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第七章 軍事演習
3 サーアへ
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アスターネスからサーアへ向かう戦艦内ではフォート将校と顔を会わせないように、マックと仲良くなった兵達はフォート将校の動向に注意し動線を工夫し、時間をずらすなどして頑張った。幸い、偶然出会ったりもしなかった。目につかなければフォート将校の怒りに触れずに済み、呼び出されたりすることもなかった。マックの移動には常に数人寄り添い、団子集団を見た人達はアイドルと護衛かよ、と思わず笑ったが、マックの側にいる彼らを少し羨ましく思っていた。マックの仕事はサーアに着いてからだったので、暇だろうと…艦内の厨房にひっぱり込まれ、調理師達と交流したり、若い兵士達に頼まれて新メニュー開発に協力したりして、ほとんど暇なしだった。
フォート将校他数名が、戦艦から輸送船でサーアの空港に降り立った。
迎えの車に乗り込み宿泊する豪華ホテルの中へ入る。
「フォート将校、こちらへ。」
案内人が挨拶して、フォート将校は特別屋に、マックは客室へ移動を始めた時。
廊下の奥から規則正しい力強い靴音が近づいてくるのが聞こえた。
遠くからでもわかる姿勢の良い長身。サーアの軍服に身を包み、ハニーブラウンの柔らかそうな髪を短くまとめた男が近づいてくる。部下を複数引き連れ、サーア軍の将校クラスの…式典で見覚えがあった…その男に気づいたフォート将校は立ち止まり。その男に向き直し、襟を正し、待ち受けた。
「!」
しかし、フォート将校は絶句した。てっきり自分の目の前で止まり、挨拶をするものと思っていたのに………まさか素通りされるとは!
「マック!」
男は両手を広げ、マックの正面に立つ。
「何!?」
フォート将校は無視された上に、信じられない光景に、動くことが出来なかった。自分の目の前にやってきていたその男の部下達が非礼を詫びていたが、そんな言葉も耳に入らない。
先に客室に向かっていたマックに駆け寄るように近付き、男はマックにキスをして頬をこすりつけるように抱きしめた。
「兄さん。久しぶりです。」
「マック。元気そうだ。もっと顔をよく見せて。」
「兄さんも元気そうですね。……力、強いで…す、い、痛い………」
兄と呼ばれた男は腕の力を緩め、顔を見合わせて二人は笑った。兄は嬉しげに、何度も頭を撫でながら、マックの頭にキスを落とす。
「兄、だと?」
フォート将校が信じられないと言う風に呟いた。
フォート将校はすぐに部下にサーアの将校の経歴を調べさせた。単時間では公表されている経歴しか、調べられなかったが、それでも、マックの兄というのは間違いなく、その内容に驚く。
マックの十二歳離れた一番上の兄、サツはアスターネスで生まれ、騎士養成学校で騎士見習いとなったのち、父の仕事のために、家族と共にシーラに移った。シーラの高年学校に入学、卒業。その後サーアの軍付属大学校に主席で入学し、そのまま卒業後軍人となった。その時にサーアの将軍ブルグの養子となり、名をサツ・テード・タージニア・ブルグと改めた。タージニア姓を残したのは先々、外交時に有用と考えてだろう。彼はアスターネス、シーラ、サーアの架け橋として重要な人物となる。今は亡き、元大統領の友人でもあった彼は、将校となった今、現防衛大臣とも交流があるという。
その内容にフォート将校は現在のサーア軍で強い発言力のある人物の弟、マックの重要性に身震いし、その利用価値を考え、この勝負に勝ったと思った。強国サーアに対し、切り札を手の内に持っているのはこちらだ。
さあ、どう攻略してやろうか。
フォート将校は口端が自然と上がり、知らず知らずに笑い声を上げていた。
「しかも、彼の兄、ジグは近衛騎士団長だ。一度にサーアとアスターネス両方の弱点を私は得た訳だ。」
フォート将校はすぐさま行動に移る。ある男を呼び出し、指示を与えた。彼は表に出せない裏の仕事を任せられる部下だ。
だが、彼は手の内にある切り札が自分を追い詰める手札でもある可能性に気付いていなかった。
フォート将校他数名が、戦艦から輸送船でサーアの空港に降り立った。
迎えの車に乗り込み宿泊する豪華ホテルの中へ入る。
「フォート将校、こちらへ。」
案内人が挨拶して、フォート将校は特別屋に、マックは客室へ移動を始めた時。
廊下の奥から規則正しい力強い靴音が近づいてくるのが聞こえた。
遠くからでもわかる姿勢の良い長身。サーアの軍服に身を包み、ハニーブラウンの柔らかそうな髪を短くまとめた男が近づいてくる。部下を複数引き連れ、サーア軍の将校クラスの…式典で見覚えがあった…その男に気づいたフォート将校は立ち止まり。その男に向き直し、襟を正し、待ち受けた。
「!」
しかし、フォート将校は絶句した。てっきり自分の目の前で止まり、挨拶をするものと思っていたのに………まさか素通りされるとは!
「マック!」
男は両手を広げ、マックの正面に立つ。
「何!?」
フォート将校は無視された上に、信じられない光景に、動くことが出来なかった。自分の目の前にやってきていたその男の部下達が非礼を詫びていたが、そんな言葉も耳に入らない。
先に客室に向かっていたマックに駆け寄るように近付き、男はマックにキスをして頬をこすりつけるように抱きしめた。
「兄さん。久しぶりです。」
「マック。元気そうだ。もっと顔をよく見せて。」
「兄さんも元気そうですね。……力、強いで…す、い、痛い………」
兄と呼ばれた男は腕の力を緩め、顔を見合わせて二人は笑った。兄は嬉しげに、何度も頭を撫でながら、マックの頭にキスを落とす。
「兄、だと?」
フォート将校が信じられないと言う風に呟いた。
フォート将校はすぐに部下にサーアの将校の経歴を調べさせた。単時間では公表されている経歴しか、調べられなかったが、それでも、マックの兄というのは間違いなく、その内容に驚く。
マックの十二歳離れた一番上の兄、サツはアスターネスで生まれ、騎士養成学校で騎士見習いとなったのち、父の仕事のために、家族と共にシーラに移った。シーラの高年学校に入学、卒業。その後サーアの軍付属大学校に主席で入学し、そのまま卒業後軍人となった。その時にサーアの将軍ブルグの養子となり、名をサツ・テード・タージニア・ブルグと改めた。タージニア姓を残したのは先々、外交時に有用と考えてだろう。彼はアスターネス、シーラ、サーアの架け橋として重要な人物となる。今は亡き、元大統領の友人でもあった彼は、将校となった今、現防衛大臣とも交流があるという。
その内容にフォート将校は現在のサーア軍で強い発言力のある人物の弟、マックの重要性に身震いし、その利用価値を考え、この勝負に勝ったと思った。強国サーアに対し、切り札を手の内に持っているのはこちらだ。
さあ、どう攻略してやろうか。
フォート将校は口端が自然と上がり、知らず知らずに笑い声を上げていた。
「しかも、彼の兄、ジグは近衛騎士団長だ。一度にサーアとアスターネス両方の弱点を私は得た訳だ。」
フォート将校はすぐさま行動に移る。ある男を呼び出し、指示を与えた。彼は表に出せない裏の仕事を任せられる部下だ。
だが、彼は手の内にある切り札が自分を追い詰める手札でもある可能性に気付いていなかった。
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