【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く

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第二章 巫女と宦官

24. 欣怡妃

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 凛月は、次々と出される料理に舌鼓を打っていた。
 周囲は隣同士で談笑するなど和やかな雰囲気も見られる。
 しかし、お茶会に参加していない欣怡に知り合いはいない。
 宮では話をする瑾萱と浩然も、今日は少し離れた後ろに控えているため話し相手もいない。

(食べ終えたら瑾萱を解放してあげて、浩然を供に後宮の庭園を散歩しに行こう)

 せっかく宮の外に出てきたのだから、のんびり見て回りたい。

 今日は、後宮の女官たちにとって外廷に勤める官吏たちと知り合える数少ない絶好の機会。
 妃嬪に付き従う侍女たちも、この日ばかりは張り切って身支度を整える。
 もちろん、瑾萱もその一人。
 いつも世話になっている凛月の、せめてものお返しのつもりだ。
 浩然には、あとで何か美味しいものをこっそり差し入れしようと考えている。

「……面紗を被ったままでは、食べ難くありませんの?」

 話しかけてきたのは、隣に座る同じ『美人』の妃嬪だった。

「そうですね。汚さないように、気は遣います」

 本音を言えば、面紗を取っ払ってもぐもぐ食べたい。
 気を付けながらちょこちょこ食べても、正直食べた気がしないのだ。

「まったく姿をお見掛けしませんので、どのような方なのかと思っておりましたが、言葉も通じますし本当に普通の方なのですね……とにかく、お元気そうで良かったですわ」

 欣怡は、どのような人物と思われていたのだろうか。お茶会の席で、あらぬ噂を立てられていたのは間違いない。
 『普通の方』は褒め言葉ではないような気もするが、妃嬪の口調から悪意は感じられない。体調を気遣う言葉もあった。
 欣怡が異国から嫁いできたと知っているようなので、自分たちと何ら変わらないという意味なのだろう。

「お気遣いいただき、ありがとうございます」

 凛月は肯定的に受け取った。

「欣怡様、貴妃がお呼びだそうです」

 瑾萱の声に振り向くと、見慣れぬ侍女が立っていた。
 貴妃といえば、皇后に次ぐ高位の妃嬪だ。後宮の事情に疎い凛月でもそれくらいは知っている。
 そんな御方が、欣怡に何の用だろうか。

「食事中に、お伺いしてもいいのかしら?」

 料理をすべて食べてから行きたいと、凛月は正直に自分の希望を述べる。
 まだ、楽しみにしていた粽を食べていない。
 しかし、言葉の意味を理解した瑾萱が苦笑しながら首を横に振った。

「貴妃は、『今から』と仰っているそうです。ですから、すぐに参りましょう」

「……わかりました」

 普段、宮で食べている料理も美味しいが、行事のときに出されるものは更に工夫をこらした料理が多い。
 面紗で食べ難さはあるが、それでも凛月は楽しんで食事をしていた。
 それだけに、残念に思う気持ちが強い。
 後ろ髪を引かれつつ、侍女の後をついて行った。

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