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おまけの話
マックの王宮レストラン 3
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「はじめてまして。マック・レディです。」
レストランの中、自己紹介をする。
「よろしく。お願いします。」
厨房の中は明るい雰囲気。だが、数人嫌な視線を感じる。そりゃそうだろう。今までシェフだった彼は面白くないだろう。
「彼に新しいレストランは一任する。皆、従うように。」
「ちょっと待って、イグナート。」
わざと呼びすてる。
「だが、マック、こういったことははっきりしておかないと。」
彼も合わせてくれる。理解が早くて助かる。
「私は、つい最近まで、ベルドンナにいました。ここのように身分の上下は、ありませんでした。ですから、私は誰でも意見を言い、皆さんと話し合う方が良いです。」
俺は一人一人顔を見て、微笑む。目が合うと、真っ赤になって、俯く者、視線を反らせずに固まる者、ポーっと意識が飛んじゃう者。うん。大体わかった。いい感じ。予想通り三人ほど睨む、眉をひそめる、大袈裟に笑う者がいる。
「お客様に、楽しい時間を過ごしてもらえるよう、居心地のいい、場所にしましょうね。」
「はい!」
うん。大方掌握終わり。イグナートを見ると、頷いた。俺は合格のようだ。さて、あとは……
「ちょっと、待って下さい。」
そらきた。
「急に、改装したり、シェフの交代とか、長く勤めてきた我々は納得していません。」
我々ときたよ。三人じゃん、納得してないの。
「誰でも意見を言えると、私は言いました。勿論貴方の意見も聞きますよ?」
「国際A級だか、何だか知りませんがね、出身はこの星だとしても、ほとんど他の星に居た訳。貴族でもなければ、王宮の作法も知らない。王族の食事をそんな人に任せられない。」
「そうですか、わかりました。」
ため息を一つ。我ながらクサイ演技。
「では、王族の食事は貴方にお任せしますね。私はレストラン専任でよろしい?」
「!?そ、それなら……いや……認めた訳では……」
いや、もう、アンタは掌の上よ?
「はい、話は終わり。」
イグナートは、え?それで?、という顔で俺を見た。大丈夫、と笑って返す。
「さあ、皆さん、今日はもう上がりですか?時間のある人は俺の就任祝に付き合って?」
「?」
「だって、こちらに戻ってから、家族のご飯くらいしか作ってないから、腕に油差しとかないと。」
家族の食事作るの最高に楽しいけれど、ここではそれは言わないよ。
「なんか作るよ。リクエストは?」
歓声があがった。
「なんでこうなる?」
イグナートがため息をつき、俺を見た。
レストランはまだ改装中。営業はしていません。なのに…この現状。
なぜ?宴会が始まった?という顔だな。
「いいじゃないの、楽しければ。」
美味しいものが食べられると何処からか聞き付けた人達を見る。
非番の騎士、出入りの商人、貴族に王族まで、なんでいる!?って顔をしているね、イグナート。美味しいは最強なんだってことを知ってるんだよ俺は。
夜遅くまで人が途切れることはなかった。
「ごめんね、皆、帰っていいからね。」
予期せぬ残業に、苦笑いの料理人達は慌てて家族に連絡していた。もちろん、俺もね。足りない人手は、騎士の方が勝手に動いてくれた。昔、養成学校で同期だった子がいたから協力してくれた。すげえな、騎士になったんだぁ、懐かしいなぁ。
「イグナート、おいしい?楽しんでる?」
今日一日で、仲良くなっちゃったよ、イグナートとも。
「ああ、今日の酒は最高だ。」
「えーお酒が?」
「ふ、料理も、お前も、最高だよ。」
「ありがと。俺もね、楽しいよ。」
こうして、営業前から評判になった王宮レストラン。
「おいおい、何楽しいことしてくれてるンだマック?」
「あ、兄さん。非番じゃなかったの?お姉さんも、こんばんは。」
ジグの登場に周りの人々がざわついた。
「家に行ったらまだ帰ってないと聞いて、イグナートに聞きに来たらさ…」
「俺もまさか、新しい職場が王宮にあるなんて、聞いてなかったから。」
「イグナート、お前の仕業か。」
「ああ、ジグには話しとけばよかったな。」
「遅いわ。」
「マックさん…って、近衛騎士団長の…?」
