【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

gari

文字の大きさ
上 下
40 / 81
第三章 転機

40. 滞在

しおりを挟む

「───様。凛風様、着きましたので起きてください」

 揺り起こされ、凛月は目を開けた。
 いつの間にか雨は止み、馬車の窓からはうっすらと西日が差し込んでいる。

「ここは……どこ?」

 半分、微睡まどろみながら尋ねる。
 全然寝たりない。まだ眠っていたい。頭がボーっとする。

「胡家です」

「……胡家?」

 誰の家だっけ?と、凛月は寝ぼけまなこをこすりながら考える。

「宰相様、峰風様のお屋敷です」

「!?」

 凛月の頭が、一瞬でシャキッと冴えわたる。
 胡家は、敷地の広い立派なお屋敷だった。
 馬車を降りた凛月を出迎えたのは、中年の男女。

「春燕様、凛風お嬢様をどうかよろしくお願いいたします」

「宇航、ここまでご苦労様でした。こちらを、旦那様へ」

 春燕は浩然へ書付を渡す。

「お嬢様、では私はこれで失礼いたします」

 挨拶をすると、浩然はあっさり行ってしまった。
 詳しい事情は何も聞かされないまま一人置いていかれた凛月は、離れの客間に通される。

、お疲れでしょうが、まずは湯浴みをいたしましょう」

「あの、えっと……」

 いきなり、本当の名を呼ばれた。
 浩然からは、春燕は宰相の奥方で峰風の母と聞いた。凛月の名を知っているのなら、すべての事情もわかっているのだろう。
 しかし、隣にいる中年男性は誰なのか。

「これは、瑾萱の父親で吴然と申します。信用のおける者ですので、ご安心下さいませ」

 言われてみれば、目元が娘にそっくりだ。 
 凛月は一気に親近感を持った。

「ともかく、ご無事で何よりでございました。息子もそのうち戻って参りますので、どうか当家でごゆるりとお過ごし下さい」

「ありがとうございます。お世話になります。ご子息様と瑾萱さんには、いつも大変よくしていただいております」

 緊張で、つい早口でまくし立ててしまった。
 最後に二人へぺこりと頭を下げると、春燕が「そう、あの子が……」と嬉しそうに微笑んだ。


 ◇


 湯浴みを終えた凛月を待っていたのは、春燕と胡家の使用人たちだった。
 あれよあれよという間に綺麗に髪を結われ、化粧まで施されてしまう。
 使用人たちは下がり、部屋には凛月と春燕だけが残された。

「凛月様の今のお姿ならば、どこからどう見ても商家の息女にしか見えません。使用人たちには知人の娘を数日預かると周知しておりますので、当家にいらっしゃる間は『凛風』として振る舞ってください。息子にも、そのように説明をいたします」

「私は、後宮に戻らなくてもいいのでしょうか?」

 子墨はともかく、後宮妃である欣怡が宮に不在なのはかなり問題ではないだろうか。

「安全が確認できるまでは、我が家に滞在していただくと主人からは聞いております。貴女様の身が、何よりも大事ですから」
 
「後宮も、危険ということですか?」

「わたくしも詳細は知らされておりませんので、これ以上のことは……」

 春燕が首を横に振る。結局、詳しい事情は何もわからなかった。
 宰相が戻るまでは、凛月はただ待つしかない。

「ただいま、お茶の用意をさせております。夕餉前ではありますが、美味しいお茶菓子もございますのよ」

 にこやかに笑う春燕の顔は、峰風によく似ていた。

 春燕は、呼びにきた吴然と一緒に部屋を出ていく。
 凜月は、しばらく部屋で休憩させてもらうことにした。

(峰風様は、まだ戻られないのかな……)

 もうすぐ日が暮れる。あんなことがなければ、仕事を終え門まで送ってもらっている頃だ。
 峰風や瑾萱に心配をかけてしまった。
 何だか、ひどく疲れた。
 
 椅子に座ったままうつらうつらしている内に、凛月は再び深い眠りについた。

  
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

すみません! 人違いでした!

緑谷めい
恋愛
 俺はブロンディ公爵家の長男ルイゾン。20歳だ。  とある夜会でベルモン伯爵家のオリーヴという令嬢に一目惚れした俺は、自分の父親に頼み込んで我が公爵家からあちらの伯爵家に縁談を申し入れてもらい、無事に婚約が成立した。その後、俺は自分の言葉でオリーヴ嬢に愛を伝えようと、意気込んでベルモン伯爵家を訪れたのだが――  これは「すみません! 人違いでした!」と、言い出せなかった俺の恋愛話である。  ※ 俺にとってはハッピーエンド! オリーヴにとってもハッピーエンドだと信じたい。

政略結婚の相手に見向きもされません

矢野りと
恋愛
人族の王女と獣人国の国王の政略結婚。 政略結婚と割り切って嫁いできた王女と番と結婚する夢を捨てられない国王はもちろん上手くいくはずもない。 国王は番に巡り合ったら結婚出来るように、王女との婚姻の前に後宮を復活させてしまう。 だが悲しみに暮れる弱い王女はどこにもいなかった! 人族の王女は今日も逞しく獣人国で生きていきます!

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...