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第27話 ヒースの違和感
しおりを挟むダンスパーティーの翌日、学園内でヒースは違和感を覚えていた。
気になったのは、昼食のとき。
いつものように、ルミエールとシンシアが食事をしている。相変わらず仲が良い。
久しぶりの再会に積もる話もあるのだろうと、ヒースは微笑ましく眺めていた。
同じように二人を眺めていたランドルフが、急に慌てた様子で席を立つ。
どうしたのだろうとヒースが目で追っていると、彼は二人に話しかけ一緒に戻ってくる。どうやら、以前と同じように強引に誘ったようだった。
ユーゼフと初めて同じテーブルで食事をすることになり、シンシアが緊張している様子が表情から見てとれる。ヒースは同情してしまった。
彼女の心情を慮り、陰でランドルフへ苦言を呈したヒースへ「今日のルミエールとは、二人きりにさせられないんだ……」と彼が苦笑している。
『今日のルミエール』という発言が引っかかったが、ヒースは二人の仲を邪魔するランドルフに多少の憤りを感じていた。
最近、ランドルフがシンシアを気に入っていることは彼の態度でわかっている。
それでも、仲睦まじい彼らをヒースと同様に応援しているのだと思っていた。
シンシアと共にやってきたルミエールはにこやかに微笑み、命じられるままユーゼフの隣に座った。
いつもなら困惑の表情を隠しきれていない彼が、今日は堂々とした態度でユーゼフと市場経済についての話をしている。
珍しく真面目な話をしているユーゼフもルミエールへ過度な接触はなく、王子としての威厳を保ったまま。
ようやく自覚を持ったのかと安堵したヒースは、城の側近に呼び出されたユーゼフ、お茶のおかわりを取りにシンシアと席を外したランドルフがいない隙を見計らい、隣のルミエールへ小声で話しかけた。
「……妹は、疲れてはいないか?」
「……この度は、大変お世話になりました。実は、あれから体調を崩しまして熱が少し……今日は床に臥せっております」
「そうか……それは心配だな」
見送ったときに、ルミエラはかなり疲れた表情をしていた。やはり、無理が祟ったのだろう。
昨日は、様々なことがあった。
ルミエラのファーストダンスの相手に選ばれたこと。
王城内の庭園を案内し、二人で散策を楽しんだこと。
彼女から感謝の気持ちと永遠の別れともとれる挨拶を受け、思わず妙な提案をしてしまったが、また会う約束を取り付けたこと。
最後に、一緒に花火を観たこと。
昨夜のことを思い出すだけで、ヒースの胸はギュッと苦しくなる。
(見舞いの品を贈ったら、迷惑だろうか)
ふと思い浮かんだヒースだが、これまで義務的なもの以外で女性へ贈り物をした経験がない。
ルミエラが喜びそうな物は何だろうか。一人考えを巡らせていたヒースへ、ルミエールが遠慮がちに声をかけた。
「あの……ヒース様、本日の研究会のことですが」
「ああ、今日も活動は──」
「ちょっと待って!!」
お茶のおかわりを取りに行ったはずなのに、なぜか食事をてんこ盛りに載せたトレイを持ち戻ってきたランドルフが、後ろから強引に会話に割り込んできた。
「その……研究会部屋のドアの調子が悪いんだ。だから、今日の活動は中止にしてほしい」
「俺は何も聞いていないが、何の不具合だ?」
「そ、それを帰りに調べようと思っている。だからルミエールくん、明日、魔力の再登録をするからよろしくね!」
「かしこまりました。ランドルフ様」
昼食を終え講義へ向かうランドルフに「大事なことは、すぐに報告してくれ」と伝えると、「いつかはこの日が来ると思っていたが、それがいきなり今日だったから仕方ないだろう……」と意味のわからない言葉を残し彼は去っていった。
帰りの馬車の中でテレサへルミエラのことを伝えたところ、ヒースの予想通り「ルミエラ様へ、お見舞いの品を贈りましょう!」と提案された。
「花に、お菓子を添えるのはどうか?」と尋ねたら、「きっと、お喜びになりますよ」との返事が。
テレサからも賛同を得られたことで自分の選択が間違っていなかったと安心したヒースだったが、「坊ちゃまの成長が嬉しいです……」とテレサが涙ぐんだことにはかなり閉口したのだった。
◇
次の日、魔力を再登録したあと、奉仕活動研究会の会合が始まった。
今日の議題は、長期休暇明けに予定している孤児院への訪問の件だ。
病院とは違い、孤児院へはお菓子を差し入れすることが昔から決められている。
集まった寄付金で菓子店から購入すると説明したヒースに、ルミエールから声が上がった。
「これは、お屋敷の厨房と料理人をお借りできるという前提での提案になりますが……店で購入するよりも材料を買って作るほうが、より多くのお菓子を用意できると思います。それに、我が家を通せばより安く材料を仕入れることは可能です」
「さすが、ルミエールくんは家が商売をしているだけあって、僕たちにはない発想があるね!」
ランドルフは感心し、ヒースは彼の提案を検討する。
事実、孤児院には食べ盛りの子供たちが大勢いるので、数が多いほうが喜ばれるのだ。
「そちらさえ提供してくだされば、僕はル……家族も動員してお手伝いをさせていただきます」
ルミエールが言いかけた家族とは、おそらく妹のルミエラのことだろう。
テレサからは、彼女がたまに家でお菓子を作っているという話を聞いていた。
思いがけずルミエラと会う口実ができたことに、ヒースの胸は高鳴った。
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