すぐ側で三人の話を聞いていた従業員の一人が恐る恐る聞いた。
「うん。ジグは俺の兄さんだよ。よろしくね。」
彼は驚きで声にならないままガクガクと頷き、今知ったばかりの情報を皆に伝えるために厨房に走って行った。
普段食べに来ない貴族や、まさかの王族まで引っ張り出したことにより、不満を持っていた元シェフとその仲間は、数日で居心地が悪くなり、辞職することになる。まあ、ここで働いた経歴があれば、どこでも雇ってもらえるし、そこで、好きなように振る舞えるさ。イグナートが上手いことやってくれるだろう。
・・・・・
名物となった王宮レストランに勤めて長い時間が過ぎた。毎日厨房に立つことはなくなり、気が向いた時だけ厨房に入り後は雑用をする。花壇の手入れをしてテーブルの花を選んだり、クロスを新しくしたり、自由に過ごしていたが、最近仲良くなった彼に食べて貰いたくて、厨房に入ることが多くなった。
「マック~」
「あ、また来た。」
「ねえ、娘に会わせてよ~」
「やだよ。」
「いいだろ~」
最近毎日やってくる彼はここが気にいったようだ。話していて楽しいし、何だか親近感がある。髪と目の色が俺と同じだからかな。でも顔はくりくりっとした目で、子リスみたいで可愛い。あ、別に浮気じゃないからね。
王族の食事も交代で担当する。小さな王子の担当は多目に入れてもらっている。なついて、俺を舌足らずにまぁくと呼ぶ。可愛いんだこれが。
その姿をイグナートは嬉しそうに眺めている。
あ、イグナート、彼ね、やっぱり、昔会ったことありました。シーラで助けてくれた人。なんか、見覚えがあると思った。助けてくれたとき、顔隠していたからはっきり見えなかったからね……でもあの瞳は覚えていた。だから、懐かしい感じがしたのかな。
とにかく、色々思い出話をしたし、今では頼れる友だ。
「ありがと。イグナート。」
「なにを今さら。デザート追加。」
「了解。少しお待ち下さい。」
王宮に訪れる際には是非お立ち寄り下さい。ステキなシェフと美味しい料理が貴方をお待ちいたしております。
…………………………………………………
マックの王宮レストランは3作目に出てきます。近々出します。少し予告編的におまけの話を作りました。
-結婚-
SF風味
あ、結婚ってタイトルだけど、誰か結婚するわけじゃなくて………再会、告白ときたら、結婚かな?って、ことで………はい………
よければ、こちらにも、お立ち寄り下さいませ。
レストランの中、自己紹介をする。
「よろしく。お願いします。」
厨房の中は明るい雰囲気。だが、数人嫌な視線を感じる。そりゃそうだろう。今までシェフだった彼は面白くないだろう。
「彼に新しいレストランは一任する。皆、従うように。」
「ちょっと待って、イグナート。」
わざと呼びすてる。
「だが、マック、こういったことははっきりしておかないと。」
彼も合わせてくれる。理解が早くて助かる。
「私は、つい最近まで、ベルドンナにいました。ここのように身分の上下は、ありませんでした。ですから、私は誰でも意見を言い、皆さんと話し合う方が良いです。」
俺は一人一人顔を見て、微笑む。目が合うと、真っ赤になって、俯く者、視線を反らせずに固まる者、ポーっと意識が飛んじゃう者。うん。大体わかった。いい感じ。予想通り三人ほど睨む、眉をひそめる、大袈裟に笑う者がいる。
「お客様に、楽しい時間を過ごしてもらえるよう、居心地のいい、場所にしましょうね。」
「はい!」
うん。大方掌握終わり。イグナートを見ると、頷いた。俺は合格のようだ。さて、あとは……
「ちょっと、待って下さい。」
そらきた。
「急に、改装したり、シェフの交代とか、長く勤めてきた我々は納得していません。」
我々ときたよ。三人じゃん、納得してないの。
「誰でも意見を言えると、私は言いました。勿論貴方の意見も聞きますよ?」
「国際A級だか、何だか知りませんがね、出身はこの星だとしても、ほとんど他の星に居た訳。貴族でもなければ、王宮の作法も知らない。王族の食事をそんな人に任せられない。」
「そうですか、わかりました。」
ため息を一つ。我ながらクサイ演技。
「では、王族の食事は貴方にお任せしますね。私はレストラン専任でよろしい?」
「!?そ、それなら……いや……認めた訳では……」
いや、もう、アンタは掌の上よ?
