。

(わたくしは、どこで道を誤った?)

 今回の件を画策したときなのか。それとも、欣怡の舞い姿に嫉妬したときか。
 皇后が亡くなり、国母になれるかもしれないと夢を抱いてしまったときなのか。
 それよりもずっと昔、後宮入りをしたときだろうか。

「まあ、今となってはどうでもよいことね」

 庭園に咲く昼顔が、季節の移り変わりを告げていた。


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