白の衣の神の子孫

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おまけの話

団長と俺 2

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  俺はその日、藤黄とうおうの団長と行動を共にしていた。

  南部に向かう隊列は順調に進み、朝から空は晴れて気温も上がっていたこともあり、馬も疲れているだろうと休憩を早めに取った。

  俺が新たに配属された先で始めて言葉を交わした藤黄の上衣、マ・アーク・ジャジャ団長は年若く二十八歳だという。騎士になって賜る枯茶からちゃの上衣から一つ上の烏羽からすばの上衣を身に纏えるようになるまで五年かかった俺が、特別遅い訳ではなく、この目の前の藤黄の団長が規格外なのだと思う。まあ、陰でこっそり化け物と呼ばれる、紫紺しこんの上衣の総団長は例外中の例外である。
  藤黄の団長は身の回りの世話をする側付きを連れていなかったので、そのために俺は新しい藤黄の隊に配属されたと思っていた。なぜなら俺は藤黄の団長に配される前は王都にいて、貴族でだいだいの上衣の団長の側付きをしていたから。
  すぐに飲み物を用意しようといち早く近寄ったが、新しい藤黄の団長は手を上げ笑うと、皆と同じに自らの荷物に手を入れた。

「あの、私が……」

  団長に声を掛けた俺に、自分は平民出身だから世話は不要だよ、と言う。吸い込まれそうな朱色の目と、邪気のない笑顔が自然で、俺は団長から目が離せなかった。

  団長や隊長などといった人を束ねる長と呼ばれる方のほとんどは貴族で平民出身の団長は珍しい。上位の貴族騎士は身の回りを側付きにさせる環境で育っているので、騎士になったからといって、すぐに身の回りの事を自分で出来るようになりはしない。そのため移動は従者付きで大人数になり馬車まで使ってそれは大変なのだ。そのため、俺の様な下位貴族の騎士を側付きとして使えば都合がいい。そうすれば、侍女を連れていかなくてもよくなり、男性ばかりの中に女性を住まわす事による若い騎士への影響といった諸問題も起こりにくい。俺も上位貴族の騎士に目を掛けてもらい、引き立ててもらえるよう期待し、一通り侍者の仕事を身に付けている。ただ、男ばかりの環境で、常に側に付くということは意に沿わぬ行為を強要されかねない、そんな危険も含まれるということだ。上位の貴族にはさからえないので、そんな相手に当たってしまうと不運と諦める他はない。幸い俺はそんな危険な目にも会わずに済んでいる。

  団長の中には自分は王都に残り副団長にすべて任せるとか、ろくに日々の訓練に参加しないとか、肩書だけの団長もいるのは、家を継げない次男三男…の安定した就職先といった現状もあるのだろう。
  実際前の前の藤黄の団長は一旦辺境勤務についたものの、嫌になって一年もしない内に体調不良を理由に移動したそうだ。王都に戻って、えらくピンピンした姿を見たけどね。



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