「はい、話は終わり。」
イグナートは、え?それで?、という顔で俺を見た。大丈夫、と笑って返す。
「さあ、皆さん、今日はもう上がりですか?時間のある人は俺の就任祝に付き合って?」
「?」
「だって、こちらに戻ってから、家族のご飯くらいしか作ってないから、腕に油差しとかないと。」
家族の食事作るの最高に楽しいけれど、ここではそれは言わないよ。
「なんか作るよ。リクエストは?」
歓声があがった。
「なんでこうなる?」
イグナートがため息をつき、俺を見た。
レストランはまだ改装中。営業はしていません。なのに…この現状。
なぜ?宴会が始まった?という顔だな。
「いいじゃないの、楽しければ。」
美味しいものが食べられると何処からか聞き付けた人達を見る。
非番の騎士、出入りの商人、貴族に王族まで、なんでいる!?って顔をしているね、イグナート。美味しいは最強なんだってことを知ってるんだよ俺は。
夜遅くまで人が途切れることはなかった。
「ごめんね、皆、帰っていいからね。」
予期せぬ残業に、苦笑いの料理人達は慌てて家族に連絡していた。もちろん、俺もね。足りない人手は、騎士の方が勝手に動いてくれた。昔、養成学校で同期だった子がいたから協力してくれた。すげえな、騎士になったんだぁ、懐かしいなぁ。
「イグナート、おいしい?楽しんでる?」
今日一日で、仲良くなっちゃったよ、イグナートとも。
「ああ、今日の酒は最高だ。」
「えーお酒が?」
「ふ、料理も、お前も、最高だよ。」
「ありがと。俺もね、楽しいよ。」
こうして、営業前から評判になった王宮レストラン。
「おいおい、何楽しいことしてくれてるンだマック?」
「あ、兄さん。非番じゃなかったの?お姉さんも、こんばんは。」
ジグの登場に周りの人々がざわついた。
「家に行ったらまだ帰ってないと聞いて、イグナートに聞きに来たらさ…」
「俺もまさか、新しい職場が王宮にあるなんて、聞いてなかったから。」
「イグナート、お前の仕業か。」
「ああ、ジグには話しとけばよかったな。」
「遅いわ。」
「マックさん…って、近衛騎士団長の…?」
すぐ側で三人の話を聞いていた従業員の一人が恐る恐る聞いた。
「うん。ジグは俺の兄さんだよ。よろしくね。」
彼は驚きで声にならないままガクガクと頷き、今知ったばかりの情報を皆に伝えるために厨房に走って行った。
普段食べに来ない貴族や、まさかの王族まで引っ張り出したことにより、不満を持っていた元シェフとその仲間は、数日で居心地が悪くなり、辞職することになる。まあ、ここで働いた経歴があれば、どこでも雇ってもらえるし、そこで、好きなように振る舞えるさ。イグナートが上手いことやってくれるだろう。
・・・・・
名物となった王宮レストランに勤めて長い時間が過ぎた。毎日厨房に立つことはなくなり、気が向いた時だけ厨房に入り後は雑用をする。花壇の手入れをしてテーブルの花を選んだり、クロスを新しくしたり、自由に過ごしていたが、最近仲良くなった彼に食べて貰いたくて、厨房に入ることが多くなった。
「マック~」
「あ、また来た。」
「ねえ、娘に会わせてよ~」
「やだよ。」
「いいだろ~」
最近毎日やってくる彼はここが気にいったようだ。話していて楽しいし、何だか親近感がある。髪と目の色が俺と同じだからかな。でも顔はくりくりっとした目で、子リスみたいで可愛い。あ、別に浮気じゃないからね。
王族の食事も交代で担当する。小さな王子の担当は多目に入れてもらっている。なついて、俺を舌足らずにまぁくと呼ぶ。可愛いんだこれが。
その姿をイグナートは嬉しそうに眺めている。
あ、イグナート、彼ね、やっぱり、昔会ったことありました。シーラで助けてくれた人。なんか、見覚えがあると思った。助けてくれたとき、顔隠していたからはっきり見えなかったからね……でもあの瞳は覚えていた。だから、懐かしい感じがしたのかな。
とにかく、色々思い出話をしたし、今では頼れる友だ。
「ありがと。イグナート。」
「なにを今さら。デザート追加。」
「了解。少しお待ち下さい。」
王宮に訪れる際には是非お立ち寄り下さい。ステキなシェフと美味しい料理が貴方をお待ちいたしております。
…………………………………………………
マックの王宮レストランは3作目に出てきます。近々出します。少し予告編的におまけの話を作りました。
-結婚-
SF風味
あ、結婚ってタイトルだけど、誰か結婚するわけじゃなくて………再会、告白ときたら、結婚かな?って、ことで………はい………
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