結婚ー彼女と再会するまでの男の長い話ー

キュー

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第十章兄弟

10そこまでだ

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「そこまでだ。ヒューク・サンド・デ・オーカドル公爵。」
暗い室内に聞きなれた声が響く。公爵の背後にいつからそこにいたのか、イグナートが立っている。
「何!?お前!どうして!死んだはずじゃ!」
オーカドル公爵は振り返りイグナートを見た瞬間、驚き、叫ぶ。
「奴を殺せ!」
テオと公爵の間に入って攻撃体勢に入っていた部下達に指示を出す。その場にいた半数が反転し、イグナートに標的を替えじりじりと、オーカドル公爵を守るような囲う形に前進した。
「殺れ!」
その掛け声と共に、身を翻し、オーカドル公爵自身に素早く走り寄る。
「何をする!」
叫ぶ公爵を気にもせず、両腕を固める。彼は抵抗できずに、あっさり拘束され、身動きできなくなった。その間、テオに攻撃をかけていた公爵の部下達は、テオの反撃に攻めあぐねていた。さらに公爵拘束後は加勢に加わった公爵の元部下達に攻撃され、程なく決着がつく。こちらは厳重に拘束された。
「大丈夫か?」
「イグナート。俺に聞いているのか?」
テオはニヤリと笑って見せた。

  テオはソニー襲撃の前、イグナートにオーカドル公爵のを明かされた。それは、ソニーを殺した後、部下達にテオを拘束させるというもの。全ての罪をテオに被せるつもりだったのだ。取り調べの途中暴れて自死したことにして、全てをでっち上げる……テオの祖父、母、弟の毒の死の恨みを王家に向け暗殺を企てたとでも、仕立てるつもりだったのだろう。
「君が弟を人質に取られている事は把握している。」
「…」
テオが武器に手を伸ばす。
「待て、争うつもりはない。聞いてくれ。」
イグナートは武闘派ではない。本気のテオに勝てるわけはない。敵対すると解っていて二人きりで会うこと自体有り得ない。
「オーカドル公爵の囲っているルーは、本人じゃない。」
「な!」
「彼はもう、亡くなっている。」
「嘘だ。」
「残念だが、事実だ。」
「嘘だ。」
「信じたくないのは理解できるが……証拠となるものを探していたのだが、まだ見つかっていない。だが、こちらも時間がない。今は私を信じてほしい。私の話す事が嘘だと……君が確証を得たなら、後で私を…殺してくれ。だが、ソニーはだめだ。」
「……なぜだ。」
「今は言えない。すべてが終わってから話す。今は、協力してくれないか。」
「一応聞いてやるよ。」
イグナートは手の平に乗せた短剣をゆっくり見せた。怪しい素振りをしようものなら、あっという間にテオに殺されてしまうだろう。
「この剣は仕掛けがしてある。君がソニーをで、殺した後、公爵はルーの所に君を案内するだろう。そこで、君はルーと再会するが、そのルーは別人だ。それを確認したら、納得してくれるか?」
「別の場所に本物は隠されている可能性はないのか?」
「それはない。彼の状態はずっと良くなかった。君は二十年より前の写真を持っているかい?写真は見るだけだったはず。長い間生きているだけの状態だったんだ。急に回復するとは考え難い。ちょうど二十年前から急に、写真を渡されただろう?替え玉が用意されたからだ。実際彼に会えばルーかどうかは君なら解るだろう?」
「もちろんだ。」
「本物の彼は今、部下が探している。見つかり次第連絡が入るはずだ。療養所近くに彼の別荘がある、その敷地内を探している。いずれ見つかるだろう。」
「ルーを確認後、俺はどうしたらいい?多人数に襲われたら、無傷では済まないだろうし、どうやって公爵を捕縛する?」
「強気だな……多数相手で、勝つ気でいるのか…」
「負けなけりゃ、勝つさ。」
「すでに彼の部下のほとんどは私の駒だ。問題ない。」
テオは手にした剣を触って確認する。
「これを使え。血糊が入っている……これごと刺すといい。リアルに血が流れるはずだ。」
「派手に死んでもらおうか。」

