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第二章 見知らぬ土地へ
神殿への道 8
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「長、これが服の中にありました。」
集落の長ズズの所に、若い男衆の一人が持ってきた物を見た。
人の顔が描かれた薄い四角い板と、文字の刻まれた小さな木の板。一族を表す赤い宝石のネックレス。
「これは、彼の顔を絵にしたものか。それと、この板には文字が……」
文字を必要としないこの集落の識字率は低い。辛うじて数の表記の認識はできるし、文字よりも決められた記号や簡単な線の絵が使われるので、集落のなかで生活する分には、文字を覚える必要がないのだ。物々交換をするために村や街に行く場合は集落に何人かいる文字を習った者が行くことになっている。
「何と書かれているのですか?」
「マ……ラ……ジャ」
「……彼の名前でしょうか。」
「ジュジュ、交代。」
入り口の垂れた布をめくって、猫系の獣人がヒョコっと顔を出した。
「ありがとう。今日の神殿の捧げ物は誰が行っているの?」
「ルールー。」
「ああ、あの子ね。」
手早く水桶と汚れた布を持ち上げたジュジュが交代するために立ち上がる。
「このまま、彼女に引き継いじゃえば?」
「そうね。」
同じく手桶と洗濯済みの布を手にミーミーが部屋に入って来た。
ジュジュは今までお役目を受け継いでから一日も休まず、神殿に通っていた。しかし、神の子の看病を優先させよと長に言われ、二歳下のルールーとイーリーにお役目をお願いしたのだ。
「神の子が目覚めたら教えてね。」
「ええ。」
ジュジュはこれから仮眠を取って、夜に付き添う事になっている。
翌日、使いは大石の村から人族二人を連れて帰った。黒髪の女がレイラ、その息子がトレク。今回来なかった一人は足が悪く、大石の村に残ったとのことだ。
「村長から薬を預かって来ました。」
レイラが衣類と共にジュジュに手渡した。
「ありがとう。着替えを手伝ってもらえますか?」
「ええ。先に拭き清めましょう。トレク、反対側にまわって……」
三人は強力して神の子の体を拭き、レイラが村から持ってきた人族の服を着せ始めた。
その後薬を飲ませ、再び様子をみる。
「ジュジュ……神の子の様子はどうだ?」
「葵の長、お久しぶりです。」
「ああ、レイラ、トレク。この度は、世話をかけるな。」
「どちらからこの方はいらっしゃったのでしょうか?」
「それが、わからないのだ。ここに着いた時には意識が混濁していたのでな。」
集落の長ズズの所に、若い男衆の一人が持ってきた物を見た。
人の顔が描かれた薄い四角い板と、文字の刻まれた小さな木の板。一族を表す赤い宝石のネックレス。
「これは、彼の顔を絵にしたものか。それと、この板には文字が……」
文字を必要としないこの集落の識字率は低い。辛うじて数の表記の認識はできるし、文字よりも決められた記号や簡単な線の絵が使われるので、集落のなかで生活する分には、文字を覚える必要がないのだ。物々交換をするために村や街に行く場合は集落に何人かいる文字を習った者が行くことになっている。
「何と書かれているのですか?」
「マ……ラ……ジャ」
「……彼の名前でしょうか。」
「ジュジュ、交代。」
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「ありがとう。今日の神殿の捧げ物は誰が行っているの?」
「ルールー。」
「ああ、あの子ね。」
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「このまま、彼女に引き継いじゃえば?」
「そうね。」
同じく手桶と洗濯済みの布を手にミーミーが部屋に入って来た。
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「神の子が目覚めたら教えてね。」
「ええ。」
ジュジュはこれから仮眠を取って、夜に付き添う事になっている。
翌日、使いは大石の村から人族二人を連れて帰った。黒髪の女がレイラ、その息子がトレク。今回来なかった一人は足が悪く、大石の村に残ったとのことだ。
「村長から薬を預かって来ました。」
レイラが衣類と共にジュジュに手渡した。
「ありがとう。着替えを手伝ってもらえますか?」
「ええ。先に拭き清めましょう。トレク、反対側にまわって……」
三人は強力して神の子の体を拭き、レイラが村から持ってきた人族の服を着せ始めた。
その後薬を飲ませ、再び様子をみる。
「ジュジュ……神の子の様子はどうだ?」
「葵の長、お久しぶりです。」
「ああ、レイラ、トレク。この度は、世話をかけるな。」
「どちらからこの方はいらっしゃったのでしょうか?」
「それが、わからないのだ。ここに着いた時には意識が混濁していたのでな。」
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