12 / 39
第12話 第二王子殿下、毒殺未遂事件?(後編)
しおりを挟む「毒草って、どういうことですか?」
「それがね、どうやらルミエールちゃんの薬草に誰かが毒草を混ぜたみたいでね……」
状況を把握していない私たちへ、ランドルフ様がこそっと説明をしてくれた。
それによると───
たまたま調合室の前を通りかかったユーゼフ殿下は、私の姿を見つけ部屋の中へ入ってきた。
しかし、それと入れ替わるように私は器具を洗うために出て行ってしまい、仕方なく待つことにしたのだとか。
暇潰しに調合室内を見て回っていたところ、机の上に置いてあったEドリンクを見つけ、付近にいた学生に誰の物か尋ねると私の物だと教えられる。
いかにも私っぽい色に興味が芽生え、ヒース様から「止めろ!」と言われたにもかかわらずユーゼフ殿下は勝手に飲み干してしまった。
その後、急な腹痛に襲われた彼はトイレへ駆け込んだが、その間に、事態を知らされ駆けつけてきた王城の側近が「毒殺未遂事件だ!」と捜査を始めたため大事件となってしまう。
トイレから戻ったあとも力なく床に座り込んでいたところに、私たちが帰ってきた……とのことだった。
(なるほど。平民の私への嫌がらせが、第二王子への毒殺未遂事件にまで発展しちゃったんだね……)
直々に学園長まで出てきて学園の上層部まで勢揃いと、とんでもなく大事になっている。
まさか、ユーゼフ殿下が平民の作ったものを口にするなんて、犯人は予想できなかったのだろう。
「あの……王子殿下は、そんな安易にそこらの物を口にしてはいけないと思うのですが」
まあ、その殿下の行動のおかげで私は難を逃れたわけだけど。
でも、もし万が一の場合だったらと不敬を承知でつい言葉が口をついて出てしまった。
「君の意見には完全に同意しかないが、さすがにユーゼフといえども普段はこんな軽率なことはしない。今回は、『君が作ったポーションだったから』という充分な理由があったからだな」
「ははは……」
思わず乾いた笑いが出てしまう。
今までは、ユーゼフ殿下がやることに対し平民の私が異議を申し立てることなど不敬でできないと放置してきたが、考えを改めたほうがいいのだろうか。
ルミエールと交代する前に、何か対策を講じておくべきだと痛感した。
とは言っても、平民の私にできることなど限られているが。
私が真剣に今後のことを考えていると、横からポンと肩に手を乗せられた。
カナリア様がにっこりと微笑んでいるのだが、掴まれている肩に爪が軽く食い込んでいて何気に痛い。
そして、寒気を覚えるほどの殺気を感じてしまうのはなぜだろう。
(まさかとは思いますけど……あなた、ユーゼフ殿下のこと……)
(カナリア様はご冗談がお好きですね。平民のわたくしがそんな大それたこと、考えたこともございませんわ……ホホホ)
時間にしてわずか数秒の目だけのやり取りだが、シンシア様は気づかれたようだ。
プルプル震える私へ殺気立つカナリア様を、「まあまあ、少し落ち着きましょう」と苦笑いを浮かべながら宥めていた。
カナリア様と親交を深めておいて、本当に良かったと思う。
少なくとも、これまでの貴族令嬢のように問答無用で実家を潰される心配はないのだから。
ユーゼフ殿下による犯人捜しはその間も続いており、全員の持ち物検査が行われた。
公平を期するために私のも調べられたが、もちろん何も出ない。
自分で自分のポーションに毒草を入れるような趣味を、私は持ち合わせてはいないのだ。
一部の学生からは、採取時に誤って毒草が混入したのではないか?とか、私の自作自演ではないのか?との声も上がった。
しかし、薬草は乾燥前に先生が厳しくチェックをしていたこと、Eドリンクは本来自分が飲むための物で、それに毒を入れてどうするのか?という意見。
仮に、もし騒動を起こすつもりだったのならば、できあがってすぐに皆の前で飲んでいたはずだと結論付けられ、私は冤罪から逃れることができた。
なんとか、今回も退学フラグを無事へし折ることに成功し、ホッと胸を撫でおろす。
「これは何だ?」
一人の学生の鞄から、紙に包まれた薬草が出てきた。
薬学の先生が慎重に鑑定をしたところ毒草と判明し、辺りは一気に騒然となる。
「シャルダン殿……申し開きがあれば、この場で聞こうか」
「ユーゼフ殿下、これは何かの間違いです! 私は何もやっておりません!!」
「では、なぜ其方の鞄からこれが出てきたのだ?」
「これは、私を陥れるために仕組まれた誰かの陰謀です! そうだ、ルミエールが私へ仕返しをす……」
途中まで言いかけて、シャルダン様はハッと口を押えた。
「……ルミエールが其方へ仕返しとは、穏やかな話ではないな。つまり、彼から仕返しをされるようなことを、先に其方がしたということかな?」
「それは、その……」
言い淀んだことで、かえって肯定したとの印象が強くなった。
ユーゼフ殿下は側近へ目配せをする。
「事情聴取は別室で行う。警備兵、彼を連行しろ!」
シャルダン様が連れていかれる様子を皆が黙って見つめる中、ひときわ顔色の悪い学生が何人かいた。
ユーゼフ殿下は大仰にゆっくりと彼らを見回すと、おもむろに口を開く。
「最近、平民を軽視・蔑視する貴族の振る舞いが目に余り、国王陛下も兄も、もちろん私も憂いているところだ。私のところに、この学園内での貴公たちの行いもいくつか報告が上がってきている」
(えっ、そうなの?)
ヒース様の顔を見ると、彼はコクリと頷いた。
「賢明な諸君であれば、今後は軽はずみな行動は慎んでくれると期待をしている。では、本日はこれで解散だ!」
第二王子らしくこの場をきちんと仕切り、容疑者を捕らえ、側近と共に颯爽と部屋を出て行くユーゼフ殿下。
私のEドリンクを盗み飲みし、お腹を壊した同一人物とはとても思えない。
そんな彼をじっと見つめていたカナリア様は、瞳をキラキラと輝かせた恋する乙女の顔をしていた。
◇
後日、シャルダン様へ停学二か月の処分が決まり、合わせて同期間、自宅謹慎になるとのこと。
第二王子が被害者なのだから退学が妥当では?との声も上がったそうだが、あれは王子を狙ったものではなく偶発的なできごとだったことで、そちらは回避された。
ただ、処罰を受けたのはシャルダン様だけではなかった。
私を水浸しにしたゼルバ様は停学一か月。そして、二人へ指示を出していたとして侯爵家のリーベン様が停学三か月という一番重い罪となる。
毒草混入事件の動機は、「『奉仕活動研究会』へ平民(の私)が入会したから」。
ただ、それだけの理由だった。
◇
あの事件以降、私を取り巻くの周囲の状況は大きく変わった。
(シンシア様とカナリア様を除いた)同級生だけでなく学園全体が皆、私を腫れ物を扱うかのように接してくるのだ。
私としては普通にしてもらいたいのだが、前以上に誰も近寄って来なくなった。
たまたま学園の廊下ですれ違ったランドルフ様が、笑いながらその理由を話してくれた。
「ルミエールちゃんは、陰で皆から何て呼ばれているか知っている?『ユーゼフ殿下の最愛の君』だって。初めて聞いたときは大爆笑だったけどね」
「それって、この間の事件のせいで……」
「うん。ユーゼフがルミエールちゃんのポーションを飲んじゃったでしょう? わが身の危険を顧みず体を張って大切な人を守ったって、一部の学生からは称賛を受けているらしいよ」
「・・・・・」
クラっと立ちくらみを起こしたように目の前が真っ暗になる。
思わずこの場に座り込んで、頭を抱えたくなった。
(『最愛の君』って、何? 今度こそ、カナリア様に殺されそう……)
「あっ…そうそう、この話はヒースの前でしたら絶対にダメだよ! アイツ、この話を聞くと途端に機嫌が悪くなるんだ」
(大丈夫です! 頼まれても、絶対にしませんから!!)
「たぶん、ユーゼフに嫉妬しているんだよ。ヒースも、ルミエールちゃんのことを結構気に入っているからさ。あっ、僕は嫉妬なんかしないから安心して。最近ルミエールちゃんが仲良くしている、シンシアちゃんだっけ? あの子、すごい可愛いよね。良かったら、今度紹介してほしいな。それじゃあ、またね!」
言いたいことだけを言い終えると、ランドルフ様は軽快に去っていく。
その背中を見送りながら、現在の状況を整理してみる。
取りあえず、ユーゼフ殿下の庇護?影響?下のおかげで、貴族たちから実家を潰される心配はなくなったようだ。
これに関しては、一応感謝すべきなのだろう。
しかし、『学園退学→一家離散エンド』は回避されたが『死亡エンド→死に戻り』の可能性はまだゼロではない。
相手がカナリア様だから、限りなく低いとは思う(思いたい)が……
私は、盛大にため息を吐いたのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる