結婚ー彼女と再会するまでの男の長い話ー

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幕間 エミリア

エミリアの憂鬱 1

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「エミリア様、ソルーシアがお目通りを願い出ております。」
「通せ。」
「かしこまりました。」

  事件の後延び延びになって、遅くなった結婚式の後、夫になったコノセルギアの王子の小物っぷりにガッカリしていた。そりゃあ、第二王子と隣国の第二王女の結婚なんて、政略結婚以外の何ものでもないわね。相手に夢は見ていなかったけど、兄様方を見ていたら……運が良ければ……なんて、ほんの少しは期待しても仕方ないと思うのよ。何せ誠実そのもののアレクお兄様、麗しのマークスお兄様を見て育ったものだから、輿入れ為の教育係に、ボンクラ王子の話しを散々言われても、その時は実感沸かなかったもの。
  顔はお手入れしているからかしら、美しいとは言えないものの、この国の第一王子よりは男前。でも、性格は最悪。何このマザコン。もう、嫌。でも帰れないから頑張るしかないわね。
  マークスお兄様が事故死して、アスターネスで国葬されて……私は帰れないから、あの時私は自室に閉じこもって、ずっと泣いていた。なのに、夫となる予定の奴は一度だって、声を掛けに来なかった。何?あれ。時間がたって気持ちが少し落ち着き、立ち直った今は、怒りしかない。事件の首謀者は今だに捕まっていないと言うし、地下に潜った革命の戦士だっけ?もう、さっさと討伐隊でも出して一掃してほしいわ。

  許可を与えたら、白衣の若い女性が入室してきた。
「エミリア様。」
側付きに目で合図をすると、側付きと共に部屋の中の世話係と護衛も退出した。部屋の中には彼女と二人きり。
「ソルーシア。どうなった?」
彼女は医療センターの責任者。若いけれど頼りになる。
「サンプルをとり、冬眠状態で処置してあります。このまま、何年でも保存ができます。この案件の全権はエミリア様にあると、聞いておりますが。」
「ええ。間違いないわ。王に渡してみすみす死なす事になんてしないわ。必ず、彼は生きて故郷に戻すの。」
「ええ。貴重な実験体です。」
「言葉に気をつけて。貴方には実験体でも。私にとっては大切な方なのよ。」
「エミリア様。」
「失言ね。どこで誰が聞いているかわからないわ。アスターネスの、大切な客人、ね。で?どう治療を進めるつもりなの?」
「残念ながら、現状では、打つ手なしです。ただ、ある大学で進められている研究が使えるかと。」
「わかったわ。時間はかかっても、研究費を何か理由を付けて……施設立ち上げて……優秀な人材引き抜いて……その話はまた、相談しましょう。ソルーシア、いくつかシュミレーションしてみて。」
「はい。」
「サンプルの扱いは慎重にね。」
「勿論。それと、例の検査員の処遇はいかがしましょうか。」
「監視はつけてるのよね。口止めだけで足りる?」
「今のところは。ただ、エサをぶら下げられたら、どう動くか。」
「そうねぇ。欲が出ると人は裏切るからねぇ。」
ねぇ?と、ソルーシアを見た。
「私はいつでも、自分の欲に忠実ですよ。」
ニタリと笑う。本当に、彼女に出会えたのはラッキーだった。彼女は彼女の研究が出来れば満足なのだ。だから彼女は金では動かない。彼女と私の行く道が同じなら、彼女は私を裏切らない。この、味方のいない国で、私が生きていけるのは、彼女のおかげ。そう。兄様のおかげよ。
「エミリア様。彼女は私の目の届く所に置きます。いいですか?」
「ええ。それでいいわ。ソニーの検査結果を知っているのは、彼女と貴方だけ、なのよね。」
「はい。彼女が検査担当者で、結果はすぐに私の元に上がってきましたから。その時に口止めもしましたから。」
「口の軽い女じゃなくてよかったわ。」
「私の部下ですから。弱みは握ってます。本人達は知らなくてもね。」
ソルーシアは本当は二百歳くらいなんじゃない?と思ってしまう。どうやったら、こんな怖い人物が出来上がるのだろう。研究者じゃなかったら、これはもう犯罪者よ。しかも実家がまた、裏家業に携わってるという(ナイショだけどね)から、恐ろしい。

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