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第八章 王妃
1 侯爵
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「イグナート!イグナート!レーデン侯爵を呼んで。」
大声で呼ぶ声が響く。王妃様のヒステリックな声。このところずっとこんな調子だ。以前は王宮内を自由に行き来し明るく社交的で、人の目にも触れることが多かったのだが、王の死後はずっと後宮に籠りっきりで、急に、イグナートに用がある時だけ、やって来る。
「王妃様、すぐにお呼びしますので、どうぞお部屋でお待ちください。」
お付きの近衛騎士が何度も声を掛けるが聞いていないようで、叫び続ける。
ソニーはこのところ、ずっとアーネス王子の警護で部屋の前に常駐している。ここまで王妃の声が聞こえるなんて、どれ程心を病んでいるのかと思い、彼はため息をついた。アーネス王子には聞かせたくないし、あんな姿も見せたくないと思った。
「レーデン侯爵。お待ちしておりました。」
「イグナート、悪いね。」
ソニーの目の前を宰相のイグナートと、レーデン侯爵が並んで通りすぎた。
王妃はレーデン侯爵がお気に入りのようで、度々呼びつけている。王が存命中はこそこそ会っていた様だが、このところ人の目を気にすることがない。恥知らずなレーデン侯爵が興味深そうに自分の顔を見て、ニヤリと笑ったので、ソニーは気分が悪くなった。
「あの、王子の近衛騎士、なんと言ったかな?」
「ソニー・ファライエですか?」
「そうそう。ソニー。」
「彼が、何か失礼でも?」
「いや、今度ゆっくり、話してみたいなと。彼だろう?あの奇跡の。」
「ああ、はい。コノセルギアから帰国した……」
「面白いじゃないか。」
「はい、勤務を調整してお話出来るよう手配いたします。……レーデン侯爵、今日これからのご予定は?」
「王妃次第だよ。王妃のお話相手は長くかかるからね、王が亡くなって気持ちが落ち込んでいらっしゃるから。」
「では、何か飲み物をお持ちいたします。」
「ああ。ワインがいいな。あと、軽食をたのむ。」
「はい。では厨房に伝えておきます。」
「イグナート、グレイの側付きだった彼。彼はどうしている?誰かの側に決まったのか?」
「いえ、現場に居合わせたものですから、ショックが大きく、しばらく暇を出しております。」
「そうか、彼も可哀想に。目の前で仕える主を亡くしたのだから、ショックだろう。彼を見舞いたいのだが、会えるかな?」
「ええ。ちょうど、連絡がありました。仕事に復帰したいと。」
「そうか、私の屋敷で働く者が急に体調を崩してね、誰か探していたのだよ。彼が良ければ、来てもらいたいな。」
「はい。彼に伝えておきます。ただ、彼は王宮を希望していましたから……」
「そうか、無理は言わないよ。だが、一度会って話してみたいな。」
「そうですね。その話は進めておきます。」
「そうだな。」
ちょうど、後宮の入口に着いた。イグナートは立ち止まり頭を下げた。
大声で呼ぶ声が響く。王妃様のヒステリックな声。このところずっとこんな調子だ。以前は王宮内を自由に行き来し明るく社交的で、人の目にも触れることが多かったのだが、王の死後はずっと後宮に籠りっきりで、急に、イグナートに用がある時だけ、やって来る。
「王妃様、すぐにお呼びしますので、どうぞお部屋でお待ちください。」
お付きの近衛騎士が何度も声を掛けるが聞いていないようで、叫び続ける。
ソニーはこのところ、ずっとアーネス王子の警護で部屋の前に常駐している。ここまで王妃の声が聞こえるなんて、どれ程心を病んでいるのかと思い、彼はため息をついた。アーネス王子には聞かせたくないし、あんな姿も見せたくないと思った。
「レーデン侯爵。お待ちしておりました。」
「イグナート、悪いね。」
ソニーの目の前を宰相のイグナートと、レーデン侯爵が並んで通りすぎた。
王妃はレーデン侯爵がお気に入りのようで、度々呼びつけている。王が存命中はこそこそ会っていた様だが、このところ人の目を気にすることがない。恥知らずなレーデン侯爵が興味深そうに自分の顔を見て、ニヤリと笑ったので、ソニーは気分が悪くなった。
「あの、王子の近衛騎士、なんと言ったかな?」
「ソニー・ファライエですか?」
「そうそう。ソニー。」
「彼が、何か失礼でも?」
「いや、今度ゆっくり、話してみたいなと。彼だろう?あの奇跡の。」
「ああ、はい。コノセルギアから帰国した……」
「面白いじゃないか。」
「はい、勤務を調整してお話出来るよう手配いたします。……レーデン侯爵、今日これからのご予定は?」
「王妃次第だよ。王妃のお話相手は長くかかるからね、王が亡くなって気持ちが落ち込んでいらっしゃるから。」
「では、何か飲み物をお持ちいたします。」
「ああ。ワインがいいな。あと、軽食をたのむ。」
「はい。では厨房に伝えておきます。」
「イグナート、グレイの側付きだった彼。彼はどうしている?誰かの側に決まったのか?」
「いえ、現場に居合わせたものですから、ショックが大きく、しばらく暇を出しております。」
「そうか、彼も可哀想に。目の前で仕える主を亡くしたのだから、ショックだろう。彼を見舞いたいのだが、会えるかな?」
「ええ。ちょうど、連絡がありました。仕事に復帰したいと。」
「そうか、私の屋敷で働く者が急に体調を崩してね、誰か探していたのだよ。彼が良ければ、来てもらいたいな。」
「はい。彼に伝えておきます。ただ、彼は王宮を希望していましたから……」
「そうか、無理は言わないよ。だが、一度会って話してみたいな。」
「そうですね。その話は進めておきます。」
「そうだな。」
ちょうど、後宮の入口に着いた。イグナートは立ち止まり頭を下げた。
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