白の衣の神の子孫

キュー

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第四章 君と一緒に生きていきたい

偶然 3

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  仕事を終え、モートは店に戻った。ケータリングの仕事のある日は店は休み。郊外の古い小さい一軒家の洋食店。車を停めて荷物を運ぶ。店の外壁を照らすように外に付けられたライトのオレンジ色の光が、小さな店を浮かび上がらせる。
  ふと、店を見上げると、初めて訪れ目にした時の風景を思いだし、懐かしさが込み上げてくる。
  ずっと変わることない煉瓦の壁は蔦が繁り、季節毎に咲く小さな花々。門から続く小道を歩くと、風に揺れた花が甘い香りをはこぶ。どこにでもあるような田舎の小さな家の、我が家のような暖かな空間と料理が楽しめる店。どの料理も高い素材も使っていないのに、最高に美味しくて、その場で雇ってほしいと頼み込んだ。ハーブを植えたのは誰だったか、先輩が熱心に世話していた。修行中はその日に使う分を取りにいくのがモート仕事の一つだった。その先輩は一人立ちして、自分の店を構えた。

  店内に入り、厨房の片付けを終える。助手の二人は先に帰宅し、明かりをおとした店内は常備灯のみで薄暗い。テーブル席の間を歩き、見慣れた写真の前に立つ。

  この店ではモートは六代目。ここで食べた料理の味に惚れて、弟子入りしたのだ。彼の目の前には代々のシェフと従業員の写真が飾られている。穏やかな笑い顔の初代の老夫婦。二代目は人族と獣人族の夫婦。三代目は獣人族のハーフで独身だったそうだ。四代目は女性。五代目は同姓のパートナーと共に調理していた。そして、どの写真にも二代目の夫婦が一緒に写っている。彼らがこの店を訪れるたびに、皆で写真を撮った。どれも皆笑顔で家族写真のようだ。二代目は夫婦共に長寿種で、見た目には変わらないが、並べてみると歳を重ねていることがわかる。店の客や従業員と撮った五代目の写真には、当時見習いになったばかりのモートも隅っこに入っている。ただ、それを最後に写真は増えていない。それは彼がこの店を訪れていないから……もう、この世にはいないからだ。

  写真を見ながら、先程目にした二人の事を考える。
  男はマラジャ、少女はジュジュと名乗った。モートは二人にこの店に来て自分の料理を食べてもらいたかった。初めてここを訪れた時に食べた二代目の料理を忘れたことはない。二代目が偶然この店を訪れた同じ日に居合わせたモート。五代目のリクエストに答えて作った料理は客にもふるまわれた。その味、感動……15才の彼が生きる道を見つけたその日。それから再びここを訪れることなく、何年か後、二代目は長い人生を終えた。モートが初めて会った日が、別れの日となってしまった。

  マラジャとジュジュ。その二人の姿は、写真の中の、二代目の夫婦そのもので、時を越えて、年若い二人が目の前に現れたかのようだった。

  その彼らに自分の作った料理を食べてもらえたなら……美味しいと言ってもらえたなら……二代目がもう一度笑ってくれるような気がした。
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