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第十章兄弟
8何でもする
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「テオ、起きろ。」
庭師の親父が夜中に俺を起こした。
「なんだ?まだ夜……」
無言で手を引かれどこかへ連れていかれた。
暗い室内。誰かの気配がする。親父は俺を残し、離れて行った。
「ん……どこ。」
「ルーカの体調が良くない。」
オレオの声。血の気が引いた。
「!…そんな…治療して、良くなってきたって…」
「うん。それが、急に高熱が続いて。」
「オレオ!ルーに会いたい。」
「……今から向かっても、多分間に合わない。」
「そんな…」
「でも、お前が、いいと言ってくれたら…」
「何?オレオの言う通りにする。」
「………隣国の知り合いに移植に長けた医者がいる。ちょうど療養所の近くに滞在中なんだ。彼に頼んで毒の溜まった臓器を手術で取り替えることができたら……」
…移植……
「そんなことが…できるの?それやったら、死なないの?」
…医者……
「それは、わからない。難しい手術だから、上手くいかないかもしれない。」
…時間がない……
「失敗したら…」
…臓器……
「死ぬな。」
…手術……
「このままでは…」
…毒……
「死ぬ。」
…死ぬ……
「そんな!どうしたら!」
…死ぬ……
「考えている時間はない。手術するな?」
…時間…ない……死ぬ……
ぐるぐる頭の中で言葉が響く。偶然?医者?移植?何かわからないけど、重要な事をオレオが言っている。だけど、俺はルーが死ぬ恐怖に頭が真っ白になって、オレオにしがみついて、助けて、と言う他になかった。
「……お願い…します……俺、働くから!何でも…何でもする…オレオ!ルーを助けて!…元気な身体がいるなら……俺の身体、あげる。ルーにあげる。」
「テオ……何を……言っている?無理だよ。いくら兄弟だからって…そこまで……」
「……俺……産まれるときにルーの健康全部盗って産まれたんだ…だからルーの病気は……俺のせいなんだ。」
今まで誰にも言ったことない、ずっと思っていた事を口から吐き出していた。俺の分の毒もルーが………
俺はルーのために出来ることは何でもする。それは、家族だからとかとか、弟だからとか、他人が思っているような理由じゃない……生まれつき、たまたま、なんて、言われても、ルーだけ毒の体なんて納得出来ない。二人とも毒の身体で生まれたら、二人とも生きていけないから、ルーに全部毒を集めて、俺がルーを生かすためにルーの全てを引き受ける。そうしろと、神様が言っているんだと思った。俺が生きる為に、ルーを生かせと、全てを捧げろと、神様が言っているんだ……
「テオ……私が、なんとしてもルーの命を繋ぐ。だから、テオはルーの為じゃなく、私の為に働いてくれるか?どんなことでも…」
オレオの言葉が降りてくる。まるで神様の言葉……ルーの命を繋ぐために…オレオの為…ルーのためになる…なら……
「…」
「私の希望の為に…」
オレオの為に……働く…
「…それが、ルーを助けるためなら。やるよ。俺はルーの病気を治せない。でも、俺が、オレオの為に働けば、ルーが助かる。そうなんだ。でも俺に出来ることがあるの?」
「ある。お前にしかできないことが。ただ、辛いぞ?」
「ルーが生きてさえいれば、何だって、我慢できるよ。何でも言って。」
いつの間にか、辺りが明るくなっていた。ここは、見慣れたオレオの書斎だ……オレオの瞳が俺を見ている。
オレオが笑って、頭を撫でてくれた。大きな手。暖かい……その手に守られているような安心感を感じ、強ばっていた顔から力が抜けた。
「へへ、俺、大人に頭撫でてもらったの、初めてだ。」
オレオが驚いた顔をした。それがまた、俺には嬉しくて、少し笑った。
俺は感謝した。
彼の友人の医者に。
オレオに……感謝した。
この時の俺は……思いつきもしなかったんだ。
