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第十章兄弟
11き…ついな……これは
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「今から百七十年前だ。」
イグナートが話始めた。ここにいる誰もがその過去の大事件を知っている。しかし、ここにいる誰もがまだ産まれてもいなかった。
「王族暗殺。」
最近、似たような事が起こったが、もっと昔の大勢の人が死んだ事件。
マークスの父マークが若くしてグレイにならざるを得なかったその出来事。
「その、暗殺事件が、そんな昔の事が今回もかかわっていると?」
オーカドル公爵は拘束されたものの、公爵という位のため、軟禁状態で聞き取りが行われた。すでに、反抗もせず、語ったという。
王宮に戻ったイグナートとソニーとテオ。人払いをした部屋で事件の話をする。
「テオ、君には辛いことだろうが、聞く権利がある。どうする?」
テオは二人掛けのソファーにソニーと並んで座り、自分の膝を手で握り、下を向いたまま口を開く。
「ルーはもういない。最後に残った俺は、逃げてはいけないんだ。俺は何があったのか、全てを理解したい。そしてルーに話してやりたい。」
その静かな声に、ソニーは胸が締め付けられ息を吐いた。その微かな動きで、ソニーの様子に気付いたテオは、膝を強く握っていた手を離し、隣に座っていた彼の手を握る。
「ソニー、少しの間…たのむ。こんなこと初めてだ。手が…震える。」
普段のソニーなら即座に振り払っていただろう。だが、意外にもテオの握ったその手の上からもう片方の彼の手が包んだ。
「逃げ出さないよう、捕まえていてやるよ。」
「……たのむよ。」
「順を追って、説明する。」
イグナートが話始めた。
王族大量暗殺事件。それは終戦まぎわの混乱していたときに起こった。
王宮内の水に毒が入れられ王宮内は毒の霧に覆われた。
それは王宮内だけにとどまらず、流れ出た下流の一部にも被害をもたらした。王宮近くに住んでいた者や、同給水源の流域の被害者は多かった。一命をとりとめたものの、死ぬほうが楽だったのではないかと思われるほど、身体に溜まった毒で苦しんだ者もいる。そして、その後生まれた子どもや孫にまで、影響があったという者もいる。
「その事件の被害者の一人が、テオの祖父。」
初めて聞く祖父の話。まさか、ルーの毒もそこから繋がっていたのか。
「テオの祖父は毒の影響か、子どもがなかなか、できなかった。ようやく産まれたのがテオの母。彼女も生まれつき身体が弱く、気の毒に近所の青年に無理やり……」
「ええ。俺たちを生んで死んだと聞いています。」
テオがボソリと呟くように言う。そこに感情は無いように見えた。ソニーが手に力を入れた。
「大丈夫だ、ソニー。」
「身寄りのない、テオとルーは教会に引き取られた。成長した双子は…現オーカドル公爵の祖父オレオに引き取られる。」
「正確には執事と、庭師の養子にな。」
「ああ。貴族の気まぐれのように……だが、それだけじゃないんだ。」
「?」
イグナートが、言いにくそうにテオを見た。
「実は、そのオレオの祖父は伯爵………その頃は伯爵家だったわけだが、その頃に、王族暗殺の手引きをした一人だったのだ。当時、噂はあったものの、証拠はなく、追及出来なかった。代替わりし、オレオが跡を継ぎ、王女と結婚して、公爵となった。」
「じゃあ……」
「暗殺事件を企てたのが身内だったってことをオレオも、サンドも知っていたの?」
「知っていた。オレオ達は祖父達の計画が失敗して、マーク王子が生き残り、手出しの出来ない王宮奥に守られていることを知っていて、一旦は行動を起こすことをあきらめ長い年月がたった。だが、パフィ王女との結婚によって、考えを変えた。」
「すべての王位継承者がいなくなれば…」
