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おまけの話
団長と俺 6
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「俺と団長は土砂を避けて川に飛び込みました。」
総団長に何があったかを聞かれ、俺は記憶をたどり、順を追って説明した。川に飛び込むところまでは覚えている。まあ、正確には団長が危険を察知して、すぐ隣にいた俺を掴んで一緒に増水していた川をめがけて飛んでくれたのだが………団長に引っ張り上げられ…水面になんとか浮上して見上げたその時、山の崩落が見えた。あのまま進んでいたらあれに巻き込まれた……助かったと思った。だが同時に仲間の上に土砂が迫る。ああ!飲み込まれる!そんなのは見たくない!…と思って目をぎゅっと閉じたところに強い波が押し寄せ水中に引き込まれた、今度は鉄砲水が来て、水に流され団長と離ればなれになったのだ。
でも、そのお陰で山から押し寄せた土砂に巻き込まれる前に水に流され助かったのたのだと、総団長から聞かされた。そうやって川に逃れられ助かったのは何人もいないという。そして、流れ込んだ大量の土砂は川に合流し、更に大きな泥の川となった。隊列の半分近くが土に巻き込まれ埋もれて………団長も…同僚の多くも……まだ見つかっていない。
「……あとは……覚えていません。」
総団長に俺は報告を終えた。総団長は動かすことのできない俺の顔を覗き込みながら話を聞いていた。いつの間にか、総団長の手にハンカチがあり、気がつけば目尻から流れ落ちる涙を……拭ってくれている。
『楽しいなあ。君とはこれから長い付き合いになるね。』
団長を誘って、送別会と称して騎士仲間が寮に酒を持ち込んで騒いでいた時。まだ挨拶くらいしかしていなかった俺も混ぜてもらっていた。
『はい。よろしくお願いします。』
『……君とは初めて会ったのに、君を見ていると昔から知っているような……不思議な感覚だよ。』
『酔っていらっしゃいます?』
『いや…大丈夫……』
『水でも貰ってきましょうか。』
『いや……いいよ。それより、話をしよう。』
団長は笑っていた。
『君は兄弟は?』
『上にも下にもおりますが、騒がしいばかりで、可愛くないし、いいことないです。』
『俺は……小さい頃兄弟がいる奴が羨ましかった。でも、両親にそれは言えなかったし、弟がいたら……なんて想像していたよ。楽しいだろうな。』
『毎日競争でしたよ。』
俺は一人っ子が羨ましかった。
『頭ちょっと撫でていいか?弟がいたらこんな感じかな……』
そう言って頭を撫でられた。それは優しい重みで、嫌な気はしなかった。……絶対しないだろうけども、俺の兄に撫でられても、こんな満ち足りた気持ちにはならないだろう。
『……酔っているな……俺は……』
団長は、すまん、とつぶやき、今日はもうお開きにしよう、と立ち上がった。
『また、今度、一緒に飲みにいこうな。』
『はい。是非。お願いします。』
俺の顔が真っ赤になっているのは、酒のせいに違いない。
「だ…だ…んちょぉぉ……おれ……」
「…体を休めて早く良くなれ。」
「おれ……なんか……」
「助かってよかった。」
「おれ…なんかが……生き残って……団長…は……どうして………おれは……」
「いいんだ。君は生きるんだ。」
どうして……ここに団長がいないんだろう……俺は……団長に命を救われたのに……思い出すのは笑い顔ばかりだ。今にも部屋の中にやって来て、バカだなあ、ほら、俺はここにいるぞ?元気になったら、一緒に飲みに行こうな?……そう言ってくれる……
「神様のご意志だ。君は生きるんだ。」
総団長に何があったかを聞かれ、俺は記憶をたどり、順を追って説明した。川に飛び込むところまでは覚えている。まあ、正確には団長が危険を察知して、すぐ隣にいた俺を掴んで一緒に増水していた川をめがけて飛んでくれたのだが………団長に引っ張り上げられ…水面になんとか浮上して見上げたその時、山の崩落が見えた。あのまま進んでいたらあれに巻き込まれた……助かったと思った。だが同時に仲間の上に土砂が迫る。ああ!飲み込まれる!そんなのは見たくない!…と思って目をぎゅっと閉じたところに強い波が押し寄せ水中に引き込まれた、今度は鉄砲水が来て、水に流され団長と離ればなれになったのだ。
でも、そのお陰で山から押し寄せた土砂に巻き込まれる前に水に流され助かったのたのだと、総団長から聞かされた。そうやって川に逃れられ助かったのは何人もいないという。そして、流れ込んだ大量の土砂は川に合流し、更に大きな泥の川となった。隊列の半分近くが土に巻き込まれ埋もれて………団長も…同僚の多くも……まだ見つかっていない。
「……あとは……覚えていません。」
総団長に俺は報告を終えた。総団長は動かすことのできない俺の顔を覗き込みながら話を聞いていた。いつの間にか、総団長の手にハンカチがあり、気がつけば目尻から流れ落ちる涙を……拭ってくれている。
『楽しいなあ。君とはこれから長い付き合いになるね。』
団長を誘って、送別会と称して騎士仲間が寮に酒を持ち込んで騒いでいた時。まだ挨拶くらいしかしていなかった俺も混ぜてもらっていた。
『はい。よろしくお願いします。』
『……君とは初めて会ったのに、君を見ていると昔から知っているような……不思議な感覚だよ。』
『酔っていらっしゃいます?』
『いや…大丈夫……』
『水でも貰ってきましょうか。』
『いや……いいよ。それより、話をしよう。』
団長は笑っていた。
『君は兄弟は?』
『上にも下にもおりますが、騒がしいばかりで、可愛くないし、いいことないです。』
『俺は……小さい頃兄弟がいる奴が羨ましかった。でも、両親にそれは言えなかったし、弟がいたら……なんて想像していたよ。楽しいだろうな。』
『毎日競争でしたよ。』
俺は一人っ子が羨ましかった。
『頭ちょっと撫でていいか?弟がいたらこんな感じかな……』
そう言って頭を撫でられた。それは優しい重みで、嫌な気はしなかった。……絶対しないだろうけども、俺の兄に撫でられても、こんな満ち足りた気持ちにはならないだろう。
『……酔っているな……俺は……』
団長は、すまん、とつぶやき、今日はもうお開きにしよう、と立ち上がった。
『また、今度、一緒に飲みにいこうな。』
『はい。是非。お願いします。』
俺の顔が真っ赤になっているのは、酒のせいに違いない。
「だ…だ…んちょぉぉ……おれ……」
「…体を休めて早く良くなれ。」
「おれ……なんか……」
「助かってよかった。」
「おれ…なんかが……生き残って……団長…は……どうして………おれは……」
「いいんだ。君は生きるんだ。」
どうして……ここに団長がいないんだろう……俺は……団長に命を救われたのに……思い出すのは笑い顔ばかりだ。今にも部屋の中にやって来て、バカだなあ、ほら、俺はここにいるぞ?元気になったら、一緒に飲みに行こうな?……そう言ってくれる……
「神様のご意志だ。君は生きるんだ。」
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