【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

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第三章 転機

45. 評議(上)

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 今朝、通達された臨時招集命令に、高位官吏たちは何事かとコソコソ話し合っている。
 梓宸の後ろに控えている峰風は、そんな周囲の様子を眺めていた。
 この評議は、梓宸でさえも事前に知らされていなかったようだ。
 しかし、聡明な主はすぐに議題に思い当たったらしい。それは、峰風も同じだった。
 本来であれば、峰風も他の高官たちと同じあちら側にいるはずの立場。このような重鎮たちが並ぶ側にいて良いはずがない。
 間違いなく、先日の子墨拉致未遂の件で証言を求められるのだろう。

 しばらくして皇帝が登場。そして、評議が始まった。

「本日、皆さまにお集まりいただきましたのは、先日桑園内で発生しました事案についてご報告をさせていただくためでございます」

 担当者が朗々と議題を読み上げ、次いで、刑部侍郎が事件のあらましを話し始める。
 妃嬪付き宦官の拉致未遂の話に、「(妃嬪付きとはいえ)たかが宦官が拉致されそうになった件が、わざわざ臨時招集してまで報告すべきことなのか?」と参列者から刑部へ疑問の声が上がった。
 
(『たかが宦官』か……)

 苦々しい思いを、峰風は呑みこむ。
 その者の出自にかかわらず、有能な者は重用する。峰風や梓宸が一貫している姿勢だ。
 しかし、外廷に出仕している官吏・官女の中には、宦官や平民出身の官を見下す者が少なからずいる。
 声を上げた高官も、その一人なのだろう。
 
「実行犯はすぐに捕らえられ、取り調べの結果、工部に所属する者たちと判明しております」

 ざわっと、どよめきが起こった。「どうして、工部の者が?」「なぜ、そのようなことを?」皆が首をかしげる。
 高官たちからの視線を受け、工部尚書の赦鶯シャオウがおもむろに口を開いた。

「今回の件につきましては、私も寝耳に水の話で驚いているところでございます。ですが……」

 赦鶯は、一度言葉を区切る。

「その宦官は、本当に被害者なのでしょうか?」

 その口調には、自信がありありと見えた。

「赦鶯殿、それはどういう意味ですかな?」

 刑部侍郎に代わり問いかけたのは、刑部尚書だった。恰幅のよい赦鶯とは対照的な細身の男性。
 赦鶯の意見に不快感を示したわけではなく、冷静に発言の意図を尋ねている。

「その者が桑園から逃亡しようとし、それに気付いた配下たちが追いかけたのではないか?ということです。その行動が、結果的に宦官を拉致するように見えたのかもしれません」

 そう来たか。峰風は顔をしかめる。
 桑園で子墨がいなくなったときに、護衛官も同様のことを口にしていた。
  
「たしかに、容疑者たちはそのように供述しておりましたな。『自分たちは、宦官の逃亡を阻止しようとしただけだ』と」

 刑部尚書は、淡々と事実を述べた。

「やはり、そうでしたか。そもそも、配下たちが宦官を拉致する理由がございません」

 高官たちが、赦鶯の意見に同調していく。
 まずい流れになってきたと、峰風はグッと拳を握りしめた。

「ですので、彼らは無実です。代わりにその宦官を捕らえ、事情聴取を──」

「その前に、当日その宦官と現場におられた胡峰風殿に状況をお尋ねしたい。よろしいですかな?」

 結論を急ぐ赦鶯を制止し、刑部尚書はこちらへ顔を向ける。峰風は立ち上がった。
 峰風としては、子墨の代わりに彼の無実を主張するだけだ。

 妃嬪付き宦官を、助手として借り受けていること。
 職務のために桑園へ行き、途中で別れたことを説明した。

「なぜ、途中で別れたのです? 一緒に農夫へ付いて行けばよろしかろうに」

「あの日は、朝から天候不順でした。雨具などは装備しておりましたが、万が一風邪をひかれては妃嬪の職務にも差し障りがあると判断いたしました」

「なるほど。風邪をうつされては困るということですな」

 妃嬪の名が明かされていない以上、祭祀のことは言えない。
 刑部尚書は事情を知っているようだ。峰風のざっくりとした説明にも合点がいったとばかりに頷いた。

「だから、その隙を突かれたのだろう。これ幸いと、逃亡をはかったのだ」

「彼はそんなことはしません! する理由もない!!」

 横槍を入れてきた赦鶯へ、峰風は思わず反論する。
 子墨へ濡れ衣を着せようとする赦鶯が許せなかった。

「理由がないと、どうして言い切れるのだ? 君が知らないだけで、妃嬪からひどい扱いを受けていたかもしれないだろう? 宮の中でのことなど、我々にはわかるまい」

「それは……」

 峰風も、一時期は疑ったことがあった。
 でも今は、絶対にそれはないと言い切れる。言い切れるだけの理由もある。
 
 ───ただ、口にできないだけで

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