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おまけの話
俺達は何も知らない
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頭の中で早鐘が鳴り響く。身体がひどく重い。気分が悪く吐き気もする。
低温睡眠状態からの覚醒は、身体に負担をかけないよう通常は時間をかけて、ゆっくり行われる。いつもならば自然に、爽やかな朝の目覚めのように違和感なく起き上がることができるのだが、想定外の緊急時には短時間で覚醒するよう設定されていて、その場合は心地よい目覚めという訳にはいかない。それは頭の中で鐘を打ち鳴らされているようにズキズキとした傷みと、身体全体に石を乗せられているような負荷。身体が眠ったまま意識だけが起きているような不自由な状態が徐々にほどけていく感じだ。
「痛たた……な……?どうした?」
船内に鳴り響くコール音に、何事?と、のろのろと身体を動かしパネルに触れ表示を見た。
そこに並ぶ文字を理解した瞬間、同じように目覚めた同僚を振り返る。
「脱出ポッドが一つ射出されている。」
「何かあったのか?」
「クーロは?」
もう一人の同僚にクー・ロハラの居場所を聞いたが、俺と同じように今起きたばかりの彼は何も知らないようだった。彼の呼び出しコードをパネルに打ち込んだが、表示がないということは、船内から消えてしまった訳でないなら、脱出ポッドを使ったのはクーロということになる。
長距離運航中全員が低温睡眠装置に入りっぱなしという訳ではない。一年毎に、問題なく航行されているか確認するために順番に一人ずつ目覚める様に設定されている。クーロ、俺、同僚のリョウ、の順番のはずだった。
パネルを操作したリョウが、履歴表示を指差した。
「進路が変更されている……」
「おい、これって………」
それは、警備挺に何度も停止を呼び掛けられた後、進路を変更していた。警備挺に追いかけられ、それを振り切って普段は使わない航路に入り、脱出ポッドが射出されたようだ。
「クーロがやったのか!?」
「そうみたい……停止命令無視して、逃亡中……ってことか?俺達。クーロ何やったんだ?」
「クーロのせいなら、俺達は悪くないだろ……今すぐ出頭して……あ…ああ、…だめだ……」
「そうだ……だめだよ…」
二人は予備の装置で眠る二人の事を思い出した。
「緊急解除されて、もう……目覚めているかも……」
「やばいじゃん!バレたら……」
「顔見られない内に脱出ポッドに移して近くの星に……」
二人は慌てて、低温睡眠装置ごと現地人二人を脱出ポッドに乗せた。近くの無人の星に向けて射出するためだ。彼らの所持品の背負子を忘れず入れ、低温睡眠装置の扉のロックが着陸と同時に解除されるようにした。運が良ければ無人の星でも、生きられるだろう。
「あ、あれも……」
大事なことを思い出し、机の上の小さな箱を取りに行った。これが見つかったら、俺も言い逃れができない。
「おまえ……これ……」
「黙っててくれ。頼む。」
一目見てリョウは分かってしまったようだった。箱の中に入っているのは持ち出し禁止の固有種の花。鮮度を保つように赤いジェル状の液体で充填された透明な箱は、標本を採取や運搬するときに使われるものだ。使い方は簡単で、封を切り蓋を開け、赤いジェルの詰まった箱に対象物を入れる。ジェルの中に沈んだ対象物は空気から遮断され、時間を止めたかの様に枯れることも、色褪せることもない。蓋を閉めると、箱の中に入れた物の体積分が箱の外に流れ出てピタリと閉じられる。流れ出た液体はそのまま固まり、箱から剥がれ落ちる。地面に落ちたばかりの赤い塊は砂や石を周りにまとい、石のように硬くなる。見た目は普通の石に見えるそれは、調査に訪れる度に少量の指定されたサンプル採取をするため、探せば着陸した調査船の近くで見つかるだろう。
「わかったよ。さっさと脱出ポッドを射出しよう。ぐずぐずしていたら、警備挺に追い付かれる。ポッドを発見されないように、ステルスタイプにしとけよ。」
「了解。」