・・・・・・・・・・・

  ハンから緊急の連絡をもらった後、護衛の交代と早退の許可をもらうためにイグナートの所に行くと、いきなり、死んでくれと言われた。
「え?何?」
「今から、お前は襲撃されて、殺される。」
「はあ?」
「相手はお前を殺すふりをする。お前は何もしなくていい。殺されてくれ。」
「もう少し、説明…」
「早く行け!時間がない、こちらも時間がない、準備が必要なんだ。」
イグナートは振り返り、次々、部下に指示を出す。その言葉の中にマックに関する言葉も聞こえた。彼にも危険が?
「あ、これ、つけとけ。」
イヤーカフを渡された。了解。とにかく、家に戻る途中か、家に帰ってからか、わからないが、誰かに襲われる訳だ。あ~やだやだ。

  俺は気が進まなかったが、王宮を出て、家に向かった。
  イグナートが、事前に襲撃を防がないのは、そうする必要があるからだ。
  そうだよな?
  そうなのだな?

「テオ!」
「悪いな、死んでくれ。」
うわあ、やっぱり来たよ。聞いていたから、少しは冷静でいられるけれど、相手はテオか……
  テオがなぜこんなことをするのか。信じられない。だが、俺は知らない振りをして、死ななくてはならない。多分誰かが監視している。
「止めてくれ!……仲間だと……友達だと思ってたのに…そんな!」
テオの表情は冷たい。……ほ……本気じゃないよな?本気なら、死亡確定だよ。
「イグナートも死んだ。マックもだ。次はお前だ。」
「嘘だ!…」
それは嘘だ。マックが死ぬわけない。イグナートだって、先刻話したばかりだ。そんな時間がテオにある訳ない。はず…いや、テオの他に差し向けられた誰かに……いやいや、大丈夫なはず!
「嘘じゃない。その目で見ないと信じられないか?」
「どうして…」
「……話す必要はない。」
もうそろかな。テオの目が彼の手元を一瞬見る。本気なら、そんなことしないよな。
「テオ……」
「ソニー、生き永らえなければ良かったな。俺に殺されなくて済んだのに。」
「訳もわからず、死にたくない。」
「……時間稼ぎはやめろ。もう、終わりだ。」
テオの手には短剣がある……抱きついてくる。血が流れる。床を血溜まりが広がる。テオの身体が震えた。
………テオ………笑ってやがる……コノヤロウ……派手に死んでやるよ……覚えとけよな………
俺は短剣の柄を握り、細工のある短剣を隠しながら床に倒れた。
  しばらく、テオは部屋に入ってきた公爵と話しをして、二人は部屋を出て行った。

静かだ………

部屋の中で動くものはない。

部屋には誰も入ってこない。

「もう、いいか?」
声を……俺の声は思ったよりかすれていた。
耳のイヤーカフから返事が聞こえてきた。
「はい。予定通りに進んでおります。そのままそこでお待ちください。」
俺は血まみれになった身体を起こして、ため息をついた。うわぁベトベトして気持ち悪い~イグナートの部下の声がした。イグナートは取り込み中というわけか…
「マックは大丈夫なのか?それに、もう少し時間と、詳しい説明がほしかったと、伝えておいてくれ。」
「マック様は無事です。それから苦情は直接、本人にお願いします。とばっちりはごめんですから。ソニー様は急な指示に驚かれたようですが、今回は事が予想外に早く進んで、時間がありませんでした。…それに我々は、説明がないのは通常の事ですので。」
「…いつも…大変だな…おまえらも…」
イグナートの部下の苦労を思うと、気の毒になった。
「さて、帰るかな。」
「迎えの車が用意してあります。指示に従って下さい。屋敷の外へ誘導します。」
「了解。」


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