「だけど、その時って、まだ兄が即位する前だよな…グレイ、アレク、ハーネス…ルネ…はまだ生まれていないか?…輿入れした妹達も……かなりの人数がいたよ?」
「そうだな。すぐに全てを消すことはできない。オレオが、すぐに行動に移さなかったのは、案外そんな理由かもな。」
「でも、その頃って、テオはどこにいたの?」
「パフィ様の結婚…二十歳位か…ちょうど王宮に来た頃かな…ハルバートの部下になった頃。」
テオとソニーがイグナートの顔を見た。
「話を少し戻そう。テオがオレオに初めて会ったのはいつだ?」
「オレオと会ったのは十歳くらいの頃だ。街で偶然声を掛けられた。」
「偶然を装い、君に声を掛けた。」
「偶然じゃなかった?」
「君の事は知っていたそうだ。」
「そんなことは聞いていない。なぜ?」
「毒の被害者には国から治療費の援助があったのは知っているか?」
テオもソニーも首を振った。
「テオの祖父と母もリストに名前があった。そのリストを手に入れていて、その子だと知っていて君に声を掛けたと……」
「き…つい…な……これは…」
……え?つまり、毒を仕掛けた子孫が毒の被害者をわざわざ利用したと……
あまりのことに、ソニーは言葉も出ない。
「声を掛けた時点で、君を利用しようと考えていたそうだ。身体の弱い弟を人質にして、汚い仕事をさせるつもりだった。オレオからそう聞いていたと白状したよ。」
「最初からか……きついな……出会ったのは偶然で、善意から面倒見てくれたと…思っていたのに…そうか……あの笑顔は……嘘だったのか……」
下を向きホロホロと涙を流す。ソニーは思わず立ち上がり、正面からテオの肩を抱き締めた。
「テオ……」
「ルーはどうなったのですか……」
「二十年前急に無くなったと。ある朝、世話人が様子を見に行ったら亡くなっていたと。多分苦しまずに…微笑んでいたと。」
「その時手に持っていた物がこれだ。親身に世話をしていた者が持っていた。今度会って話を聞くといい。」
テオと揃いの青い石のネックレス。
「母のピアス……二人で身に付けられるように紐を通してネックレスにしていた……」
イグナートが話始めた。ここにいる誰もがその過去の大事件を知っている。しかし、ここにいる誰もがまだ産まれてもいなかった。
「王族暗殺。」
最近、似たような事が起こったが、もっと昔の大勢の人が死んだ事件。
マークスの父マークが若くしてグレイにならざるを得なかったその出来事。
「その、暗殺事件が、そんな昔の事が今回もかかわっていると?」
オーカドル公爵は拘束されたものの、公爵という位のため、軟禁状態で聞き取りが行われた。すでに、反抗もせず、語ったという。
王宮に戻ったイグナートとソニーとテオ。人払いをした部屋で事件の話をする。
「テオ、君には辛いことだろうが、聞く権利がある。どうする?」
テオは二人掛けのソファーにソニーと並んで座り、自分の膝を手で握り、下を向いたまま口を開く。
「ルーはもういない。最後に残った俺は、逃げてはいけないんだ。俺は何があったのか、全てを理解したい。そしてルーに話してやりたい。」
その静かな声に、ソニーは胸が締め付けられ息を吐いた。その微かな動きで、ソニーの様子に気付いたテオは、膝を強く握っていた手を離し、隣に座っていた彼の手を握る。
「ソニー、少しの間…たのむ。こんなこと初めてだ。手が…震える。」
普段のソニーなら即座に振り払っていただろう。だが、意外にもテオの握ったその手の上からもう片方の彼の手が包んだ。
「逃げ出さないよう、捕まえていてやるよ。」
「……たのむよ。」
「順を追って、説明する。」
イグナートが話始めた。
王族大量暗殺事件。それは終戦まぎわの混乱していたときに起こった。
王宮内の水に毒が入れられ王宮内は毒の霧に覆われた。
それは王宮内だけにとどまらず、流れ出た下流の一部にも被害をもたらした。王宮近くに住んでいた者や、同給水源の流域の被害者は多かった。一命をとりとめたものの、死ぬほうが楽だったのではないかと思われるほど、身体に溜まった毒で苦しんだ者もいる。そして、その後生まれた子どもや孫にまで、影響があったという者もいる。
「その事件の被害者の一人が、テオの祖父。」
初めて聞く祖父の話。まさか、ルーの毒もそこから繋がっていたのか。
「テオの祖父は毒の影響か、子どもがなかなか、できなかった。ようやく産まれたのがテオの母。彼女も生まれつき身体が弱く、気の毒に近所の青年に無理やり……」
「ええ。俺たちを生んで死んだと聞いています。」
テオがボソリと呟くように言う。そこに感情は無いように見えた。ソニーが手に力を入れた。
「大丈夫だ、ソニー。」
「身寄りのない、テオとルーは教会に引き取られた。成長した双子は…現オーカドル公爵の祖父オレオに引き取られる。」
「正確には執事と、庭師の養子にな。」
「ああ。貴族の気まぐれのように……だが、それだけじゃないんだ。」
「?」
イグナートが、言いにくそうにテオを見た。
「実は、そのオレオの祖父は伯爵………その頃は伯爵家だったわけだが、その頃に、王族暗殺の手引きをした一人だったのだ。当時、噂はあったものの、証拠はなく、追及出来なかった。代替わりし、オレオが跡を継ぎ、王女と結婚して、公爵となった。」
「じゃあ……」
「暗殺事件を企てたのが身内だったってことをオレオも、サンドも知っていたの?」
「知っていた。オレオ達は祖父達の計画が失敗して、マーク王子が生き残り、手出しの出来ない王宮奥に守られていることを知っていて、一旦は行動を起こすことをあきらめ長い年月がたった。だが、パフィ王女との結婚によって、考えを変えた。」
「すべての王位継承者がいなくなれば…」
「だけど、その時って、まだ兄が即位する前だよな…グレイ、アレク、ハーネス…ルネ…はまだ生まれていないか?…輿入れした妹達も……かなりの人数がいたよ?」
「そうだな。すぐに全てを消すことはできない。オレオが、すぐに行動に移さなかったのは、案外そんな理由かもな。」
「でも、その頃って、テオはどこにいたの?」
「パフィ様の結婚…二十歳位か…ちょうど王宮に来た頃かな…ハルバートの部下になった頃。」
テオとソニーがイグナートの顔を見た。
「話を少し戻そう。テオがオレオに初めて会ったのはいつだ?」
「オレオと会ったのは十歳くらいの頃だ。街で偶然声を掛けられた。」
「偶然を装い、君に声を掛けた。」
「偶然じゃなかった?」
「君の事は知っていたそうだ。」
「そんなことは聞いていない。なぜ?」
「毒の被害者には国から治療費の援助があったのは知っているか?」
テオもソニーも首を振った。
「テオの祖父と母もリストに名前があった。そのリストを手に入れていて、その子だと知っていて君に声を掛けたと……」
「き…つい…な……これは…」
……え?つまり、毒を仕掛けた子孫が毒の被害者をわざわざ利用したと……
あまりのことに、ソニーは言葉も出ない。
「声を掛けた時点で、君を利用しようと考えていたそうだ。身体の弱い弟を人質にして、汚い仕事をさせるつもりだった。オレオからそう聞いていたと白状したよ。」
「最初からか……きついな……出会ったのは偶然で、善意から面倒見てくれたと…思っていたのに…そうか……あの笑顔は……嘘だったのか……」
下を向きホロホロと涙を流す。ソニーは思わず立ち上がり、正面からテオの肩を抱き締めた。
「テオ……」
「ルーはどうなったのですか……」
「二十年前急に無くなったと。ある朝、世話人が様子を見に行ったら亡くなっていたと。多分苦しまずに…微笑んでいたと。」
「その時手に持っていた物がこれだ。親身に世話をしていた者が持っていた。今度会って話を聞くといい。」
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