逃げ切れないのは分かっている。だが、ポッドの中身が見つからなければ、すべて先に逃げたクーロのせいにできるだろう。俺達は何も知らない。そう、俺達は何も知らずに巻き込まれただけなのだ。
低温睡眠状態からの覚醒は、身体に負担をかけないよう通常は時間をかけて、ゆっくり行われる。いつもならば自然に、爽やかな朝の目覚めのように違和感なく起き上がることができるのだが、想定外の緊急時には短時間で覚醒するよう設定されていて、その場合は心地よい目覚めという訳にはいかない。それは頭の中で鐘を打ち鳴らされているようにズキズキとした傷みと、身体全体に石を乗せられているような負荷。身体が眠ったまま意識だけが起きているような不自由な状態が徐々にほどけていく感じだ。
「痛たた……な……?どうした?」
船内に鳴り響くコール音に、何事?と、のろのろと身体を動かしパネルに触れ表示を見た。
そこに並ぶ文字を理解した瞬間、同じように目覚めた同僚を振り返る。
「脱出ポッドが一つ射出されている。」
「何かあったのか?」
「クーロは?」
もう一人の同僚にクー・ロハラの居場所を聞いたが、俺と同じように今起きたばかりの彼は何も知らないようだった。彼の呼び出しコードをパネルに打ち込んだが、表示がないということは、船内から消えてしまった訳でないなら、脱出ポッドを使ったのはクーロということになる。
長距離運航中全員が低温睡眠装置に入りっぱなしという訳ではない。一年毎に、問題なく航行されているか確認するために順番に一人ずつ目覚める様に設定されている。クーロ、俺、同僚のリョウ、の順番のはずだった。
パネルを操作したリョウが、履歴表示を指差した。
「進路が変更されている……」
「おい、これって………」
それは、警備挺に何度も停止を呼び掛けられた後、進路を変更していた。警備挺に追いかけられ、それを振り切って普段は使わない航路に入り、脱出ポッドが射出されたようだ。
「クーロがやったのか!?」
「そうみたい……停止命令無視して、逃亡中……ってことか?俺達。クーロ何やったんだ?」
「クーロのせいなら、俺達は悪くないだろ……今すぐ出頭して……あ…ああ、…だめだ……」
「そうだ……だめだよ…」
二人は予備の装置で眠る二人の事を思い出した。
「緊急解除されて、もう……目覚めているかも……」
「やばいじゃん!バレたら……」
「顔見られない内に脱出ポッドに移して近くの星に……」
二人は慌てて、低温睡眠装置ごと現地人二人を脱出ポッドに乗せた。近くの無人の星に向けて射出するためだ。彼らの所持品の背負子を忘れず入れ、低温睡眠装置の扉のロックが着陸と同時に解除されるようにした。運が良ければ無人の星でも、生きられるだろう。
「あ、あれも……」
大事なことを思い出し、机の上の小さな箱を取りに行った。これが見つかったら、俺も言い逃れができない。
「おまえ……これ……」
「黙っててくれ。頼む。」
一目見てリョウは分かってしまったようだった。箱の中に入っているのは持ち出し禁止の固有種の花。鮮度を保つように赤いジェル状の液体で充填された透明な箱は、標本を採取や運搬するときに使われるものだ。使い方は簡単で、封を切り蓋を開け、赤いジェルの詰まった箱に対象物を入れる。ジェルの中に沈んだ対象物は空気から遮断され、時間を止めたかの様に枯れることも、色褪せることもない。蓋を閉めると、箱の中に入れた物の体積分が箱の外に流れ出てピタリと閉じられる。流れ出た液体はそのまま固まり、箱から剥がれ落ちる。地面に落ちたばかりの赤い塊は砂や石を周りにまとい、石のように硬くなる。見た目は普通の石に見えるそれは、調査に訪れる度に少量の指定されたサンプル採取をするため、探せば着陸した調査船の近くで見つかるだろう。
「わかったよ。さっさと脱出ポッドを射出しよう。ぐずぐずしていたら、警備挺に追い付かれる。ポッドを発見されないように、ステルスタイプにしとけよ。」
「了解。」
逃げ切れないのは分かっている。だが、ポッドの中身が見つからなければ、すべて先に逃げたクーロのせいにできるだろう。俺達は何も知らない。そう、俺達は何も知らずに巻き込まれただけなのだ。
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