41 / 81
おまけの話
団長と俺 2
しおりを挟む
俺はその日、藤黄の団長と行動を共にしていた。
南部に向かう隊列は順調に進み、朝から空は晴れて気温も上がっていたこともあり、馬も疲れているだろうと休憩を早めに取った。
俺が新たに配属された先で始めて言葉を交わした藤黄の上衣、マ・アーク・ジャジャ団長は年若く二十八歳だという。騎士になって賜る枯茶の上衣から一つ上の烏羽の上衣を身に纏えるようになるまで五年かかった俺が、特別遅い訳ではなく、この目の前の藤黄の団長が規格外なのだと思う。まあ、陰でこっそり化け物と呼ばれる、紫紺の上衣の総団長は例外中の例外である。
藤黄の団長は身の回りの世話をする側付きを連れていなかったので、そのために俺は新しい藤黄の隊に配属されたと思っていた。なぜなら俺は藤黄の団長に配される前は王都にいて、貴族で橙の上衣の団長の側付きをしていたから。
すぐに飲み物を用意しようといち早く近寄ったが、新しい藤黄の団長は手を上げ笑うと、皆と同じに自らの荷物に手を入れた。
「あの、私が……」
団長に声を掛けた俺に、自分は平民出身だから世話は不要だよ、と言う。吸い込まれそうな朱色の目と、邪気のない笑顔が自然で、俺は団長から目が離せなかった。
団長や隊長などといった人を束ねる長と呼ばれる方のほとんどは貴族で平民出身の団長は珍しい。上位の貴族騎士は身の回りを側付きにさせる環境で育っているので、騎士になったからといって、すぐに身の回りの事を自分で出来るようになりはしない。そのため移動は従者付きで大人数になり馬車まで使ってそれは大変なのだ。そのため、俺の様な下位貴族の騎士を側付きとして使えば都合がいい。そうすれば、侍女を連れていかなくてもよくなり、男性ばかりの中に女性を住まわす事による若い騎士への影響といった諸問題も起こりにくい。俺も上位貴族の騎士に目を掛けてもらい、引き立ててもらえるよう期待し、一通り侍者の仕事を身に付けている。ただ、男ばかりの環境で、常に側に付くということは意に沿わぬ行為を強要されかねない、そんな危険も含まれるということだ。上位の貴族にはさからえないので、そんな相手に当たってしまうと不運と諦める他はない。幸い俺はそんな危険な目にも会わずに済んでいる。
団長の中には自分は王都に残り副団長にすべて任せるとか、ろくに日々の訓練に参加しないとか、肩書だけの団長もいるのは、家を継げない次男三男…の安定した就職先といった現状もあるのだろう。
実際前の前の藤黄の団長は一旦辺境勤務についたものの、嫌になって一年もしない内に体調不良を理由に移動したそうだ。王都に戻って、えらくピンピンした姿を見たけどね。
南部に向かう隊列は順調に進み、朝から空は晴れて気温も上がっていたこともあり、馬も疲れているだろうと休憩を早めに取った。
俺が新たに配属された先で始めて言葉を交わした藤黄の上衣、マ・アーク・ジャジャ団長は年若く二十八歳だという。騎士になって賜る枯茶の上衣から一つ上の烏羽の上衣を身に纏えるようになるまで五年かかった俺が、特別遅い訳ではなく、この目の前の藤黄の団長が規格外なのだと思う。まあ、陰でこっそり化け物と呼ばれる、紫紺の上衣の総団長は例外中の例外である。
藤黄の団長は身の回りの世話をする側付きを連れていなかったので、そのために俺は新しい藤黄の隊に配属されたと思っていた。なぜなら俺は藤黄の団長に配される前は王都にいて、貴族で橙の上衣の団長の側付きをしていたから。
すぐに飲み物を用意しようといち早く近寄ったが、新しい藤黄の団長は手を上げ笑うと、皆と同じに自らの荷物に手を入れた。
「あの、私が……」
団長に声を掛けた俺に、自分は平民出身だから世話は不要だよ、と言う。吸い込まれそうな朱色の目と、邪気のない笑顔が自然で、俺は団長から目が離せなかった。
団長や隊長などといった人を束ねる長と呼ばれる方のほとんどは貴族で平民出身の団長は珍しい。上位の貴族騎士は身の回りを側付きにさせる環境で育っているので、騎士になったからといって、すぐに身の回りの事を自分で出来るようになりはしない。そのため移動は従者付きで大人数になり馬車まで使ってそれは大変なのだ。そのため、俺の様な下位貴族の騎士を側付きとして使えば都合がいい。そうすれば、侍女を連れていかなくてもよくなり、男性ばかりの中に女性を住まわす事による若い騎士への影響といった諸問題も起こりにくい。俺も上位貴族の騎士に目を掛けてもらい、引き立ててもらえるよう期待し、一通り侍者の仕事を身に付けている。ただ、男ばかりの環境で、常に側に付くということは意に沿わぬ行為を強要されかねない、そんな危険も含まれるということだ。上位の貴族にはさからえないので、そんな相手に当たってしまうと不運と諦める他はない。幸い俺はそんな危険な目にも会わずに済んでいる。
団長の中には自分は王都に残り副団長にすべて任せるとか、ろくに日々の訓練に参加しないとか、肩書だけの団長もいるのは、家を継げない次男三男…の安定した就職先といった現状もあるのだろう。
実際前の前の藤黄の団長は一旦辺境勤務についたものの、嫌になって一年もしない内に体調不良を理由に移動したそうだ。王都に戻って、えらくピンピンした姿を見たけどね。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!

ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

スマートシステムで異世界革命
小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 ///
★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★
新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。
それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。
異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。
スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします!
序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです
第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練
第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

魔術師セナリアンの憂いごと
野村にれ
ファンタジー
エメラルダ王国。優秀な魔術師が多く、大陸から少し離れた場所にある島国である。
偉大なる魔術師であったシャーロット・マクレガーが災い、争いを防ぎ、魔力による弊害を律し、国の礎を作ったとされている。
シャーロットは王家に忠誠を、王家はシャーロットに忠誠を誓い、この国は栄えていった。
現在は魔力が無い者でも、生活や移動するのに便利な魔道具もあり、移住したい国でも挙げられるほどになった。
ルージエ侯爵家の次女・セナリアンは恵まれた人生だと多くの人は言うだろう。
公爵家に嫁ぎ、あまり表舞台に出る質では無かったが、経営や商品開発にも尽力した。
魔術師としても優秀であったようだが、それはただの一端でしかなかったことは、没後に判明することになる。
厄介ごとに溜息を付き、憂鬱だと文句を言いながら、日々生きていたことをほとんど知ることのないままである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる