結婚ー彼女と再会するまでの男の長い話ー

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おまけの話

アカリ……騎士様

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  助けてくれた人は王立騎士。背の高い白い騎士様は、俺と同じように働かされていた未成年の男女を引き取ってくれる施設に連れて行った。着いた所に数人預ける。一つの施設に何人もは受け入れる事が出来ないので、多くても三人。身寄りのない子どもを育てる施設はどこも質素で余裕が無さそうだった。それでも、ギリギリの生活でも、行き場のない路上で生活する孤児達よりはずっと幸せ。怪我や病気の子達は病院へ、その他の子達は教会や、保護施設、里親の元へ連れて行かれた。何ヵ所もまわり、大勢いた子どもは少なくなった。
「君はここに入るんだ。」
賑やかな街の一角に少し寂れた教会があった。出迎えた神父さまはにこにこしている。質素だが、清潔で、優しそうな笑顔。
「ご苦労様です。うちは余裕が無くて、一人しか受け入れらず、申し訳ありません。」
丁寧な言葉使いに、騎士様は深くお辞儀をし感謝の意を表した。さあ、おいで、と手を差し出された。その手を取らず、騎士様の後ろに下がった。
「いやだ。騎士様と一緒にいる。」
神父様の視線から隠れるように騎士様の服にしがみつく。その様子を見た神父様が近づき俺の顔を覗き込む。
「辛い思いをしたそうですね。ですが、我が儘はいけませんよ。今日からはここが君の家になるんですから。」
神父さまが屈み、視線をあわせ手を伸ばして、服を握ったままの俺の手を包む。表情は変わらず優しい笑顔で。
  俺は神父様と目を合わさず、騎士様を見上げて、願う。
「やだ。お願い騎士様。」
  我が儘が通るはずない、一人一人希望を聞いていたら仕事が終わらない。
  でも、ここは嫌だ。もし、ここに置いていかれたら、隙を見て逃げよう。
  騎士様は、一旦神父様の手を俺の手から離して俺の顔を困ったように見た。
「そうか、困ったな。一緒には、いられないんだよ?」
俺は両手を伸ばし、抱っこをねだる。普段、こんな子どもみたいなことしない。でも、神父様が俺を観察している。俺の言葉を聞いている。
「神父様、少し、お待ちください。話をしてみますので。」
  騎士様は俺を抱っこして、歩きだした。神父様もついてこようとしたので騎士様は断り、神父様から少し離れた場所までゆっくり歩く。
  俺は耳元に口を寄せ、騎士様だけに聞こえるように話をした。

  ぐすぐす泣いて、しばらく頭を撫でてもらって、手を引かれて神父様の所へ戻った。
「名前はなんと言うのかな?」
優しく尋ねる神父に俺は恥ずかしそうに下を向く。
「どうやら、私としばらく一緒に行動していたもので、離れるのが寂しかったようです。きちんと話せばわかってくれました。名前はアンリです。」
「そうか、アンリくん。よろしくね。ここにはきみより大きな子が二人いるよ。心配しなくていい。」
「うん。よろしく、お願い、します。」
俺は教会に残された。
「様子を見に来るからな、またな。」
  騎士様は次の場所に他の子どもを連れて行った。
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