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第三章 転機
43. それぞれの確信(峰風)
しおりを挟む昨夜、宰相である劉帆は家に戻らなかった。
これまで、どんなに忙しくとも必ず家には帰ってきていた父が戻らなかったことに、峰風は事の重大さを認識する。
子墨からは、農夫に扮した見知らぬ男たちに狙われたと聞いた。逃げ回っていたところを助け出され、胡家まで送り届けてもらったのだと。
それが、峰風も会った刑部の者たちだろう。
なぜ、刑部が桑園にいたのか。
突発的に起きた事件なのに、手回しが早かったのはなぜなのか。
自分の知らないところで、何か大きなものが動いている。そう肌で感じた。
おそらく、劉帆へ尋ねても明確な答えは返ってこないだろう。父は、昔から口が堅い男だ。
◇◇◇
翌日、峰風はいつも通り出仕することにした。
母の春燕から「凛風(子墨)さんはわたくしに任せて、しっかり働いていらっしゃい」と送り出される。
いつの間に準備していたのか、女物の衣裳がたくさん用意されていた。
まさかとは思いつつ尋ねてみたら、「もちろん、(凛風を)着飾るためよ!」と当然と言わんばかりの顔。
そういえば、春燕は昔から娘を欲しがっていた。飾り立てることもできない息子たちはつまらないと。
子墨を見ると、春燕の勢いに顔を引きつらせている。
助けてほしいと目が語っていたが、使用人たちは子墨を女だと思っているため、母の暴走を止めることができない。
同情と申し訳なさを感じつつ、峰風は屋敷を後にした。
執務室に着くなり、峰風は梓宸と劉帆からそれぞれ呼び出される。
梓宸からは、自分が子墨の保証人になったことで争いに巻き込んでしまったと謝罪された。
さらに、事件には工部の者が複数関わっているとも。
その話だけで、峰風には今回の事件の首謀者が誰か理解した。
劉帆からは、子墨の様子を尋ねられただけだった。
やはり、峰風に詳細を話す気はないようだ。
書類に目を通していた父は、ひどく疲れた顔をしていた。
◇
早めに仕事を片付けた峰風は、日がまだ高いうちに屋敷へ帰った。
離れにある子墨の部屋を訪ねたが、姿がない。春燕に尋ねると、書庫か庭ではないかとのこと。
外出できない子墨のために、屋敷内は自由に出入りできるようにしてある。
書物を読んだり、庭園を散歩したりと、子墨は思い思いに過ごしているらしい。
最初に書庫を覗いたが、居なかった。
花でも観察しているのかと思っていたが、子墨がいたのは人目に付かない裏庭の奥の奥。
ここは、使用人でさえも用事がない限り通らない場所だ。
「子墨、こんな所……」
声をかけようとして、峰風は口を閉じる。
子墨は、舞を舞っていた。
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