ルーの手術のための………臓器が……
どこからきたのか………
庭師の親父が夜中に俺を起こした。
「なんだ?まだ夜……」
無言で手を引かれどこかへ連れていかれた。
暗い室内。誰かの気配がする。親父は俺を残し、離れて行った。
「ん……どこ。」
「ルーカの体調が良くない。」
オレオの声。血の気が引いた。
「!…そんな…治療して、良くなってきたって…」
「うん。それが、急に高熱が続いて。」
「オレオ!ルーに会いたい。」
「……今から向かっても、多分間に合わない。」
「そんな…」
「でも、お前が、いいと言ってくれたら…」
「何?オレオの言う通りにする。」
「………隣国の知り合いに移植に長けた医者がいる。ちょうど療養所の近くに滞在中なんだ。彼に頼んで毒の溜まった臓器を手術で取り替えることができたら……」
…移植……
「そんなことが…できるの?それやったら、死なないの?」
…医者……
「それは、わからない。難しい手術だから、上手くいかないかもしれない。」
…時間がない……
「失敗したら…」
…臓器……
「死ぬな。」
…手術……
「このままでは…」
…毒……
「死ぬ。」
…死ぬ……
「そんな!どうしたら!」
…死ぬ……
「考えている時間はない。手術するな?」
…時間…ない……死ぬ……
ぐるぐる頭の中で言葉が響く。偶然?医者?移植?何かわからないけど、重要な事をオレオが言っている。だけど、俺はルーが死ぬ恐怖に頭が真っ白になって、オレオにしがみついて、助けて、と言う他になかった。
「……お願い…します……俺、働くから!何でも…何でもする…オレオ!ルーを助けて!…元気な身体がいるなら……俺の身体、あげる。ルーにあげる。」
「テオ……何を……言っている?無理だよ。いくら兄弟だからって…そこまで……」
「……俺……産まれるときにルーの健康全部盗って産まれたんだ…だからルーの病気は……俺のせいなんだ。」
今まで誰にも言ったことない、ずっと思っていた事を口から吐き出していた。俺の分の毒もルーが………
俺はルーのために出来ることは何でもする。それは、家族だからとかとか、弟だからとか、他人が思っているような理由じゃない……生まれつき、たまたま、なんて、言われても、ルーだけ毒の体なんて納得出来ない。二人とも毒の身体で生まれたら、二人とも生きていけないから、ルーに全部毒を集めて、俺がルーを生かすためにルーの全てを引き受ける。そうしろと、神様が言っているんだと思った。俺が生きる為に、ルーを生かせと、全てを捧げろと、神様が言っているんだ……
「テオ……私が、なんとしてもルーの命を繋ぐ。だから、テオはルーの為じゃなく、私の為に働いてくれるか?どんなことでも…」
オレオの言葉が降りてくる。まるで神様の言葉……ルーの命を繋ぐために…オレオの為…ルーのためになる…なら……
「…」
「私の希望の為に…」
オレオの為に……働く…
「…それが、ルーを助けるためなら。やるよ。俺はルーの病気を治せない。でも、俺が、オレオの為に働けば、ルーが助かる。そうなんだ。でも俺に出来ることがあるの?」
「ある。お前にしかできないことが。ただ、辛いぞ?」
「ルーが生きてさえいれば、何だって、我慢できるよ。何でも言って。」
いつの間にか、辺りが明るくなっていた。ここは、見慣れたオレオの書斎だ……オレオの瞳が俺を見ている。
オレオが笑って、頭を撫でてくれた。大きな手。暖かい……その手に守られているような安心感を感じ、強ばっていた顔から力が抜けた。
「へへ、俺、大人に頭撫でてもらったの、初めてだ。」
オレオが驚いた顔をした。それがまた、俺には嬉しくて、少し笑った。
俺は感謝した。
彼の友人の医者に。
オレオに……感謝した。
この時の俺は……思いつきもしなかったんだ。
ルーの手術のための………臓器が……
どこからきたのか………
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